第7話:「本気を見せてやる、生まれてきた事実を後悔しろよ♪」
「目ッ、目ッ、目がああああああッーーー♪♪」
尻尾をフリフリしながら、なぜかとても嬉しそうなドヤ顔で、目元を押さえて叫んでいるケモ耳天使。
……コイツ、日本の某有名アニメの知識、持っていないよな? 偶然だよな?
そんなことを一瞬考えてしまったけれど、すぐに頭を切り替える。 ワザとだろうが、本気でだろうが、ケモ耳天使が覚醒した俺達を相手に隙を晒しているのは間違いない。
『おにーさん、聞こえていますか?』
ディルからテレパシーが飛んでくる。
頭の中に直接声が聞こえるって、慣れていないせいか、何だか変な感じだ。
『えっと、聞こえているけれど……コレ、考えたままでディルにも聞こえている?』
『ハイっ♪ 聞こえていますよ!』
『了解』
『ところでおにーさん、DMになったことで、スキルは解放されましたか?』
『ああ、【鑑定】とか【モニター】とか、なんか色々増えているよ?』
ここまで、経過時間は0.001秒未満。俺がダンジョンマスターになったことと、ダンジョンコアのディルと契約したおかげか、「お互いの脳に、お互いの思考回路を直接埋め込んで、1000倍に処理を加速させたかのような」スムーズなコミュニケーションが可能になっている。
他にも、ダンジョンマスターに進化したことで、俺はいくつかのスキルとDMとして必要な知識を得ることが出来ていた。
その一つ一つを検証するには今は時間が足りないけれど、常時発動型のスキルは早速仕事をしてくれている。
例えば、鑑定スキルは「視界に入ったもの」かつ「興味を持ったもの」の情報を表示する。試しに、俺自身や視界に入っているディルを鑑定で見てみると……一瞬で、このような表示が見える。
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【水島鮎名】
種族:ダンジョンマスター(元・人族)
性別:男
属性:闇・水
レベル:1
HP:150
MP:150
SP:150
※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。
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【カンディル・バイオレッド】
種族:吸血姫型ダンジョンコア
性別:女
属性:闇・魅
レベル:6
HP:660
MP:660
SP:330
※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。
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この詳細鑑定を設定すると、攻撃力や防御力なども表示されると「ダンジョンマスターとしての知識」が教えてくれている。――が、今は俺達自身のステータスをじっくり見ている時間なんて無い。それよりも、ケモ耳天使の力を知る方が大切だ。
早速、ケモ耳天使を詳細鑑定してみる。
ちなみに、ここまでの経過時間は0.004秒。ケモ耳天使は、まだ目を押さえて尻尾を振りながら、楽しそうに騒いでいる。
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【エンゼル・マーブル】
種族:天使
性別:女
属性:聖・光
レベル:251
HP:25100
MP:15100
SP:35100
物理攻撃力:4010
魔法攻撃力:1010
物理防御力:2510
魔法防御力:2510
筋力:451
精神力:151
賢さ:151
素早さ:351
器用さ:151
運:251
称号:
中級天使/脳筋/落ちこぼれ
スキル:
断罪の瞳/level10/完全に犯罪者を見分けることが出来る。
鑑定/level6/相手のステータスを見ることが出来る。
身体強化/level7/SPを消費して身体能力を向上できる。
攻撃力強化/level6/SPを消費して物理&魔法攻撃力を向上できる。
etc……
魔法:
聖属性魔法/level7
光属性魔法/level6
生活魔法/level9
etc……
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……まぁ、普通に戦ったら勝てないよな。
相手さんが余裕なのも理解できる。普通ならば新人のダンジョンマスター&ダンジョンコアが勝てる相手ではない。でも――ディルから伝わってくるテレパシーによると――『ちょっと危ないですが、絶対に勝てる方法があります!!』とのことだ。
『ディル? 作戦の中身を教えて。俺は、何をすればいい?』
『はい、時間が惜しいので手短にいきますね! 今回は、ダンジョンコア&ダンジョンマスターしか使えない【DPアタック】というスキルを使います。ここまで言えば、大まかなことは理解出来ますよね?』
『――それだと、俺が死ぬんだけれど?』
気が付けば、ディルに即答していた。
DPアタックとは――名前がちょっとダサいけれど――DPを消費して「DP×1/10の防御貫通&無効ダメージを、相手に確実に与えることができる」ダンジョンマスターの必殺技とも言える固有スキルだ。
ダンジョンマスターとダンジョンコアが世界最凶種族として忌み嫌われ、世界最強種族の一角に立っている、大きな理由の1つ。
