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閑話:「疲れているんだな~(TωT)」

「ふははっ、フハハハッ、フハハハハッ(≡ω)ノシ」

 エゼルの笑い声が、ダンジョンのボス部屋に響いた。

 ちょっとした規模の街にある闘技場くらいかな? 洞窟の中でぽっかりと侵入者を待ち受けるかのように設置された、この部屋の広さは。


 なおエゼルの眼前には、ダンジョンコアが侵入者の中級天使(エゼル)を迎え撃つために用意した魔物達がうじゃうじゃと集まっている。ざくっと見た感じ、平均レベルは120~150。森林に棲む獣系の魔物が多くて、ちらほらと人型の魔物も混じっている。


 そんな魔物達の中から、一人の狼男が前に出て来た。

「ふふっ、フハハハッ、フハハハッ!!」

 なんか狼男が、偉そうに笑いの三段活用を返してきた。

 さくっと『鑑定』スキルを発動。レベル205のブラック・ワーウルフ。称号欄には『アカヒレダンジョンのダンジョンマスター』としっかり表示されていた。ちなみに、名前はクロちゃん。


「うむっ♪ DMにしては、なかなか良い笑い方だぞ(≡ω)b――58点をあげようではないか、クロちゃん(・・・・・)!」

「ちっ! 高レベルの鑑定スキルか? 俺がDMであることを見破った上に、真名(マナ)を口にするなんて……ガチで殺すぞ?」

「……褒めたのに逆ギレするなんて、カルシウムが足りないぞクロちゃん。オークのあばら骨いるか? 齧ると結構美味いんだぞ?」

「はっ! そんなモノ、いらん!」


 う~ん。

 エゼル的には、50点オーバーはかなり優秀だと感じるんだが。なんでクロちゃんは怒っているのだろうか? ついでに、カルシウム不足みたいだから、エゼルの携帯おやつをあげようと提案したのに。

 これはまさか――


「クロちゃんって呼ばれるの、嫌なのか(≡ω)??」

「クロちゃんって呼ぶな!!」

「ああ、やっぱりその名前、気にしているんだ(≡∀)? ブラック・ワーウルフだから『クロちゃん』なんだろうけれど、その安易な名前を命名したDCには、エゼルは悪意――もとい親近感を覚えるぞ♪」

 その言葉に、クロちゃんの顔から表情が消えた。

 でも、エゼル的には『怒りのポイント』が判明してしまった以上、もっともっと煽るけれどな♪


 なぜなら、ダンジョンで敵を煽るのはエゼルにとっての様式美。強敵をもっと強くして、限界突破させるのがエゼルの戦いの美学。このワクワクする気持ちだけは、誰に何を言われても止めるつもりは無い。

 だから、エゼルはもっと煽るのだ。お前の本気を見せてくれ。


「フフッ、フハハハッ、くろちゃん、あはははっ!!」

 エゼルの笑い声(煽り)に、クロちゃんの顔がみるみるうちに真っ白になっていく。

 怒り過ぎて血の気が引いたのかな? 冷静さを失って、逆に弱くならないと良いけれど。


「オイオイ、怒り過ぎて冷静さを失うのは、死亡フラグだぞ?」

 エゼルの言葉に、クロちゃんが苦笑する。

 そして、ゆっくりと言葉を口にした。


「……取りあえず、うちのダンジョンの最深部に侵入したんだ。――その意味が分かっているよな?」

「もうすぐ、クロちゃん達が消える運命にあるってことか?」

「……ちが――「心配するな♪ クロちゃん達が死んでも、エゼルの記憶の中に残るはず(・・)だからな!」」

 あえて相手の言葉を遮った。そして、ワザと挑発するために「はず」という曖昧さを言葉にのせた。


「……はず? どういう意味だ?」

「ん? レベル205のブラック・ワーウルフに、そこで『こそこそ』こっちを観察しているレベル224のダークエルフのDC。DMもDCもレベル200オーバーなんて、中規模でも最上級のダンジョン主じゃないか♪ だから――」

