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第69話:「だ、ダンジョンシステム……全て破壊されました…」

『あとな、怖いものと言えば……エゼルはお茶がこわいぞ~(≡ω)♪』

 うん、緊迫した状況の中、冗談を投げてきてくれるエゼルは……『ドラコンファンタジーの遊び人』ポジションだな。

 張りつめすぎていた緊張感を緩めてくれるポジションの職業で――レベル20を超えて転職すると賢者になれる、あの重要な職業だ。

 遊び人だらけのパーティーを作るっていう冒険をして、何度も全滅したのはいい思い出だよね……(Tω)b


『おにーさん、エゼルさん、遊んでいる場合じゃないですっ!!』

 若干の焦りと怒りがこもったディルの声で、俺とエゼルは脱力を止める。

 そして、瞬時に頭を切り替えて、エゼルと視線を交わす。少しだけ、遊び過ぎたようだ。

『ディル、ごめん』『ディル、すまん(≡ω)』


 俺とエゼルの謝罪の言葉に、ディルがモニターを見つめたまま首を横に振る。

『いえ、分かってもらえれば大丈夫です。それよりも――敵さんが、あと1分程度で第一防衛ラインに到達します!』

『マジか!? 第一防衛ラインって3階層だろ!? 早すぎないか!』

 驚きの声をあげて階層を表示しているモニターに視線を向けるエゼル。



挿絵(By みてみん)



 でも、ディルが首を横に振る。

『いえ、先ほどダンジョンを情報浸食(ハッキング)されたせいで、私ちゃん達のダンジョンの情報が敵さんに漏れているのです。簡易迷路の最短路なんて、とっくにバレていますよ。私ちゃんもすぐに対策プログラムで防衛しましたが、今回は最悪を想定しておいた方が良いです』

 そこで言葉を区切るディルに、俺とエゼルは思わず固唾を飲んでしまう。

『最悪とは……どこまでだ?』

 エゼルの動揺を隠しきれていない声に、ディルが元々透き通るような白い肌を、さらに真っ白に染めて口を動かす。

『恐らく、私ちゃん達のダンジョンの情報が、全て丸裸になっていると思います。最低でも――迷路の正解路、幹部以外の魔物さんの数やレベル、仕掛けている罠の位置や性能、仕掛けている罠の解除や無効化の方法……これらの情報は敵さんに持って行かれたと思っておいた方が良いです』


 おいおい、マジですか? いや、最悪を甘く見積もる(・・・・・・・・・)こと(・・)は、しちゃいけない。

 それは歴史が証明している。『最悪を想定するのを放棄した時に限って、想定外の出来事が起きてしまう』――歴史上の大きな失敗は、そんな事例が後を絶たない。

 特に今回のような強敵が相手の場合には、俺達全員の敗北にも繋がるのだから、最悪は本当に最悪を考えないと不味いだろう。一瞬で血の気が引いたけれど、冷静になれ……俺。


『それじゃ、あいつにはエゼル達の特製罠(現代兵器)が効かないかもしれないってことか?』

『そうなります。罠の位置がバレているだけではなく、罠への対処法や味方向けの安全装置(誤爆防止機能)を発動させるキーワード情報なども抜かれていると思いますので……悔しいですが』

『そうとなると、水島おにーさんの世界から取り寄せた反則的な兵器は、ほぼ無効化されてしまうってことか……まずいな』

『ええ。地雷や銃火器、フラッシュバンなどは、防御貫通ダメージを与えることが出来る貴重な武器だけに――最初に情報を抜かれたことがかなり惜しいです』


 悔しそうな表情のディルとエゼル。でも俺は、もっと(・・・)気になっていることを、声が震えないように気を付けながら口にする。

『ねぇ、ディル? 最初にダンジョンをハッキングされたのなら――ウイルスを仕込まれたっていう可能性は無いかな? 今は防衛プログラムでハッキングを解除できたみたいだけれど、別のプログラムがダンジョンのシステム内で破壊活動や情報収集をしtei――『ッ!? すぐに確認しますッ!!』』

