第81話:「【召喚:サキュバス】!!」
「お前の成長に期待している! また会おう♪」
お前達じゃなくて、さりげないけれど――確かに「お前」と先輩は言葉にした。
……私ちゃんも楽しみです。
口元だけで笑った私ちゃん。でも、その直後、足元に浮遊感を覚えて――冷たい水の中に落ちていた。
「きゃ!!」
思わず目を閉じている間にも、身体が水の流れに運ばれているのが分かってしまう。
まさか海の上に落とされるのは無いだろうと思っていたのだけれど、そのまさかが自分に当たってしまうだなんて。しかも、海流っていうのだろうか? 結構流れが早い。
私ちゃん、何か悪いことしましたか?
手足をバタバタしてもがくけれど、全然足が届かない。全然身体が浮かばない。
どんどん身体が流されていく。でも、怖くて目が開けられない。
……くっ、こういう非常事態なのに、本当に自分の胸部装甲の薄さに自己嫌悪してしまう。(←天の声:標準サイズはありますが、周囲の比較対象が豊か過ぎたので小さいと思っています!)
そして私ちゃんの口の中に入ってくる水。
「かほっ! あれ? しょっぱくない……っていうか、あれ?」
水を咳き込んで、口の中から吐き出して、思わず目を開けたから気が付いた。
自分が滝つぼの近く、とても浅い場所に寝そべっていただけなのを。
「あははっ……なんか恥ずかしいです……(///ω)」
さっきまで本気で命の危険を感じていたのに。気付いてしまうと、誰が聞いているという訳でもないのに、誤魔化しの言葉が口から零れた。
滝つぼの轟音にも負けない、たくさんの小鳥のさえずりと深い森の木々のざわめき。ざぁざぁと流れる豊かで透き通った水。
生命に溢れる土地に転移できた私ちゃんは、きっと幸運なDCなのだと思う。
周囲を見渡すと、白い砂浜とそれに流れ込む大きな滝。そして、ぐるりと周りを囲むようにそびえる、苔と植物で覆われた高い崖。
生まれたばかりのDCだけれど、この場所がとても綺麗だって感じてしまう。――いや、防衛力という意味でも新米DCにとっては「最高な場所」であることも分かっている。
「この場所なら……大丈夫そうです♪」
思わず笑顔になってしまった。
私ちゃんの考えていた秘策『こうもりさん大作戦』での大量DP獲得が現実のものになったのだから。
それに、周囲を囲むようにそびえる崖のおかげで、ダンジョンの入り口を、侵入者から当面隠蔽してくれる効果も期待できる。
「さて、それじゃダンジョン魔法でダンジョンを作りますかね……どこにしようかな?」
こんな名言があるのを私ちゃんは知っている。「ダンジョン外の新米DCは、ただのオークだ!」という、先輩達の経験則を。
そう。レベル1の新米DCは、ダンジョンの力を発揮できない場所では、そこら辺の森をうろついているただのオークと互角の勝負ができるくらいの能力しか持っていない。
オークと互角……ソレは、弱肉強食の世界では最底辺から2段階目程度の力でしかない。
――そんなことを考えながらも、私ちゃんはダンジョンの入り口に相応しい場所を見つけた。
「滝の裏側が、天然の通り道になっていますね。ここなら、通り道ごと認識阻害の魔法をかけておけば――入り口から入ってくる野生動物や魔物、冒険者を予防できそうです!」
独りぼっちだと独り言が増えるっていうけれど、私ちゃんは元々一人だから、そんなこと気にしない。
自分で独り言が多いと自覚している時点で、まぁお察し下さいという感じだけれど……でも叶うならば、これからダンジョンで召喚する魔物の子達とは仲良くしていきたい。
「でも、魔物の子達を召喚する前に、ダンジョンを作らないと始まらないです!」
手持ちのDPは、私ちゃんの場合16000DPしかない。
いや、これでも「成績優秀者ボーナス」のおかげで、他のDCに比べると多い方ではあるのだけれど。派閥に所属する子達のように、先輩DCからの融資や投資が受けられない私ちゃんは、最適解を用意しないと詰んでしまう。
召喚したい魔物の種類は決まっている。そして、『こうもりさん大作戦』に必要なDPも決まっている。
だからその分の2500DPを勘案して、ダンジョンを作らなければならない。
「それでは、ダンジョンを作りますかね!!」
気合を入れなおしてから、私ちゃんは冥界の神々に捧げる詠唱を口にして、3階層+αのダンジョンを創造する。
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《1階層》
落とし穴ダンジョン
(落とし穴が無数にあるダンジョン。定期的に穴の位置が変わる)
《2階層》
簡易迷路ダンジョン
(簡単な迷路のダンジョン)
《3階層》
住居地区ダンジョン
(人は石垣、人は城。仲間の力で防ぎきるのだ!!)
《+α》
こうもりさんハウス(地上の崖に設置)
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ざっと合わせて12000DP。こうもりさんハウスを崖の上に作れたのは、ちょっと嬉しい誤算です。こうもりさんの住みやすい住居になっているし、こうもりさんを外敵から守ってくれる効果も期待できるのだから。
「さぁ――それでは、こうもりさん達を統括する仲間を召喚しますかね♪――【召喚:サキュバス】!!」
900Pを消費して、魔物のサキュバスさんを召喚する。
私ちゃんの学んだ知識では、魔物のサキュバスさんはDCのサキュバスとは違うはずだから……仲良くできたらいいなぁ。
(次回に続く)




