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第78話:「さようなら、弱き者たち」

「蘇生・スラちゃん!」


 嫌な汗が、背中を流れていった。

 刹那の刻と感じる僅かな沈黙。ソレを認識した瞬間、特級天使が小さく苦笑した。

「くふふっ♪ 言ったじゃないですか、蘇生しようとしても無駄ですって」


 その冷たい言葉を否定したい。けれど、俺の口からは言葉が出ない。

「……水島おにーさん、ガチで蘇生できないのか……?」

 俺の隣にいるエゼルが、いつもにない沈痛な弱々しい声で聞いてきた。思考加速は、完全オフ――じゃないな。

 俺と同じで思考のクラッチを切っているだけで、危なくなったらいつでも加速できるようにしているっぽい。

「……エゼル」

 頭は回っているのに、身体が反応しない。言葉が出ない。


 何とかして声を絞り出そうとして、出て来た言葉は――

「……本当に、ごめん」

 ――謝罪だった。


 でも、俺の言葉に対して、フフッとエゼルが苦笑するのが聞こえた。

 その直後に、背中に感じる強い衝撃。

「……エゼル、かなり痛いよ……」

 そう。気付いた時には、エゼルにグーで背中を叩かれていた。

 思わず抗議した俺を、フンッとエゼルが鼻で笑う。思いっきりエゼルがドヤ顔を浮かべているのが、何となく気配で分かった。


「でも、元気が湧いてくるだろ?」

「――ああ、目が覚めたよ。4人を復活させるのは、後でも出来る。たとえ時間がかかったとしても、4人の記憶を維持したまま蘇生する方法が、どこかにある」

 異世界から俺を召喚することを、レベル6だった十数日前のディルでも出来たのだ。レベル520になった俺達3人が力を合わせれば、過去に消えた4人を取り戻すことも出来るはずだ。


 それは根拠のない自信。DMとしての単なる直感。

 でも、エゼルが俺の言葉を肯定してくれた。

「ああ、きっと……いや、違うな。きっとじゃなくて(・・・・・・・・)確実に(・・・)』助ける方法があるさ(≡ω)♪」

「んじゃ、エゼル。俺達がやることは決まっているよな?」

「んだ、んだ。思いっきりやるべ(≡ω)b」

 少し余裕を取り戻したエゼル。

 でも、彼女のおかげで俺にも平常心が戻って来てくれたような気がする。


 そんな俺達の「一見間の抜けた会話」が聞こえたのだろう、特級天使が不満そうな表情を浮かべる。

「あなた達、何を根拠にそんなことを考えているのかしら? 時空の狭間に消えた魂を蘇生するなんて、神々じゃないと無理に決まっているじゃない?」

「――聞いたか、エゼル?」

「ああ、ばっちりと聞いてしまったな!」

「意外と近くに解決策が落ちているなんて、俺達はついているぞ!」


 俺とエゼルの嬉しそうな反応に、相手さんはソレ(・・)に気付いたらしい。

「……まさかあなた達、神々の領域(・・・・・)を犯そうとしているの? まさか神々に成り上ろうと考えているの?」

 底冷えするような殺気がこもった、怨嗟の声。

 特級天使が言葉を続ける。

「私が何百年をかけても未だに辿りつけない領域に、あなた達なんかが立てる訳がないjya――「やってみなきゃ、分からないだろ(≡ω)p エゼル達とあんたは違う!」――くっ!!」


 言葉を遮って、思いっきり相手を煽ったエゼル。そのまま俺の方に視線を向けてくる。

「さて、それじゃ水島おにーさん♪」

 決めゼリフを口にするような真面目な声をエゼルが出した。

 そして、ゆっくりと続く言葉を音に変えていく。


「後は任せたッ! 水島おにーさんなら、きっとこの状況を打破してくれるんだろう(≡ω)?」

 びっくりして思わずエゼルを二度見してしまった。あんなに格好付けておきながら、俺に丸投げするん!?

「えっ? エゼルは何か良いアイディアが――「ある訳ないッ(Tω)x」

 一瞬、俺とエゼルの間にだけ、生まれた小さな沈黙。ここで「俺もだよッ!」って叫ぶことが出来たら、どんなにスッキリするだろう?


 体中から変な汁が噴き出してくるのだけれど……まずは深呼吸をするか。

 さぁ、動け、俺の脳みそ。さぁ、閃け、俺のアイディア。

 特級天使が怒りに燃えて冷静さを失っている今がチャンスだ。俺達の行動を警戒している、今がチャンスだ。

 うん、まずは思考加速で時間を稼ごうっ!


『エゼル、思考加速状態で作戦会議するぞ!!』

『りょーかいだ(≡ω)エゼルが惚れた、水島おにーさんの本気を見せてくれ♪』

 自分の仕事はやり終えた――そんな雰囲気を醸し出しているエゼル。

 俺のことを信頼してくれるのは嬉しいけれど、「まだ」だよね? まだ安心して気を抜いちゃ、ダメだよねっ!??


 そんな俺の思考を読んだのだろう。ディルが俺に話しかけてきた。

『おにーさん、私ちゃんも作戦会議に参加させて下さい』

『……マジでありがとう。でもそっちの方は大丈夫なの?』

 俺の方を手伝ってもらえるのは助かるけれど、ダンジョンの再構築に支障が出てしまうと長期的な目線ではかなり不味い。さっきみたいに、特級天使にダンジョンシステムをハッキングされて、破壊されるのだけは防がないといけないし。


『こちらは、予定よりもかなり早く作業が進んでいますので大丈夫です。それよりも、ここでおにーさんたちに全滅されてしまうことの方が大変ですから!』

『ありがとう、ディル。それじゃ――戦いながらだけれど、時間を稼ぎながら臨時の作戦会議を始めます!』


 俺の開会宣言と同時に、特級天使がヌルヌル動き始めた。

 攻撃を仕掛けるために羽を広げて――って、マジですかッ!? 時間を巻き戻す「天使の羽毛(仮称)」への対抗手段は、今の俺達には無いんですけれど!!

『くっ、エゼル! 取りあえず風属性の魔法で、羽毛を全部押し戻すぞ!!』

『了解だッ!――喰らえ、風ノ防壁ッ!!』


 すぐに俺の無詠唱の風魔法&エゼルの超短縮詠唱による風魔法が発動する。

 俺達に向かって来ていた天使の羽毛が、風の障壁に遮られて――空気が拮抗し、ゆっくりと床に舞い落ちた。


「あら? なかなかやるのねぇ? でも、私の本気がこの程度だと思ったら、それは大間違い(死亡フラグ)よ?」

 クスリッと特級天使が妖しく微笑む。


「さようなら、弱き者たち」

 特級天使の言葉と同時に、彼女から発せられるプレッシャーが強くなる。

 そして、風の障壁がじわじわと俺達の方へと押し戻されてきた。



(次回に続く)

【作者からの告知】

2019年1月1日に『DMな鬼嫁さん』と同じ世界の新作(本編)を投稿開始します。

現在、鋭意制作中ですので、楽しみにしていてください(≧ω)!!

来年もよろしくお願いします。

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