 自分で言葉を口にしながら、ソレが楽しみで仕方がない。

 思わず顔がニヤついてしまって、キリっとした格好良い顔が出来ないじゃないか♪


「――ウキウキするような死闘で、エゼルを楽しませてくれるのだろう?」


 あえて魔法は使わない、今回は。さぁ――お前たちの本気を見せてくれ♪


 ◇


「弱い、弱い、弱いっ!!」

 エゼルの大鎌から放たれる斬撃に、周囲のレベル150台以下の(雑魚)魔物が一撃で消えて行く。

「お前らの本気はその程度かッ!? このダンジョンの本気を見せてくれよ!?」

「――くっ!」

「弱いっ! 弱すぎるッ!!」

 無駄に数は多いくせして、一撃で消えるようなヤツばかり。

 相手が物量戦を考えていて、最後に高レベルの魔物を放ってくるのが薄々分かっているからあえて付き合ってあげているのだけれど……このままじゃ、つまらな過ぎて死にそうだ。


「なぁ、お前ら? エゼルを舐めすぎじゃないか??」

「……次、行け!」

 エゼルを無視して、配下の魔物に『死んで来い』と命令するDM。命令された魔物達は、悲壮な顔でエゼルに突っ込んでくる。

 ――ああ、やっぱりこいつら、死ねばいい。こんな奴ら、世界から消えた方が良い。

 エゼルの生まれた村を、スタンピードによって一晩で廃墟に変えたダンジョンなんて……。ダンジョンなんて……。ダンジョンなんて……こんなの――


「ぼそっ(――憂さ晴らしにも、ならないじゃないか)」

 ほんの一瞬、エゼルが小さく呟いた瞬間。

 エゼルの周囲を囲んでいたDMの配下の魔物達が全員、腰を抜かしてへたり込んだ。


 いや、違う。全然違う。

 こっちを静観していたDMやDCを含めて、このボス部屋で立っていられるのはエゼル以外に(・・・・・・)いなかった。

「……期待外れだ」

 エゼルの呟きが、静かになったボス部屋に広がっていた。

 畏怖の視線でエゼルを見てくる、無数の目。


「もう、終わりにしよう。精々、来世ではまともな生き物に生まれろよ? 一杯いっぱい誰かの役に立って――寿命を全うしながら笑顔で死ねよ?」

「……」

 返ってくる言葉は一切ない。ああ、もう、つまらない。


 こんな奴らに少しでも『期待』してしまっただなんて、最悪だ。

 思わず、苦笑してしまったエゼルだけれど――

「それじゃ、そろそろお別れだ」

 ――最後の見送りくらい、笑顔を見せてやらなければな♪


「あでゅー(≡ω)ノシ」


 エゼルの本気の大鎌の一振り。

 それで、DMもDCもその配下も全員まとめて――空気に溶けるように消えていった。

「……なんか、つまらな過ぎて逆に疲れたな……」

 近くの村に帰ったら、特大のオークのステーキを食べることにしよう。


 そうだな、トッピングに塩コショウをたっぷりかけて、焼肉のタレを厚い鉄板にじゅわ~っと……ってアレ?

「焼肉のタレって、どんな香辛料だったっけ? あれ??」

 名前は何となく分かる。料理に味を付ける香辛料の一種だって。


 その味だって覚えている。口の中に広がる、芳醇な果物の香りと味噌ベースの辛味がたまらnai――って、アレ??

「味噌? 味噌って、なんだ??……」

 じわじわと、心の中に広がっていく不安な気持ち。

 そして零れる、エゼルの涙。


「あははっ、アレ? なんでかな? エゼル、疲れているんだな~(TωT) ぅぁ~、マジでヤバいかも♪」


 どうしてだろう、目から涙が止まらない。



(次回に続く)

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