第74話:「ちょっと悪趣味過ぎて、笑いが止まらないわよ?」
『この戦い、私ちゃん達が全員で力を合わせれば絶対に勝てる戦いです! 油断せずに相手さんを追い詰めて、莫大なDPをみんなでゲットするのですっ! この戦いに勝って、私ちゃん達のダンジョンは中規模ダンジョンの上位陣に一気に殴り込みをするのですっ!! 私ちゃ――ゲフンゲフン。みんなの夢のために――えぃえぃ、お~っ(≧Δ)ノ!!!』
やる気に溢れるディルの掛け声。
それに対して、ゴブさんやボルトさん、サキ姐さんやスラちゃん、エゼルと俺の声が1つに重なる。
『『『エイエイオー!!』』』
◇
――そして、5分後。俺達は最終防衛ラインである『第七階層・ボス部屋』へとやってきていた。
張り詰めた空気の中、この場にいるそれぞれが静かに来るべき刻を集中して待っている。
特級天使を迎え撃つ準備は、何度も思考加速で打ち合わせをしているから、大丈夫。
絶対的にレベルもステータスも足りていない俺達が、相手さんに取れる作戦は正直少ない。「いのちをだいじに」しながら、チクチクと相手さんのHPを削っていくのが原則である。
なぜなら、通常のDMの切り札であるDPアタックは切り札にはなるけれど、今回の決め手にはならないから。そう、相手さんの10万に届くHPを全て削り切るためには、最低でも100万のDPが必要になる。保険を掛けるとしたら120万DPは欲しいところだ。
でも、そんなDPはうちのダンジョンには存在しない。
最近、こうもりさんハウス&パワーレベリングの副産物のおかげでDPが潤っているとはいえ、うちのダンジョンの表面上の保有DPはせいぜい50万DPに届くか届かないかというライン。
ディルのへそくri――じゃなくてお小遣いのDPを合わせても、60万DP以上70万DP以下なのは変わらないと思う。
その上、エゼルが護符で対策をしていたように、「DPアタックの攻撃軸をずらす」装備を特級天使が持っていない訳がない。必ず何かしらのDPアタック対策をしていることだろうし、下手したら中級天使のエゼルが持っているモノ以上の性能がある、「いわゆる不思議装備」が飛び出してくる可能性も高いのだから。
DPアタックをかましたら――「反射されました」とか「逆に吸収されて、回復されました」なんてことになると目も当てられないと本気で感じる。だから、DPアタックは決め手には、なれないしならない。全員で協力して、足りないところを補いながら、少しずつ戦うことが基本になる。
そのため今回は、第1チームと第2チームでメンバーを分けて、交互に戦闘を繰り返すことで集中力とスタミナの回復を図ることを作戦として考えている。
何故なら、ぶっ続けで全員が戦闘をしていると、休憩が取れなくなるから。必然的に短期決戦になってしまうから。
ディルには「40分以内には決着をつける」と格好付けて俺達は宣言した。
――けれど、俺達にとっての体感時間は、思考加速状態で「40分×(最低でも)1000倍」という鬼畜仕様。そう、体感時間で666時間。
つまり、ざっと28日間をぶっ通しで戦い続けることになる。
まぁ、日本にいた時の俺なら考えるまでも無く「無理だな」と諦めていたと思うけれど、幸いというのか、慣れって怖いというのか……DMになってからのダンジョンの立て直しや改造、そして無茶なパワーレベリングなどの数々で「これなら何とかなるかも??」って感じてしまっている俺達がいるのだから……自他を含めて「魔物やDMやDCって頼もしいなぁ」って苦笑するしかない。
さて、そんな頼もしい仲間達を改めて見てみよう。
(第1チーム:平均レベル480)
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・攻撃役のゴブさん。
・盾役のボルトさん。
・遊撃役兼回復役のスラちゃん。
・支援役兼回復役のサキ姐さん。
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(第2チーム:平均レベル520)
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・攻撃役兼回復役のエゼル。
・盾役兼攻撃役兼支援役の俺。
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うん。ちょっと第2チームの兼業感とスカスカ感が半端ない。
でも、天使やDMといった「職業によるステータスの優位性」があるから、俺達は2人で頑張ろうと思う。
エゼルは元々高かったステータスが倍以上に伸びたし、俺もDMというチート的な職業のおかげでエゼル以上のステータスを持っているのだから。
それに限定的とはいえ、ディルが頑張ってくれればくれるだけ、みんなが時間を稼いでくれればくれるだけ、俺はDMとしての力を取り戻すことが出来る。
それは切り札のDPアタックだけでなく、DPによる取り寄せも可能になるということを意味している。
エゼルと実験で確かめたデータでは、上級以上の天使には『地球の近代兵器が、ほぼ効かない』という少し残念で、予想通りの結果が出たけれど――エゼルにとってのキシ〇トールのように、特級天使に特効を持つ物質の目途も、俺としては実は持っていたりもする。
確実に効くとは思わないけれど、油断を誘うための陽動として試してみようと思っている。
なお、エゼルの情報では「特級天使さんは相手の心が読める」らしいけれど……相手さんの読心スキル以上の対抗スキルを幸いなことに俺達は持っていた。DMの『絶対領域』とかいうちょっとアレなネーミングの固有スキルが、ダンジョン内の指定された仲間に対する鑑定系や状態異常系のスキルを妨害してくれるらしい。
ちなみに、異世界転移者や転生者限定で『個人情報隠蔽』というスキルもあるみたいだけれど……こちらは、個人専用で仲間に適用させることは無理らしい。
「……さて、そろそろ時間かな?」
小さく呟いた俺の言葉。
それぞれに集中力を高めていた全員の視線が、ボス部屋の入り口に向けられた。
「その様子だと、少し待たせたみたいね?」
ダイヤモンドダストのような光の粒が、ゆっくりと、ふわふわと、天井から降り注ぐ時空間。鍾乳洞の通路から出て来たのは、新しい玩具を見つけた子どものような笑みを浮かべた、特級天使だった。
特級天使は、まずエゼルへと視線を向けた。
「エゼル――いえ、エンゼル・マーブル……久しぶりね? 会えて嬉しいわ♪」
「……」
エゼルは言葉を返さない。
もう、この状況になってしまった以上、会話なんて無理なのだと――相手さんの雰囲気が語っているから。
小さくクスリと笑ってから、特級天使は、エゼルの隣にいる俺へと視線をずらす。
「あなたがエゼルの新しい飼い主ね? 初めまして」
冷たい視線のまま、「飼い主」という言葉を使った相手さんに俺が抗議の声をあげようとした瞬間。特級天使が、嬉しそうな表情で言葉を続ける。
「そして――さようなら♪ せいぜいレベル250程度のDMと中級天使と雑魚な魔物で、この私をどうにかしようと考えるなんて。ちょっと悪趣味過ぎて、笑いが止まらないわよ?」
クスクスと嬉しそうに笑っている特級天使。でも、心の中では、俺も笑いが止まらない。
ステータス偽装を特級天使自身も使っているのに、俺達がステータス偽装を使っていないと思い込めるのだから。特級天使以上の偽装スキルと鑑定スキルを、俺達が持っていないと思い込んでいるのだから。
(次回に続く)




