閑話:「楽しみにしているわ♪」
『この戦い、私ちゃん達が全員で力を合わせれば絶対に勝てる戦いです! 油断せずに相手さんを追い詰めて、莫大なDPをみんなでゲットするのですっ! この戦いに勝って、私ちゃん達のダンジョンは中規模ダンジョンの上位陣に一気に殴り込みをするのですっ!! 私ちゃ――ゲフンゲフン。みんなの夢のために――えぃえぃ、お~っ(≧Δ)ノ!!!』
『『『エイエイオー!!』』』
コアマスターの声に、全員のテレパシーが重なりました。もちろん、その中にはサキュバスのわたくしも含んでいます。
そう、この戦いは絶対に負けることなんて出来ません。わたくし達が、この世界の中で平和に生きていても良い場所を作るために。ダンジョンマスターのおにーさんと、わたくしの大切な、とっても大切なコアマスターの夢を実現するために。こんなところで立ち止まってはいけないのです。
幸い、わたくしを含めた魔物の幹部4人は、レベル500オーバーの天使族の攻撃にも、何とか耐えることが出来ます。
今回の特級天使さんの隠蔽されていないレベルは980とのことですが……ダンジョンマスターから聞いた相手のステータスなら、急所への直撃さえ避ければ戦えないことはありません。
なにせ今のわたくし達は、あの「ぱわーれべりんぐ」を乗り越えたのですから。
ちなみに、自分と同じ「ダンジョンから生まれた魔物」を倒すのは、最初は少し抵抗がありました。
でも、すぐに思考を切り替えました。今回のぱわーれべりんぐの相手は、全て骸骨系の魔物でしたから。
彼らは、わたくしやスラちゃん、ゴブさんやボルトさんみたいに自分で考えて行動をすることができる魔物ではありません。シンプルな命令や、それが無い時には本能に支配されて行動する者達です。
おかげで、罪悪感を抱えずに済みました。
ぱわーれべりんぐ終盤の、魔物を拘束から解放した「実戦形式の戦い」でも、冷静な対応で戦うことが出来ましたし。
そうそう、ぱわーれべりんぐと言えば、召喚した高レベルの骸骨系の魔物が落とすアイテムが、とても貴重で美味しかったのです。
具体的には、魔物が落とした貴重なアイテムを、あえてダンジョンに捧げることで莫大なDPを得ることができたのです。
その後は、高レベルの骸骨系の魔物を召喚し⇒アイテムを獲得し⇒それをDPに変えて⇒再び骸骨系の魔物を召喚し――という素敵なサイクルが出来ました。
ダンジョンマスターいわく、「DPの無限増殖が可能だよな?」って言っていましたが、本当にその通りだと思います。こうもりさん以上に、効率の良いDP獲得方法だとわたくしは思いました。
そんな訳で、わたくし達魔物の幹部はぱわーれべりんぐのおかげで、今日までの間にレベルを420へと上げることが出来ました。
ちなみに、コアマスターとダンジョンマスターは多分、わたくし達以上のレベルになっていると思います。そう、多分と付いてしまうのは、正確な数値は「秘密だよ?」「内緒なのです!」と言って2人が教えてくれなかったからです。
教えてくれても良いと思うのですが……ダンジョンマスターがスラちゃんの物理防御力を抜けることから考えると、ステータス的にはレベル500オーバーのエゼルさんと同等か、それ以上の力を持っていることでしょう。
……話が逸れました。
今日までにレベルを上げられたわたくし達なら、レベル980の特級天使さんにも対抗することが出来ます。1対1では瞬殺されるでしょうが、4対1、ましてやエゼルさんやダンジョンマスターがついてくれるのですから、苦戦するとは思いますが、何とかなると感じています。
ちなみに、わたくし達と特級天使さんのレベル差は520ほど。普通なら、このレベル差では攻撃が通らないです。
でも、それをどうにか出来てしまう裏技がいくつかあるのです。「防御貫通」「防御無効」「反対属性攻撃」「急所攻撃」などなど。防御を貫通したり、無効化したり、反対の属性で特効ダメージを与えたり……いずれも、ぱわーれべりんぐで高レベルの魔物を相手にダメージを通す方法として、何度も使用しましたし、貫通系のスキルも練習しました。
他には、高レベルの相手を前に実戦形式で立ち向かう練習も、ぱわーれべりんぐの中で何度も行いました。なにせ、実戦形式の方が得られる経験値が2~3倍も違うのです。
時間が多少は必要でしたが、レベル350を超えた辺りからは、ほぼ毎回実戦形式になっていたくらいです。
でもそれのおかげで、今回の戦いにも勝機が見えてくるのではないかなとわたくしは思っています。
イメージはそう、レベル750の『骸骨堕天使』と戦ったような感じが一番近いでしょうか?
