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第80話:「お前の成長に期待している! また会おう♪」

「――さぁ今日から君たちは、冥界の外にある世界で、ダンジョンを作ることになる訳だが……」

 小さな教室の中。

 普段は等間隔に並んでいる机だけを取り払い、椅子だけを並べて『彼女』の話を私ちゃん達は聞いている。


 彼女とは、私ちゃん達の教官を務めていた、先輩DCのお姉さん。

 本名を私ちゃん達に一切名乗らずに「先輩と呼べ♪」と笑顔でいつも言っていたDCの表情は、何だかとってもニヤニヤしている。そう、例えるならば、悪戯を楽しみにしている子どものような印象。

 でも、彼女の言葉を私ちゃん達は真面目に聞いている。だって、今日が最後の日なのだから。


「君たちはまだまだ半人前のひよっこだ。――でも、授業で教えた通りに1つずつ行動していけば、少なくとも1年目は(・・・・)無事に乗り越えられるだろう。それに、今日から395日は『ダンジョン協会の規則』によって他のDCやDMに攻められることは無いから、焦らずにじっくりとダンジョンを育てていくんだぞ?」


 そう、私ちゃんがこの世界に生み出されてから、今日で105日が経過していた。

 105日とは生まれたばかりのDCが、新米DCになるための研修期間。それが今日で明けるのだ。

 ちなみに、授業で学んだ事や分厚い教科書の内容は全て頭に入っている。

 けれど、知識と経験は違うのだと私ちゃんの本能は訴えている。生半可な気持ちで行動をしていると、きっと395日後に後悔することになるだろう。


 事実、教官役をしてくれていた先輩にちらりと聞いた話では……この保護期間である395日が明けた後、集中的な新人狩りが行われることも過去にはあったらしいし。

 新人狩りを避けるには、①先輩DCの派閥に入る。②敵対しても勝てるくらいの実力を身に付ける。③人間や天使族にその重要性を認められるような「産業基盤としてのダンジョン」の地位を獲得して牽制する。――などの対処法があるらしいけれど……実質、殆どのDCは派閥に入ることを選ぶらしい。


 でも、私ちゃんは旧式のDCだから既存の派閥に入るのは無理だろう。

 教官役の先輩には、少しだけ声を掛けてもらえたけれど――最終的には先輩に迷惑をかけてしまうかもしれないから断った。先輩は良くても、先輩の上の人達が旧式の私ちゃんのことを受け入れてくれるとは思えなかったから。

 そんな派閥に入っても、先があるとは思えなかったから。


 そして、同期39人のうち、38人とは敵対していると言っても過言ではないくらい疎まれている私ちゃん。そんな除け者が一人で生き残るには、敵対するモノ全てを跳ねのけられる強さが必要になる。

「ぼそっ(……うん、でも大丈夫っ!)」

 私ちゃんには、他のDCなんかに負けない秘策があるのだから。

 吸血姫型のダンジョンコアだからできる、裏技もしっかり考えているのだから。例えば、「こうもりさん大作戦」とか「異世界の勇者様の召喚計画」とか「不死身の調教部隊」とか。あと「召喚魔物のパラメータ操作」も、まだ実技で試したことは無いけれど、目標値の8~9割は実現可能だと私ちゃんは考えている。


「あ~、そう言えばなるべく早めにDM用の魔物は召喚しておけよ? DCだけでもダンジョン運営はできるが、DMがいるのといないのではダンジョンで出来ることが3~5倍くらい違ってくるからな。最低でも、1週間以内にDMになる魔物を選んで決めろ。――って、今更言わなくても大丈夫か?」


