第82話:「私ちゃんの『おにーさん』っ……」
「さぁ――それでは、こうもりさん達を統括する仲間を召喚しますかね♪――【召喚:サキュバス】!!」
900Pを消費して、魔物のサキュバスさんを召喚する。
私ちゃんの学んだ知識では、魔物のサキュバスさんはDCのサキュバスとは違うはずだから……仲良くできたらいいなぁ。
どんなサキュバスさんがやって来るのかな?
「――ッジョンマスターぁぁぁあッ!!」
「ふぇえっっ!?」
召喚されたサキュバスさんが、いきなり絶叫したから。
思わず驚いて身体が固まってしまった。
すぐにサキュバスさんと目線が合う。そして――いきなり抱きしめられた。
「……コアマスター! ご無事でよかったわ! ダンジョンマスターやエゼルさんは無事ですか!? 特級天使はどうなりましたか!!?」
「もふもふもふもふふ~!!(ちょ、苦しいです、息ができなぃ!)」
豊満な胸部装甲で口と鼻をを塞がれて、私ちゃんはちょっぴり――いや、大ピンチ!!
っていうか、このサキュバスさん、私ちゃんよりも力が強い!? 普通、召喚されたばかりのサキュバスは、普通の人間程度の筋力しか持たないのに――
「コアマスター!? しっかりして下さい、コアマスター!!」
薄れゆく意識の中、私ちゃんの鑑定スキルが驚くべき数字を叩き出していた。
――ああ、コレは白昼夢なのですね?? たった900DPでこんな強い配下を召喚できるなんて。
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【サキ】
種族:エターナル・クィーン・サキュバス
性別:女
属性:闇・魅
レベル:483
HP:24592
MP:43642
SP:23874
※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。
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多分、私ちゃんはまだ魔法で転移されている途中なのでしょう。夢を見ているのでしょう……。
確かに、召喚する魔物のパラメーターを上昇させるように術式を触りましたが、こんな爆上げ――っていけない、目の前が真っ白に染まっていく――
「コアマスタぁーーー!!」
◇
……私ちゃんは、寝ていたのでしょうか?
ふと、気が付くと後頭部に感じる柔らかい感触。なんだかとっても温かくて――とても甘い良い匂いもする?
「コアマスター、目が覚めましたかしら?」
大人な女性の声で目を開けると、ぼやけていた視界がはっきりとする。
そして飛び込んでくる、豊満な牛乳。
思わず手で押し上げたら――
「あんっ♪」
――なんだかいけない声が聞こえてきて、完全に目が覚めてしまった。
ぅうぅ、サキュバスなんてもう二度と召喚しないんだからっ!
ゆっくりと身体を起こして、私ちゃんに膝枕をしていたサキュバスさんと向かい合う。
「……」
「……コアマスター、すみません」
召喚直後に抱きしめて、私ちゃんを窒息させそうになったことを謝っているのでしょう。反省した顔をしているサキュバスさん。
ああ、もうこのお姉さんは。あんまり怒ることが出来ないじゃないですか!
「……血が出ています」
「ほぇ?」
「お膝から血が出ているのです。……こんな固い地面に直接座るから」
私ちゃんの言葉に、サキュバスさんが自身の膝を見て、苦笑する。
「大丈夫ですよ、このくらいの擦り傷、すぐに治りますわ。それよりも、コアマス――「それよりもじゃないのです!」」
自分が怪我をしていることよりも、何か他に重要なことがあると言いたげなサキュバスさん。
でも、私ちゃんは、そんなのダメだって思うのです。
「何か話があるみたいですけれど、まずは怪我を治してからです。傷口を洗いますから、ちょっとしみますよ??」
「え、えっと……」
「サキュバスさんのお話は、ちゃんと手当ての後で聞くのです!」
「ッ!? コアマスター、やっぱり記憶がna――「まずは怪我を治すのです!」――はい。コアマスター」
私ちゃんの言葉に、サキュバスさんが大人しくなる。
でも、なぜか私ちゃんが『サキュバスさん』と呼んだ瞬間に、お姉さんは驚いたような表情を浮かべた。……すぐに何かを悟ったかのような雰囲気を発したのが気になるけれど、まずは手当てをしてからだ。
「それじゃ、水魔法で洗ってから、闇魔法で回復させますね?」
「はい、ありがとうございます、コアマスター」
苦笑するような表情で頷いたサキュバスさんに、私ちゃんは手当てを始める。
短縮詠唱で水球を生み出して、傷口を洗い――闇魔法で修復させる。
元々浅い傷だったから、すぐに傷口は消えてくれた。
「これで良しです!」
私ちゃんの口から零れた言葉に、手当て中は大人しくしていたサキュバスさんが口を開いた。
「ありがとうございます、コアマスター。――いえ、カンディル・バイオレッド様」
「ほぇ? なんで私ちゃんの名前を知っているのです? まだ、名乗っていませんよね??」
口から零れた私ちゃんの言葉に、サキュバスさんの表情が歪む。
「……やはり、記憶を失っていらっしゃるのですね?」
「記憶??」
「私の名前はサキです。コアマスターや仲間達からは『サキ姐さん』って呼ばれていました」
「サキ姐さん?」
なんでだろう? 胸の中が、少し温かくなったような気がする。でも、なんだかモヤモヤする。とっても、とっても、モヤモヤしてじれったい。
サキュバスさんが小さく頷いて、言葉を続ける。
「覚えていますか? コアマスター。コアマスターが召喚した、優しくて、強くて、眩しいくらいに素敵なDMの水島おにーさんを。敵対したのに仲良くなれた、ケモ耳中級天使のエゼルさんのことを。たとえ記憶と魂が何度消えようとも……きっと覚えているはずですよ、コアマスターなら」
「っ!?」
声が出なかった。言葉が出なかった。息が止まった。でも――涙があふれた。
「みずしまおにーさん……いえ、私ちゃんの『おにーさん』っ……」
涙があふれるごとに、ゆっくりと記憶があふれてくる。
涙が止まらない。
もっとあふれて。あふれて。あふれて。お願いだから、もっとあふれて。
あふれる記憶。あふれて。あふれて。
あふれて記憶。あふれる。あふれる。
お願いだから、あふれて。あふれて。
あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。
あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。
あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。
あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。あふれて。
おにーさんの記憶――もっとあふれて!!
もう二度と忘れないように。あふれて! あふれて!! お願いだから、あふれて!
(次回に続く)




