第62話:「それでは神堕としの会議を再開しようか」
『気にしちゃ、ダメだな♪ 今は、美味しいナポリタンを楽しもう!――そう、夜の夢なんて気にしちゃダメだ』
そんな風に心の中で考えてみたけれど、エゼルは少しだけ心配になってしまう。
ここ数日、毎晩のように見る夢。エゼルがどこかのダンジョンのDMとして、魔物達をまとめている夢。そして――複数の神々と戦うとても怖くて悲しい夢。
――いや、夢なんて、気にしちゃダメだ!
小さく首を横に振って、エゼルは再び笑顔でフォークをくるくる回す。
そして一口サイズのナポリタンを口に運ぶ。
「うむっ♪ この一口が幸せなのだ(≡ω)b」
芳醇なトマトソースの香り。かりッと炒められているけれど、ジューシーさを失っていないベーコン。絶妙な固さに茹でられているパスタ。
これらの無限重奏がエゼルの口の中で弾けている。
そう、今日はこの美味しいパスタを食べたのだから、あんな怖い夢は見ないだろう。
ナポリタン大明神様々なのだ♪
うん、何だか大丈夫な気になってきたぞ♪
――そして、その日の夜。エゼルは、またあの夢を見ていた。
◇
「**ル様、**ル様。会議中なのです、起きて下さい!」
我を呼ぶ声に、思わず抗議の声をあげてしまう。
「あと5分だけ……あと、5分だけ寝かせてくれ……(Tω)ノシ」
「ダメです。このアンブリアの目が黒いうちは、**ル様を甘やかさないと決めたのです!」
そして、言葉と同時に我の頭に衝撃が走る。
「あぅち! ひ、酷いじゃないか、無防備に寝ているところに拳骨を落とすなんてッ!」
思わず上半身を起こして、アンブリアに非難の視線を送る。
でも、この生真面目執事は涼しい顔で我の視線を受け流しやがった。
「会議中に寝ている貴女が悪いのです」
「あのなぁ、我は連日のお仕事で疲れているんだぞ?」
「いえ、お仕事をしているのは、ここにいるみんなが共通している事柄です。働かざる者、喰うべからずですよ、**ル様? 最近、体重が増えたとおっしゃっていましたし、ダイエットでもしますか?」
「ダイエットは嫌いだ。運動する方向で体重は調整する(Tω)」
「まぁ、そんなことよりも――早く会議を再開しますよ?」
……こいつ、我の体重管理を「そんなこと」の一言で済ませやがった!? あとで絶対に泣かす!
そんな風に思った瞬間だった、アンブリアがその言葉を口にしたのは。
「そう遠くない未来に、タライロンとホーリーという2柱の神々がわたくしどものダンジョンを滅ぼそうと攻めてくるのです。**ル様も真面目に会議に参加して下さいよ?」
その言葉で、モヤモヤしていた頭の中が、すーっと霧が晴れるようにすっきりしてきた。
「――すまない、ちょっと寝ぼけていたみたいだ。我が悪かったな」
「いえ、わたくしもいきなり拳骨を落としてすみませんでした」
「ふふっ、いつも迷惑を掛ける」
「いえいえ。**ル様が、いつもそのような感じで凛々しいお姿でいて下さると、わたくしの存在価値がなくなってしまいますからね」
生真面目執事とのやり取りを終えてから、我は会議場に揃っている幹部級の魔物達を見渡す。
その数、108名。
我のダンジョンができた当初から仕えてくれている者から、つい半年前に幹部級に昇進した新人までが真剣な表情で我を見ていた。
「皆、すまないな。少し疲れていたみたいだ。――さて、それでは神堕としの会議を再開しようか!」
我らが敵対するのは、タライロンとホーリーという2柱の神々。1ヵ月前に、我らのダンジョンに奇襲をかけて来た嫌な奴らだ。
あいつらは暴力と貪欲を司る神だが、我に言わせれば『HPだけが高い脳筋』でしかない。
油断してはいけないが、我らの経験値となってもらおうじゃないか♪
(次回に続く)




