第64話:「こんなところで、夢を諦める訳がないだろ?」
「それじゃ、2回戦を始めようか?」
我は油断しない。着実に、この2柱を葬り去る。あの人との約束を守るために――。
現状、我の上昇したステータスとその速度に対して、ホーリーとタライロンは全然ついてこれていない。だから、彼らが我のスピードに慣れ始める前に勝負を決めるっ!
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――スキル【咆哮】を発動。攻撃力と防御力が30%アップします。
――スキル【神獣化】を限定解除。攻撃力と防御力が20%アップします。さらに、ケモ耳と尻尾がモフモフになります。
――スキル【神獣化】を完全解除。尻尾が超モフモフになって、全ステータスが150%アップします。
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チリチリと加速している脳の中、自動鑑定スキルがステータスアップを告げている。
ここまでのスキルの重ね掛けの合計で、我は基礎ステータスの10倍以上の力を一時的に得ている。
「明日は絶対に筋肉痛になるんだろうなぁ……」
思わず苦笑しながら、そんなことを呟いてしまったけれど、すぐに自分を戒める。
集中力を切らしたらいけない。
最後まで、気を抜かないって決めたのだから。
でも、それももうそろそろ終わりにしても良いだろう。
「攻撃こそが最大の防御であり、通常攻撃の延長線の上にある必殺技こそが、最高の破壊力を持つのだッ!!」
昔の歴史上の誰か偉い人が口にしたと言われている名言。我の好きな名言集の中の上位に食い込む名作だ。
それを全力で叫びながら、我は走る速度を上げていく。
2柱の神々のソレを軽く凌駕している我のステータス。体の周囲に張った魔法結界越しに聞こえる、音速を超えた証の衝撃波の爆音。
ドン、ドン、ドン! という連続音を響かせながら、我は最後の攻撃に移る。
必殺技は全力で叫ぶのが格好良いと思う。それが我の美学だ。
だから普段なら、絶対に必殺技名を叫んでいる。そう、普段なら。つまり、今の状況――強敵を相手にしている時――だけは例外だ。
一切油断せずに、我はスキルを発動させる言霊を、口の中だけで言葉にする。
「……(我の呼び声に応えろ、古き獣王達の手足剣よ。この刹那の刻に、我にその力を貸せっ!――スキル【獣王ノ爪】発動せよ!!)」
我の両手のかぎ爪が妖しく七色に光る。そして我は、爪を2柱の神に向けて無造作に降り――彼らの中央を一筋の光になって駆け抜けた。
「……空ぶり?」
「通り過ぎただけだと??」
ホーリーとタライロンの困惑する呟きが聞こえて来た。
どこかホッとしたその声。
でも――次の瞬間、我の後ろで肉塊が崩れる水っぽい音が聞こえた。
「……」
無言で振り向くと、赤い血だまりが、ダンジョンに吸収されるところだった。
「やっと倒せた……これで、しばらくは安心だな(≡ω)♪」
そう思った瞬間、我のお腹から刃が生えた。
……?
一瞬、思考が停止する。
あれ? なんで、こんなモノが、ここに――
「こふっ!」
口から吐血して――背後から剣で刺されたのだと気が付く。
「ば、か……なっ……」
思わず漏れた言葉に、我の背後から知らないモノの声が聞こえて来た。
「たった2柱を倒しただけで、油断するのはヨクナイねぇ? でも、これでキミも最後だ――「**ル様っ!!」」
泣きそうな声のアンブリアの体当たりで、我にトドメを刺そうとしていた者との距離が取れた。
同時に、刺さっていた剣も抜ける。
「ああ、こういう時には自分に掛かった【HPを回復できない呪い】が恨みたくなるなっ!」
身体を貫通していた刃は抜けたし、そう言っている間にも外傷だけは自動回復でキレイに塞がったけれど。
これでHPまで回復してくれるのなら、言うことは無いのだけれど。
気が付けば、HPが1/5を下回っていた。
しかも……基礎ステータスが10倍以上になっている今の状態で、我の防御力を抜いてくる攻撃をするだなんて、こいつはヤバい。
冷や汗が流れた瞬間に、我らの20メートル程先の空間が歪に揺らめく。
そして出て来たのは――ひと目で分かった。新しい神が1柱。
魔物や人間、並みのダンジョンマスターなんかでは絶対に出せない強者のオーラ。
「ん? その表情、まさかボク1人だけだと勘違いしていない?」
そして次々と空間を歪めながら現れたのは――計5柱の神々。
そのいずれもが、先のタライロンやホーリーと比べ物にならない強者だ。全身の血が凍り付くような威圧感を感じる。
でも我は、負けられない。
絶対に負けない。そう、負けられないんだ。
「我はな、歴代最強のダンジョンマスターなのだよ。この手で、この世界を解放すると、誓ったんだよ。だから――」
小さく呼吸を整えて、我は笑顔を浮かべてその言葉を口にする。
「こんなところで、夢を諦める訳がないだろ?」
(次回に続く)




