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第83話:「時間を取り戻して、特級天使さんには3倍返し」

 涙と共にあふれる記憶。

 止まらない、止められない、止めちゃいけない。

「コアマスター、私がいます、大丈夫ですよ」


 小さな声で呟いて、サキ姐さんが私ちゃんを抱きしめてくれた。

「サキ姐ざん、ごべんなさい……」

「いえ、泣きたい時には泣いても良いのです。それに――」

 サキ姐さんが優しい声色で、ゆっくりと囁いてくれる。私ちゃんを泣かせる言葉を。

「――ダンジョンマスターのことも、コアマスターは思い出せたみたいですからね♪」


 ダンジョンマスターという言葉に、また私ちゃんの目から涙があふれてくる。

「うぐっ、ぐしゅっ、ふぇぇぇ……」

 サキ姐さんが私ちゃんを抱きしめたまま、よしよしとしてくれる。

「コアマスター、知っていましたか? 女の子って、いっぱい泣かないと、前に進めない生き物なんですよ♪」

「ぅ、ううっ、ありがどうございまず……」

 今だけは――そう、今だけは――もうしばらく、こうさせていて下さい。


 薄暗い住居地区ダンジョンの中。

 なるべく早くこうもりさんでDPを稼がなきゃ。私ちゃんが魔物さん達に前回用意してあげていた「宿舎」とは、比べるのもおこがましい寂しい場所。

 頑張ろう、私ちゃん。強くなろう、私ちゃん。

 前を向こう、私ちゃん。


 ――そして10分くらい過ぎた。私ちゃん、復活の刻っ!

「さ~て、私ちゃん泣き止んで、大復活したのです(≧ω)!!」

 ちょっと目元が泣きすぎてヒリヒリするけれど……私ちゃんはいつまでも足を止めているような子どもじゃない。おにーさんにお似合いな『立派な大人の淑女(になる予定)』なのだからッ!


「もう、コアマスターは気合が入り過ぎですよ?」

 気合を入れて頬を軽く叩いた私ちゃんに、サキ姐さんが小さく苦笑した。

「いいえ、私ちゃんはサキ姐さんにも、心配をかけたのです。すみませ……じゃなくて、『ありがとう』と言わせて欲しいのです」

 今の私ちゃん達は、たった3階層の貧弱なダンジョンに立っている。

 でも、ここが私ちゃんの始まりの場所。だから私ちゃんは、胸を張って再チャレンジするのです。


「やっぱり、コアマスターには、前向きな言葉が似合っています♪」

「んふふ~っ、流石サキ姐さんは分かっているのです♪」

 笑顔のサキ姐さんと視線を交わす。そして私ちゃんは、これからの事について話を振ることにした。

「ところでサキ姐さん。これから、私ちゃんは、『おにーさん』の再召喚を計画しています」

 私ちゃんの言葉に、サキ姐さんの表情が一瞬で引き締まる。

 そして、言葉の続きを視線で促してきた。


 小さく深呼吸をしてから、私ちゃんは今後の方向性を口にした。

「まずは、『現状の把握』を可能な限りすることが大切です」

 状況を把握できていないのに今後の計画を立てることは、机上の空論になりかねない。地図を持たずに知らない土地を歩くことと同じか、それ以上に厄介な難易度だと言える。


「私ちゃんの記憶と予測が正しければ、今回の時間遡行は恐らく【何らかのスキル】をエゼルさんが発動させたことが原因です」

「エゼルさんが……何かのスキルをですか?」

「そう――って、サキ姐さんは、先に消えてしまったので、見ていなかったのでしたね」

「はい。私が殺されたと感じた次の瞬間には、コアマスターに再召喚された状態でしたから……」

「相手の特級天使さんが、時間を巻き戻す攻撃をしてきたのです。それを受けたことで、サキ姐さんは消えてしまったのですが――エゼルさんも、最後に消えてしまう瞬間に【時間を巻き戻す黒い羽】を生み出したのです」


「……その後、コアマスターはどうなったのですか?」

 恐る恐るといった表情でサキ姐さんが聞いてきた。

 多分、私ちゃんが特級天使にコロコロされたのではないかと心配してくれているのだろうと思う。

 でも、実際はそうではない。


「私ちゃんの記憶は、エゼルさんの黒い羽がおにーさんに触れる、その瞬間までです。多分、そのタイミングで世界の時間軸が巻き戻されたのだと思います」

「……でも、どこか不完全な(・・・・・・・)戻り方ですよね?」

 薄々気付いているのだろうけれど、確認のために聞き返してくるサキ姐さん。

 私ちゃんは1度頷いてから、自分でも気付いている事実を口にする。


「そうです、私ちゃん達の時間は『いびつ』に巻き戻されているのです。完全に巻き戻されているのなら、サキ姐さんは記憶を保持していなかったでしょうし、私ちゃんも記憶とそれに紐づけれたレベル(・・・)を、短時間で取り戻すことはできなかったと思います」

 そう口にして、自分の「簡易ステータス」をサキ姐さんにも見えるように表示させる。


「――っ!? コアマスターも、ステータスが高いまま……いえ違う、この一瞬で取り戻されたのですか!? さっきまでは、ステータスはとても低かったですよね??」

「そうなのです。記憶が戻るまでは、私ちゃんのレベルは一桁だったのですが――いっぱい泣いて記憶を取り戻したら、レベルが元に戻ったのです」

 思わず、自分の取り戻したステータスを見て、苦笑してしまう。



===

【カンディル・バイオレッド】

種族:吸血姫型ダンジョンコア

性別:女

属性:闇・魅


レベル:520

HP:52000

MP:52000

SP:26000

 ※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。

===



 ちらりと詳細鑑定の方も覗いてみたけれど、ダンジョン研修が明けた初日に、こんな凶悪なステータスを持っているDCは過去に1人もいないと思う。

 いや、中規模ダンジョンの上位陣でも、このレベルはなかなかいない。本当に、おにーさんの知識と裏技のおかげです。


 加えて、エゼルさんが無理に巻き戻したせいで『いびつ』で『脆い』システムになっている今度の新しい世界。

 システマティックなDC心をくすぐる、ワクワクするようなたくさんの抜け穴がありそうです。

 例えば、ほぼ確実に私ちゃん以外にも『魔物幹部や魔物のみんな』そして『エゼルさんとおにーさん』は、ステータスを一気に上げることが出来るでしょう。

 記憶を取り戻すという方法が上手く行けば。いえ、絶対に上手く行かせます。


 だから待っていて下さい、おにーさん。

 おにーさんを再召喚して、エゼルさんの記憶を取り戻して、女勇者の鹿島さんを説得して。

 今度こそは、倒すのです。


「絶対に、おにーさんとの時間を取り戻して、特級天使さんには3倍返しをしてやるのです♪」



(次回に続く)

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