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第77話:「蘇生・スラちゃん!」

「くふふっ……ふふふふっ♪ ふははははっ♪」


 笑い声とともに、昏い闇に囚われていた空間が元の鍾乳洞へと戻っていく。

 ゆっくりと雪のように舞い散る、光の欠片(ライトダスト)。思考を加速させている中でそれが見えたとき――攻撃の爆心地には傷だらけの特級天使が立っていた。


 彼女の引き攣っている顔からは、さっきまでの余裕や奢りが一切消えている。

 ぞくりっと背筋に嫌な寒気を感じた。視界の端で鑑定スキルが表示している『相手さんのステータス』は、ダメージによって確実に低下しているというのに。



===

【クローバー・ウォーター】

種族:天使

性別:女

属性:聖・光・風・闇


レベル:980

HP:(98000)⇒53027

MP:(128000)⇒105984

SP:(78000)⇒58023


物理攻撃力:(6500)⇒4525

魔法攻撃力:(14100)⇒9681

物理防御力:(6800)⇒4980

魔法防御力:(12800)⇒10852

筋力:(630)⇒471

精神力:(1280)⇒825

賢さ:(1030)⇒830

素早さ:(880)⇒654

器用さ:(980)⇒451

運:(1080)⇒1080


称号:

特級天使/神の御使い/亜神/魂の救済者/笑顔の殺戮者/殺戮の天使

===



 おそらく、闇属性と隠されていた称号が解放されたことが違和感の原因だろう。

 嫌な予感がするとはいえ、さっきよりも確実に弱っている相手さん。今のうちに攻撃しないという手は無い。

『サキ姐さん、お願いします!』

 俺のテレパシーと同時に、前衛のゴブさんとボルトさんが前に出る。そして、遊撃のスラちゃんもタイミングを少しずらして駆け出した。

 そこへ3人の背後から、サキ姐さんの短縮詠唱による攻撃力アップの支援魔法が飛ばされる。


 ――直後。

 ばさりっと、相手さんが真っ白な翼を広げて羽ばたいた。

 俺達に向けて風が生まれて、雪のように白い天使の羽毛が十数枚、空中を舞いながら前衛の2人とスラちゃんに軽くぶつかっていく。

 すると前衛3人の姿が、ふっと一瞬で消えた。


 ――ことととり。


 冗談みたいに軽い音を立てて、地面に落ちた、カラフルな魔石が3つ。


 3人が一瞬で消えた?

 いや、3人が一瞬で魔石になった?

 即死系の攻撃? 即死系のスキル?

 いや、即死魔法なのか?


 思考加速をしているというのに、俺の頭が働かない。働いてくれない。

 まるで時間が止まってしまったみたいに感じる。

 さっきから感じる背中に流れる冷たい感触。自分が確実に、冷や汗を流していることに気付いてしまった。


「……おぃ、水島おにーさん、これは冗談だろ?」

 辛うじて声を出せたエゼルはすごいと思う。でも、それは同時に思考加速が解除されていることを意味していた。

 そして、それにすぐに(・・・)気付けた俺も、思考加速が解けている状態になってしまっているのだろう。まずい、思考加速状態にならないと相手さんの攻撃を捌き切れない。

 そんな俺の思考を表情から読んだのか――

「くふふっ♪」

 ――特級天使が苦笑するように口元を歪めて、もう一度羽を広げた。


 彼女の視線の先には、動けていないサキ姐さんの姿。

『サキ姐さんッ!!』

 俺がテレパシーで叫んで、身体を動かすのと同時だった。

 特級天使の翼が動いて、天使の羽が舞って、サキ姐さんの姿が消えたのは。


 ――ことり。


 紫色の妖しく光る魔石が地面に落ちた。一瞬遅れて、俺の身体が動く。

 そこで初めて気付いた。

 集中力が切れて、不完全にしか思考加速状態になれていなかった、俺自身の未熟さに。


 やばい、視界がにじむ。

 敵が目の前にいるというのに。かたきをとらないといけないというのに。

 4人が殺されてしまったと頭が理解した瞬間から、涙が目かra――

『おにーさん! しっかりして下さいッ! みんなはダンジョン魔法で完全復活できますッ!!』

 大きなディルの声にハッとする。


「そうだな、ディルのおかげで、みんなは復活できる!」

 戦っているのは俺達6人だけではない。俺達の後ろで、ディルも必死に戦ってくれている。

 だからそう。自分自身と現在進行形で立ちすくんでいるエゼルに、ゆっくりと言い聞かせるように『勇気が出る(エゼルが好きな)言葉』を口にしよう。


「エゼル、このタイミングこそ、あの名言(・・・・)を口にする時だぞ?」

 俺の言葉に、一瞬きょとんとしたエゼル。でも、すぐに口元を強かに歪めて、尻尾を嬉しそうに揺らした。

「……ああ、そうだな(≡ω) このタイミングで言わなくちゃ、人生格好付かないよなっ♪」


 どんなにヤバい即死攻撃があったとしても。

 どんなに苦しい戦いであったとしても。

 どんなに先が見えないことがあっても。

 諦めたらそこで全部終わってしまう。


 だから、俺達が唱える言葉(ふっかつのじゅもん)は決まっている!





「「(エゼル)達の戦いは、これからだッ!!」」





 今から始める。

 今から始まる。

 今という、この瞬間から生まれる。


 諦めなければ、終わらない。

 死ななければ、終わらない。

 歩み続ける限り、終わらない。

 ――だから、俺達は終わらせない。全力で今を、未来を、夢を生きてみせる!!


 溢れる感情のまま、集中力を高めて思考加速状態に入ろうとした。

 次の瞬間。

 妙に響く声で、特級天使の言葉が聞こえてきた。


「ふふっ、残念ね♪」

 思考加速状態は完了。

 ゆっくりと、そう、かなりゆっくりと特級天使の言葉を認識していく。

「本当に、あなた達は面白いことを口にするのね? たとえDMだったとしても、魔物の蘇生なんて無理なのに」

 耳を傾けちゃいけないと思うのに、思わず聞き入ってしまった俺。

 特級天使が、囁くように声を発する。

「あの子達の魂は、時の彼方に飛ばしたの♪ 生まれてくる前に時間を巻き戻したのだから、復活させることなんて――絶対に無理よ?」


 いや、そんなことは無い。

 ダンジョン魔法を使えば、すぐに4人を復活することが出来る。

 それは俺のDMの知識も肯定してくれている。

 ……でも、背中を幽霊に撫でられているような、ぞくぞくする寒気がなぜか止まらない。


「くすくす♪」

 正直、タイミング的には絶対に悪手だと分かっている。確実に誘われているのだと理解している。けれど俺は、『復活直後に羽で倒されること』を分かっていながら、ソレを試さずにはいられなかった。

『……』

 一瞬だけ考えて、誰を蘇生させるか決断する。


 今の状態で「天使の羽」をかわすことができる可能性が高いのは、4人の中で一番素早さが高いスラちゃんだろう。

『蘇生・スラちゃん!』


 俺のテレパシーは少し早口になって、正直、震えていた。そのせいかスラちゃんが再召喚される気配はどこにも無い。

『蘇生・スラちゃん!』


 今度の呪文は、早口にならずにしっかりと発音することができた。震えてもいない。

『蘇生・スラちゃん!』


 ……思考加速状態では、再召喚をすることは出来ないのだろうか? 小さく呼吸を整えてから、俺は思考加速状態を慎重に解除して言葉を紡ぐ。

「蘇生・スラちゃん!」


 嫌な汗が、背中を流れていった。


(次回に続く)

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