 先輩の言葉に、クスクスという笑い声と私ちゃんを見てくる無遠慮な視線が発生した。

「せんぱ~い。人間って魔方陣で召喚できるんですか~ぁ?」

 ……私ちゃんが人間と契約しないといけないことを知っていて、いじわるな事を口にする1匹の虫。

 教官役の先輩が、少し困ったような表情を浮かべる。


「……そうだなぁ、残念だが人間は召喚できないと思うぞ? でも例外として、理論上では異se――」

「「クスクス♪」」「「だっさ~♪」」

 聞こえるように虫が音を立てているけれど、何というのか……もう慣れてしまって、反応するのも難しい。

 そう思ってやり過ごした瞬間、先輩が手を軽くあげて虫達の言葉を止める。


「――だがな。1つだけお前達に、人生の先輩として『良いこと』を教えてやるよ。本当に今日が最後だから♪」

 そう言ってニィッと笑うと、先輩は言葉を続けた。

「こういうことわざを知っているか? 『鶏の群れは、成長した1匹の子狼に食われる』っていうヤツを」


 昔々ある所に、鶏の群れに迷い込んだ子どもの狼がいた。

 鶏たちは子どもの狼をくちばしで突いたり、かぎ爪で蹴ったりして、激しくいじめて追い出した。

 ――それから1年後。

 鶏たちの群れは1匹残らず、成長した狼の「晩御飯」になりましたとさ♪


 ……鶏は虫のことで、子狼は私ちゃんのことを言っているのだろう。でも、虫達の反応は芳しくない。

「せんぱi――「なぁ、今日までずっと、ここにいるほとんどの者はカンディルを、旧式だの吸血姫(笑)だのと貶めていたよな?」」

 何かを口にしようとした虫の1匹の声を遮って、先輩が言葉を続ける。

「最後だから、人生の先輩として教えてやろう♪――カンディルは、この中にいる誰よりもDCとしての可能性を秘めている。いや、私が教官を務めた50年の間では、随一の才能と実力を持っていると私は考えている。そんな飛びぬけた奴がムカつくからってイジメているとさ、社会に出た後で鶏のように喰われるぞ? 教室という狭い空間で群れて(・・・)強者になったつもり(・・・)でいても、5年後10年後……いや、下手したら半年後にすら……成長した相手に1対1でしっぺ返しをされることがあるからな♪」


 そこまで言い切ると、クスリと先輩が嬉しそうにほほ笑む。

「お前達、狼に食われないように、せいぜい遠くへ逃げろよ? お前らが敵に回したのは、カンディルだけじゃない。私という教官役や私の所属する派閥も、お前達を見限っている。1名を除いてな♪」

 先輩の言っている1名とは、クラスの中で唯一、私ちゃんをイジメなかったサキュバス『プレコ・オレンジフィンさん』のことを言っているのだろう。確か、プレコさん本人も「先輩の派閥に入れることになったんです!!」って嬉しそうにこの間、話していたし。


「――さぁ、手向けの言葉も送ったことだし、それじゃそろそろ『転移』を始めるか♪」

 微妙に静かな空気の中、先輩が私ちゃん達全員の足元にある空間転移の魔方陣を起動させる。

 真っ白だった魔方陣が青と赤に妖しく光り、膨大な魔力が渦を巻く。


「事前に説明をしていた通り、魔方陣(コレ)は上に乗った者をランダムに、人間界に移送させる効果を持っている。砂漠の中に転移するかもしれない。海の上に転移するかもしれない。人間や魔族の町に転移するかもしれない。――全て、お前達の運と実力だ♪」


 砂漠は嫌だなぁ……と考えてしまうのは、フラグになるから駄目だろうか?

 基本的に不老のDCとはいえ、無敵では無いし不死でも無いのだ。剣で切られたり、魔法を打たれると、当たり所や規模が悪いと普通にあっさり死ぬ。

 だから、できれば森の中とか平原の中央とかに転移して下さいと願っておく。


 それは、私ちゃんの周りの虫も一緒だったようだ。

 しんと静まり返った空気の中、先輩の声がゆっくりと響く。

「さぁ、それではカウントダウンを始めよう♪」


「10」

「9」

「8」


 ゆっくりと、先輩が数を数えていき――残り僅かになっていく。


「5」

「4」


 仲の良かったプレコさんに視線を向ける。

『頑張ろうね!』

『うん♪ 今までありがとう』

『そんなこと無いよ! また会おうね!』

 短い時間の中で、テレパシーで会話をすることが出来た。

 お互いに小さく笑ってから、目線を外す。


「2」

「1」


 DMと契約をすれば、DCとしての能力の上限が解放されるから、【テレパシー】の他に【思考加速】や【読心】のスキルが身に付くって先輩に聞いたけれど……うん、今から何だかワクワクしてしまう!

 私ちゃんは、異世界の優しいおにーさんを召喚するのです♪

 魔方陣でも「異世界人なら人間を召喚できる」って知った瞬間に、運命を感じたのです!


 そして、多分。

 私の小さな胸の中に住んでいる、『おにーさん』と出会える気がsur――


「0」


 眩しい光が、私ちゃん達を包み込んだ。そして、視界が完全に真っ白く染まる瞬間、教官役の先輩DCの声が小さく聞こえた。

「お前の成長に期待している! また会おう♪」


 お前達(・・・)じゃなくて、さりげないけれど――確かに「お前」と先輩は言葉にした。

 ……私ちゃんも楽しみです。



(次回に続く)

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