第76話:「くふふっ……ふふふふっ♪ ふははははっ♪」
『『『いっけーーーぇぇぇえッ!!』』』
轟音と閃光と金属片が飛び交う、危険極まりない空間。
相手さんが全力で耐衝撃結界を張ったのをしっかりと確認した、僅かな瞬間。
時間と空間が凍った、刹那の刻。
俺は小さな声で――DPアタックを解放した。
幻想的だった鍾乳洞を昏い闇が包み込み、漆黒の触手が半径500メートルの生き物の背中を妖しく撫でる。
ぞわりっとした鳥肌が立つような不快感と圧力。
「――っ!?」
闇の中でも止まらない轟音の中。聞こえるはずのない特級天使の驚愕の呟きが聞こえた。
いや、多分空耳だと思うけれど。
でも、実際に30万DP分のDPアタックは、相手さんに直撃したはずだ。
特級天使は、エゼルと同程度か少し品質の良い『DPアタック回避の護符』を身に付けていただけ。
DPアタックを反射したり、DPアタックでHPを回復する装備やスキルを持っていない。そのことは、戦闘が始まる前やゴブさん達が戦っている時に、俺が直接鑑定して確かめている。
また、タイミングを重ねるために相手さんの視界と聴覚を、俺達は現代兵器を使って塞いだ。
さらに、彼女自身が身体の周りを囲うように張った厳重な耐衝撃結界が、DPアタックからの彼女の逃げ道を塞ぎつつ、DPアタックの魔力の奔流を狭い空間へと抑え込む役割をすることになっていた。
その結果として漏れ出すDPが少なくなって、相手さんへの与ダメージを増幅&俺達への被ダメージが減少する効果に繋がった――はず。
この作戦を考えたディルが言うには、地球の科学技術……もとい「中学生の理科の教科書」に書かれていた『磁石の反発』と『圧力釜の原理』を応用したとっても簡単な方法らしい。
うん、普通にDPで教科書や百科事典を取り寄せて、中学生レベルとは言えすぐに理解&応用できるのだから、うちのディルは本当にすごい子だよね。
だから、少しだけディルが話していたことを思い出してみる。
うん、俺には半分くらいしか理解できなかったけれど……ディルいわく、「ターゲットさんの周囲を囲む、結界の固さや狭さ」によって与ダメージや被ダメージが変動するとのこと。
「ふむふむぅ~? エゼルさんのDPアタック回避の護符を見る限り、磁石の反発を利用したようなシステムですね。疑似的に体内の魔力をDPの魔力に反発するように設定して、体内やその周囲にDPアタックの反応があれば反発で自動排除させるようなシステムです。そのことから考えると、ターゲットさんの身体全体を覆うような結界もしくは魔力の塊があれば排除できずに直撃させることも可能ですが、DPアタックの魔力でそれを実現させるとするなら余計なコストが必要になります。なので――(5000文字ほど省略)――つまり、ターゲットさんの周囲を固い結界などで覆った状態で、もしもDPアタックの魔力を発生させることができたのなら、結界の内部とターゲットさんを素敵な状態にすることが可能なのですよ!!」
そんなことを頭の中で復習しながら、自分達のHPがDPアタックでどれだけ減少したかを確認する。
『……よし。全員きっかり、HPが200ずつ引かれているね』
30万DPを使ったのにもかかわらず、HPがマイナス200で済んでいる。
それは、その分だけ相手さんに与えたダメージが大きかったことを意味する。そして俺達へのダメージが100少ないってことは、相手さんのダメージが通常よりも多かったであろうことも意味している。
――ここまで、現実時間で0.1秒程。
思考加速状態のせいで、まだ特級天使の周囲にはDPアタックの昏い闇が渦巻いている。
この闇が晴れた時、俺達の戦いは次のステージに移行するのだろう。
『エゼル達の戦いはこれからだッ(≡ω)!!』
『いや、だからそれは止めてね?』
『――むふふっ♪』
俺の思考に不穏なテレパシーで乱入してきたエゼル。でも、今はツッコミを入れている余裕は無いようだ。
『……すまん、もうちょっと真面目にするから、許してくれ(≡ω)』
俺が何かを言う前に、エゼルも気が付いたらしい。
笑い声が聞こえてくる。
そう、笑い声が聞こえてくる。
DPアタックの暴力的な闇の渦の中心から。
「くふふっ……ふふふふっ♪ ふははははっ♪」
(次回に続く)




