第65話:「なんでだろう? 涙が止まらないよ……あははっ♪」
「我はな、歴代最強のダンジョンマスターなのだよ。この手で、この世界を解放すると、誓ったんだよ。だから――」
小さく呼吸を整えて、我は笑顔を浮かべてその言葉を口にする。
「こんなところで、夢を諦める訳がないだろ?」
優しかったあの人と、約束したんだ。
ちょっと不器用で、優柔不断で、変なところが生真面目で――でも笑顔が素敵なあの人と。
死ぬ間際に好きだと言って、キスすらしないで「あとは任せた」と笑顔で消えて行ったあの人と。
生まれ変わったら、また絶対に再会しようと、泣きながら笑顔で約束したのだから。
「あの人の武士心を我は継いだのだッ!! あの人の笑顔をもう一度見るために、あの人の笑顔を無駄にしないために、**ルはこんな場所では立ち止まれないぃぃぃっ!!!」
スキル【咆哮】の効果により、我のステータスが30%アップする。
だが、5柱の神々を相手にするには全然足りない。
この1/5以下まで低下したHPで、本当に5柱の神々を屠ることが出来るのか?――そんな思考が頭を過る。ただ単純に特攻するだけなら、馬鹿でもできる。
でも、それじゃ絶対に勝てないと我の勘が訴えている。
「みんな――すまない」
思わず、絶望的過ぎて、気が付けばドヤ顔になっていた。
人間、どうしようもない時には笑ってしまうという与太話は本当なんだな。
「みんなには悪いが、**ルために死んでくれ♪」
我の言葉に、魔物の幹部達は、全員が嬉しそうに歓声をあげる。
「**ル様。あとは頼みます!」
「蘇生して下さった後で、戦いの様子を聞かせて下さいよ?」
「みんな楽しみにしていますからね~♪」
笑顔で死ぬことを受け入れる仲間達。鼻の奥がツンとする。こいつらは、もう、本当に最高な奴らだよ。
一方で、神々の方も若干楽し気な表情をこっちに向けている。
「フフフ、今から何をしてくれるの?」
「瀕死の重傷で、回復手段は使えない」
「ダンジョンマスターの切り札としてDPアタックが残っているけれど――我らのHPを削り切るDPを貯めるのは、100年やそこらでは絶対に無理だ」
「精々、あがいてみせよ♪」
そんな言葉が聞こえるけれど――その余裕、絶対に後悔させてやる。
まずは、呼吸を整える。
余裕ぶって悠然と立っていられる、その奢りを悔い改めさせるために……。
ゆっくりと、時間をかけて、右手に神経を集中させる。
ドヤ顔で「所詮、ダンジョンマスターごときが溜められるDPじゃ、我らのHPは削り切れない」――そんなことを言っていられるのは今のうちだ。ここで負けてやれるほど、我らの武士心は安くない。
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――スキル【戦乙女の解放】により、DPアタックの効果が1000倍になります。(与ダメージ1000倍、被ダメージ1000倍)
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強力なスキルが解除されたことを、自動鑑定スキルが告げている。
通常のDPアタックは「消費DPの1/10のダメージを相手に与える&消費DPの1/1000のダメージを味方に与える」となっているが、戦乙女の解放によりその効果は1000倍になる。つまり「消費DPの100倍のダメージを相手に与える&消費DPの1/1のダメージを味方に与える」という具合に。
今の我のHPでは、本来ならば1/1のダメージを受けると、確実に死んでしまう。
でも、我には強運がある。
スキル【ノケモノ】が発動すれば生き残ることができるだろう。
このスキルは、「致死ダメージを受けた時、(30~60%の確率で)HP1で持ちこたえることができる」というスキルだ。
1日に5回までしか使えない上、発動確率がそこまで高くないという怖さがあるのだが……このスキルを持っていたおかげで、我は過去に何度も助けられた。
さて、覚悟も決めたことだし、真のDPアタックを見せてやろう♪
「5柱の神々よ。そして――陰からこっそりとこっちを見ているその他の神々よ! コレが**ル達の生き様だッ!!」
出し惜しみなんてしない。
貯蔵DPを全部放出しても、ギリギリ勝てるかどうか分からない相手だから。
でも――負けられない。負けちゃいけない。
だから、相手に攻撃のタイミングが伝わると分かっていても、必殺技の名前を叫ぶことにした。
知っているか? 必殺技は、その名前を発動時に叫ぶと、効果が1.2倍になるんだぞ(≡ω)b
「喰らえ! 戦乙女のDPアタック!!!」
DPを純粋なエネルギーに変換して放出した直後。
5柱の神々の顔が驚愕の表情に変わる。
「なっ!」
「この力は!!」
「ぐっ!!」
「うぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
5柱の神々の声が、驚きから悲鳴と絶叫に変わっていく。
相手に消費DPの100倍のダメージを与え、味方に1/1のダメージを与えるのだから当然だ。
でも、我らも1/1のダメージを受けている。
DPアタックは防御無効で貫通ダメージを通してくるから――ステータスが10倍以上にアップしている我でさえも、ガリガリとHPが減っていく。
魔物の幹部達なんて、全員が一瞬で黒い霞となって消えて行った。
あいつら、いつも死ぬときは笑顔なんだよな。まったく、もうちょっとだけ、つらそうな顔をしろよ……。
目の前が漆黒の闇にで包まれて――全身が切り刻まれるような痛みに襲われ――それでもHP1で生き残った後。
ドラゴンが30匹自由気ままに戦闘できる広い空間の中には、我だけが立っていた。しっかりと、ダンジョンのDPが見たこともない数値になって増えていたから、5柱の神々は無事に倒すことが出来たのだろう。
「それなのに……なんでだろう? 涙が止まらないよ……あははっ♪」
――そして今日も、エゼルは目が覚めた。
(次回に続く)




