『……』
食事も終わり普段頼まないデザートまで注文し、とうとういつもなら自宅で夕食を摂っている時間帯に差し掛かった。
しかし、女子小学生たちは帰る素振りを見せない。この夜道を子供だけで帰宅するのだろうか。いや、流石に親御さんが迎えに来るだろう。俺に娘がいたら絶対そうする。
まぁ、他人の家庭事情まで想像するのは越権が極まる。ここは大人しく何も考えず、ただ盗聴に集中すれば良い。俺は再び意識を背後へと集中させた。
どうやら、仕事談義が盛り上がっているらしい。
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「はい、私もやりたい仕事あります!」
「へぇ、なによ」
「私、警察官になりたい!」
「警察官〜?」
「せらちゃん、拳銃とか無くしそう」
「1日一回冤罪を生みそう」
「私の評価、そんななの?」
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「じゃあ交番にいるから適当にお客さんやって」
「……すみませ〜ん」
「へい! いらっしゃい!」
『寿司屋か』
「……あの、駅にはどう行けば良いですか?」
「駅なら目と鼻のその先にありますよ」
「ちょっと遠そうじゃん」
「うーん、その説明じゃ分からないです」
「駅なんてバーっと行ってガーッと曲がってドーンや」
『急に大阪か』
「ちゃんと行き方教えなさいよ」
「自分らしく生きて下さい」
「生き方は聞いとらんわ」
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「私アレやりたい。被疑者の身体を拘束すると共に短期間の拘束を継続する強制処分」
『【逮捕】の辞書?』
「じゃあ一番思想犯っぽいまこちゃん犯人役ね〜」
「私への評価、そんななの?」
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「警部、こいつ大麻持ってました」
「やめて下さい! 冤罪です!」
「じゃあなんで大麻なんて持ってたんだ? 布教用か?」
「なにかのファンっぽい言い方だけどそれ売人じゃん」
「違います! 大葉と間違えて大麻を買っただけです!」
「そんな間違いあるか」
『どこのスーパーだよ』
「求刑、死刑」
『薬物への罰が中国じゃん』
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「せっかく警察やるんだから、もっと大事件を担当したい」
「例えば?」
「爆弾処理とか! 昨日見たドラマでもやってたよ。二本の線、どっちを切れば爆弾が止まるんだ〜みたいな」
「いいね。だったら私はオペレーターやるー」
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「大変です! 爆弾が見つかりました!」

「解除できないタイプはやめて」
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「大変です! 爆弾が見つかりました!」

「二本の導線、どちらかを切れば止まる仕組みです!」
「手に汗握る展開ね」
「爆発までの猶予はどれくらいですか?」
「あと、100時間後に爆発します!」
「握った手の汗が全部乾いた」
「時間がない! イチかバチか赤を切ります!」
『最悪のせっかち』
「100%の成功率を50%に下げないで」
「落ち着いて、まずは何色の導線があるか教えて」
「R=215 B=80 と R=200 G=155 の二本です!」
「印刷業者の色指定」
「日本語でおk」
『昔のネット民か』
「瓶覗色と朽葉色の二本です」
「まさかのマイナーカラー」
「爆弾処理班が向かってるから待機して! お願い……間に合って!」
「願わなくても間に合うわ」
「時間がない! なんか分かんないので二本とも切ります!
「50%の成功率を0%に下げるな」
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『……』
こんな警察官がいる街なら、ある意味平和かもしれない。