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第70話:「特級天使さんに、一泡吹かせてあげるのです!」

『……全て破壊されました……』


 震えるディルの声。

 そして小さな沈黙を挟んで、エゼルが吠えた。

『おいっ! ダンジョンシステムが破壊されたって、どういうことか!!』

 慌てたようなエゼルの声に、弱々しい声でディルが応える。


『そのままです。言葉の通り、ダンジョンシステムが全て無効化されて――プログラムにアクセスするどころか、初期化されてしまっています』

『それじゃ……』

『はい。今、私ちゃん達のダンジョンは、天然に出来たそこら辺にある『普通の洞窟』と変わりません。ダンジョンの罠や魔物は残っていますが、DPを使った新規補充やこちらで誘導して操作をする系の罠が一切できなくなったと考えて下さい』


 絶句するエゼルと俺。

 でも、すぐに再起動したエゼルが口を開く。

『……なぁ、嫌な事を聞くが』

 そう言って言葉を区切ってから、エゼルが震える声でテレパシーを飛ばしてくる。

『今のダンジョンで、ゴブさんやスラちゃんやサキ姐さん達が、もしも死んでしまったら――復活できるのか?』

『……』

 小さな沈黙。ディルの口からは返事がすぐには無かった。

 そして、鼻をすするような音が聞こえる。


『……ふ、復活は――で、出来ません。ほ、本当の意味で、死んでしまいます……ぐしゅっ』

『……そうか。エゼルや水島おにーさんが死んでも、復活ができないのか』

『……』

 すぐには返事が返ってこない。

 でも、それだけで俺は自分が死んだら復活できないのだと悟ってしまった。


『そうか。復活できないのか』

 エゼルの淡々とした言葉に、ディルが首を縦に振る(イメージを送ってきた)。

 薄暗い空間。モニターの光だけが俺達を照らす時間。

 こうして戸惑っている間にも、特級天使は3階層に到着して、草原を猛スピードで移動している。

 幸いなことに俺達には思考加速があるから、まだ時間の余裕が残されているけれど――


『このままじゃ不味いからさ、対策を考えよう!』

 俺の言葉は、2人にとっては「ただの空元気」だと思われるかもしれない。

 でも、落ち込んでばかりじゃいられない。


『ここで諦めたら、本当に全部終わってしまう。俺はこの世界に、俺達の存在を認めさせたいんだ。ディルやエゼルが、めちゃくちゃ可愛いんだぞ! こんなにも凄いんだぞ! って知らしめたいんだ。だから――まだ、諦めちゃダメだよ、2人とも』

 そう言って言葉を区切って、俺は無理やり笑顔を作る。

『ここは俺にも、少しだけ――格好付けさせてよ?』


『おにーさん……』

『水島おにーさん……』

 ディルとエゼルの口から、俺の名前がこぼれていた。


『まずは、ダンジョンシステムの再構築(再インストール)が大切だよね? 俺のDMの記憶が正しければ、ダンジョンシステムを0からもう一度インストールしなおせば、最低限の機能――ここで重要なのは『魔法無効化空間』――が設定できるようになる。まずは、システムを再インストールしよう!』

『そんな……むり、です』

『時間が足りない?』

『はい、時間がぜんぜん、足りないのです……それと、ダンジョンシステムのハード面がボロボロになっていて――再インストールしても、正常に動いてくれるか、分からないのです……』

 弱気なディルの声。でも、さっきよりも少しだけマシにはなっている。


『時間なら、俺が稼ぐから。ディルは何回でも良いから、再インストールを試してみてよ』

『エゼルも時間稼ぎには協力するぞ!! あと――これ、使えないか?』

 そう言ってエゼルがアイテムボックスから取り寄せたのは、こぶし大の赤い宝石。

『『宝石型ダンジョンコア……』』

 俺とディルの言葉が重なる。


 ゆっくりと、信じられないといった表情でディルが口を開いた。

『それ、どうしたんですか? 普通なら、宝石型ダンジョンコアは、元々のダンジョンに残しておかないとダメなはずですよ?』

 戸惑うようなディルの言葉に、エゼルが苦笑する。

『いや、宝石型ダンジョンコアを回収しちゃいけないのを、天使になりたての頃のエゼルは知らなくてな……。キレイだったからダンジョンから持ち出してしまって――上司に報告できずに、そのまま持っていたんだ。勝手に捨てるのもバレるのが怖くてできなかったしな(Tω)b』


 くしゃりとした笑顔を作るエゼルに、くすりっとディルが小さく笑った。

『……エゼルさんらしいですね。――でも』

 そこでディルが言葉を一度飲み込む。そして、ゆっくりと続きを口にした。


『他のダンジョンから取り外した宝石型ダンジョンコアがあるのなら、ハード面の復旧と再インストールの時間を短縮できます。見たところ10世代以上前の旧式プログラム(骨董品)ですが――私ちゃんに掛かれば、最新のプログラム……とは言いませんが、3世代前のダンジョンコアに負けない性能を引き出して見せますっ!!』

 そう言って小さく叫んだディルの瞳には、吸い込まれるような紅い炎が燃えていた。


 俺の心を鷲づかみにする、危ない女の子の瞳。

 それが今、きれいにきれいに輝いている。


『骨董品を舐めている特級天使さんに、一泡吹かせてあげるのです!』



(次回に続く)

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