でも特級天使さんのレベルは980ですから、骸骨堕天使さんよりも2~3倍は、ステータスが上昇しているかもしれません。とはいえ同じ天使系なら弱点や急所は同じでしょうし、エゼルさんに教えてもらった対天使用の戦闘指導もしっかりと覚えています。
「んふふっ♪」
思わず口からこぼれたわたくしの笑み。
それに対して、先ほど合流したダンジョンマスターが、ついっと視線を向けてきます。
「サキ姐さんは、楽しそうだね?」
「そういうダンジョンマスターも、おねーさんと一緒で楽しそうに見えるわよ? 違うかしら?」
わたくしの言葉に、小さく苦笑するダンジョンマスター。
そんな反応をされてしまうと、おねーさんは少しだけ悪戯したくなっちゃいます。
「おねーさん、知っているの。ダンジョンマスターのような人、『戦闘狂』って言うのよね?」
「いや、俺は戦闘狂じゃないよ? サキ姐さんと一緒にしないで欲しいな」
「クスクス♪」
そして途切れる会話。いえ、わたくしがあえて途切れさせた会話。
そろそろ、特級天使さんを迎え撃つ広場に近づいてきたから、気合をいれないといけません。
でも最後に、少しだけ言っておきたいことがあります。
「ねぇ、ダンジョンマスター」
「何? サキ姐さん」
わたくしの方を振り向いたダンジョンマスターに向けて、わたくしは『悪戯っぽい笑み』を飛ばします。
すぐにダンジョンマスターが苦笑して、ゆっくりと口を開きました。
「サキ姐さん、こんな時に遊ばないの。――めっ!」
レベル420のサキュバスが全力で放った魅了なのですけれど、ダンジョンマスターにはやっぱり効きません。小さく苦笑して、軽く叱られるだけで終わってしまいました。
だから素直に言葉を、おねーさんは口にするの。
心をくすぐる魔法を、おねーさんは口にするの。
勇気をもらえる夢を、おねーさんは口にするの。
「ねぇ、ダンジョンマスター。全て終わったら、おねーさんにもご褒美くださいな♪」
少しだけ、声が震えそうになりました。
でも、多分、誰にも気付かれてはいないと思います。
「ふむっ♪ 具体的には何が欲しいんだ(≡ω)?」
悪戯するような口調で、ダンジョンマスターよりも先に、エゼルさんがわたくしに聞いてくれました。
ありがとうございます、エゼルさん。
これでダンジョンマスターは、約束から逃げられなくなりました。だからわたくしは、さっきよりも自信をもって言葉を口に出します。
「今回の戦いが終わったら。エゼルさんやコアマスターにするように、ぎゅっと抱きしめて撫で撫でしてもらいたいの♪」
「よしっ、許可する(≡ω)b」
「なんでエゼルが断言するの!?」
若干、顔を赤く染めて慌てたような反応をしたダンジョンマスター。わたくしは思わず笑ってしまいました。
「んふふっ、今から楽しみにしているわ♪」
みんなのおねーさんは、ちょこっとだけ頑張ってみせますので。
ご褒美くらいあっても良いですよね?
(次回に続く)