 そう叫んで、すぐにキーボードを操作するディル。

 血の気が引いた顔をさらに白く染め、モニターに映る文字列を食い入るように睨みつけながら――

『ッ!! いました!! 3種類のウイルスが侵入していますッ!!』


『駆除は出来るのか!?』

『今、――2種類までは……出来ました!』

『あと1種類――『エゼルさんごめんなさい! 集中したいので静かにお願いしますっ!!』』

 普段は見せないような、ディルの余裕が無い声。

 それにエゼルは驚いた気配をわずかに漏らした。けれど、俺やエゼルではダンジョンのシステムを復旧することは難しい。だから、俺達は静かに口を閉ざす。


 でも、考えることを放棄することは絶対にしない。

 今の俺達に出来ることは、まずは新しい罠の設置だ。特級天使と直接対決をすることになるだろうから、それまでに出来る限り特級天使のHPや機動力を削っておきたい。

 特に、天使系は全回復系の魔法を使えるから、戦闘には魔法無効空間の設置が欠かせないだろう。


 そういう意味では、今の段階でウイルスに気付くことが出来て良かった。

 特級天使との戦闘中にダンジョンシステムを乗っ取られて、何の対策も無い状態で、魔法無効空間を解除されるのは悪夢でしかない。特に、追い詰めたと思った瞬間に、HPを全快されてしまう可能性も高かったと思うと――ぞっとする。

 本当に見つけることが出来たのは、不幸中の幸いだったと言える。


『よしっ♪ 私ちゃん、駆除に成功ですっ(≡ω)v』

 そんな声がディルから聞こえた。この短い時間に、ディルはウイルスの駆除を終えたようだ。


 思考加速状態の中、自慢げなのイメージを向けてくるディル。これは、「全て終わったらいっぱい撫で撫でして下さいね?』という甘えてくるときの表情だ。

 ディルとの付き合いはまだ10日程しかないけれど、何となく分かってしまう俺がいる。

『ありがとう、ディル』

『どういたしまして、なのです♪』


 一息ついた俺とディルに、エゼルが少しほっとした表情で話しかけてくる。

『なぁ、これからどうするのか? 罠を追加で設置するのか?』

 いつもの目の輝きを取り戻しつつあるエゼルの問いかけに、頬を朱色に染めながら――血の気が引いた反動が来たのだろう――ディルが首を縦に振る。

『はい。ウイルスのせいで、すでに一部無効化されている罠もありますし、現在までに設置した罠は全て敵さんに情報が筒抜けなのは間違いないと思います。なので、至急新しく罠を設置したいと思います。――おにーさんもそれでいいですか?』


 ディルの言葉に、俺は首を縦に振る。

『そうだね、基本的にはそれでいいと思う。でも、相手が特級天使だということを考えると……俺達の拠点がある最深部まで侵入させるのは、被害が甚大になるから不味いと思うんだ。だから、どこか適当な階層で戦力を揃えて迎え撃つ方が良いと思う』

 最深部のお花畑を魔法で踏みにじられるのは嫌だし、何よりも拠点を壊されると色々な意味で困ってしまう。

 ダンジョンの情報を整理した書類や、情報を入力したパソコンなんかも拠点にはあるのだから。


『そうですね、私ちゃんも迎え撃つのに賛成です』

『うむ。エゼルも、そっちが良いと思うぞ。ゴブさんやボルトさん、サキ姐さん達を単体でぶつけても、あいつは止められないからな。だが、水島おにーさんがテレパシーで教えてくれた「あいつの本来のステータス」を見る限り、今のエゼル達が全員揃えば敵わない敵ではない!』


『2人とも、ありがとう。特級天使は、もうそろそろ3階層に到達しそうだから――ギリギリになってしまうけれど、6階層のボス部屋で迎え撃つことにしよう。5階層と6階層には、今までに設置していなかった罠や魔法無効空間を設定して、出来る限り特級天使のHPや機動力を削ることにしてさ』

『了解です!』『了解だ♪』


『さて、それじゃ反撃を――』

 開始しよう……と言いかけた瞬間、ふつりと拠点の照明が落ちた。


『え?』『あれ?』

『どうしたんだ(≡ω)?』

 そして、空中に浮かぶモニターに表示される膨大なエラーメッセージ。

 バッ! と音がしそうな勢いで、ディルがモニターとキーボードを操作する。


 そして――体感時間で20秒程が過ぎただろうか? ディルがぱたりと動きを止めた。


 静かな空間。

 俺達の耳に、ゆっくりとディルの声が聞こえてくる。


『だ、ダンジョンシステム……』


 震えるディルの(テレパシー)

 いや、震えているのは声だけでは無かった。

 思考加速状態だから分かりにくいけれど、ディルの身体も震えている。

 

『……全て破壊されました……』



(次回に続く)

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