その破壊力は、世界最強種族のもう一角である「108柱の神々」を相手取ることができる。
過去には、数百年単位で貯めたDPを一気に放出して、7柱の神を一気に殺して魔神に成り上った『神殺し』も存在していたらしい。ちなみに、俺のダンジョンマスターの知識としてインストールされている内容が正しければ、彼女はその後に世界の半分を支配し、『混沌なる者』という称号を得た。
――でも、そんなDPアタックにも欠点がある。「使用したDP数の1/1000のダメージを、自分やその周囲500mにいる仲間にも与えてしまう」という大きな欠点が。
例えば、今回のケモ耳天使を屠るためには、最低で25万1000DPが必要になり、味方のダメージは250前後のダメージをそれぞれもらうことになる。
HPが660あるディルは余裕で耐えることができるけれど、HP150の俺は確実に死ねる。
『あはは~♪ そこは、私ちゃんのスキル【身代わり】でカバーしますから大丈夫です! 24時間で1回こっきりしか使えませんが、全ダメージを私ちゃんが肩代わりすることが出来ますので!!』
『それじゃ、ディルが危険な目に――「コレしか、私ちゃん達が勝つ方法はありません。DPアタックで私ちゃんが死ぬのなら、おにーさんに止めてもらえると嬉しいのですが、今回はそうじゃないですよね? 単純な計算ではギリギリ。正直、危険ですけれど、コレは大きなチャンスです」――っ!」
ディルの言う通りだった。ディルを危険な目に合わせたくないという俺の勝手な我儘で、ディルの行動を縛るようなことをしてはいけない。彼女は、一人の自立した存在なのだから。
それに、ディルになら俺は、命を預けても良いと思える。
「……分かった。ディル、防御は全部任せた。俺の命の管理は任せた♪』
『ラジャーです。それじゃ、私ちゃんの持っている26万DPをダンジョンに連結しますから、それを全部使って『ケモ耳天使』とかいうあざとい子を、やっつけちゃって下さいっ♪』
『了解♪ ――でも、26万DPって、よく持っていたね?』
ちなみに、1DPで「小さな菓子パンが1つ」とか「缶ジュース1本」が召喚できる。どんなに安く見積もっても、1DP=100円くらいの価値がある。つまり、26万DPは日本円に換算して2600万円以上。
それが一瞬で消えると考えると、空恐ろしいものがある。
『おにーさんと2人で生き残れることを考えたら、安いものです! 私ちゃんの結婚資金が全滅するだけですし、おにーさんに責任取ってもらえれば全部オッケーで大丈夫ですからっ♪ ぼそっ(洞窟の中にたくさんのこうもりさんが居てくれますから、毎晩、撃退DPが1万DP入ってくるのは、一生内緒ですっ♪)』
『えっ? こうもりだけで、毎日1万DPもゲットできるの!?』
何か、聞いちゃいけないことが聞こえたような気がして、つい聞き返していた。
慌てたような声がディルから返ってくる。
『――ッ!? あ、後で、説明しますからッ!! 今は、もっと重要なことが有るはずですっ!!』
……ああ、これはマジで聞いちゃいけないことだったんだな。よし、忘れよう! 話を切り替えよう、集中しないといけないから!!
『うん、そういうことにしておこうかな。それじゃ――あと、0.1秒後にDPアタック、行くよ?』
『了解です! 私ちゃんはいつでも行けます!!』
0.01秒でディルが魔法障壁を展開。
0.03秒でディルと俺の周囲を漆黒の闇のオーラが包み込む。DMの知識が、それがDCの『身代わり』スキルだと教えてくれる。
0.05秒で、ディルから『準備完了です!』とテレパシーが帰ってきた。
0.08秒。意識を集中させる。でも、まだ殺気はケモ耳天使には向けない。察知されるのが嫌だ。
0.09秒。集中した意識をケモ耳天使に向ける。
0.10秒――さぁ、弱者である俺達の反撃の刻がやって来た。極限まで圧縮した26万3521DP。俺が持っている全DP。その威力を、この世界に解き放つ!
必殺技の名前をあえて叫ぶようなことはしない。技名で、相手に「今から攻撃しますよ~」と教えてやる必要は無いから。
漆黒を通り越して、小さなブラックホール化している丸い球。それが、ケモ耳天使のすぐ横に転移した。――っ!? 体内に転移させるつもりが、何気に一瞬で急所を外された!?
「おうふ(≡ω)! コレ、直撃は、ちょっとまずいかも!!?」
どこか余裕を感じる、その言葉。
ニヤリと笑っている、その口元。
0.001秒の世界の中で、俺とケモ耳天使の視線が交錯する。
――直後、世界から音が消えた。
空気の震えさえも吸収する「漆黒の渦と歪な触手」が俺達を包み込む。全身が引き裂かれるような強い痛み――を感じそうになった瞬間、俺の身体を昏い光が包み込む。
「私ちゃんの『身代わり』発動成功ですっ!!」
ディルの声を聞きながら――ディルのHPが残っていることにホッとしつつ――まだ、倒れていない彼女に目線を向ける。
「お前ら、なかなかやるのな~♪ さっきまで未契約だったDMのくせして、エゼルに攻撃を通せる量のDPを持っているなんて、驚愕を通り越してちょっと感心したぞ!!」
とても嬉しそうに尻尾を振るケモ耳天使。
「でも、DMの迷宮に挑むのに、DPアタック対策をエゼルがしていない訳が無いじゃないか。そこは大きな油断だぞ(≡ω)ノシ」
見た目では、ほぼノーダメージ。鑑定スキルで表示されるHPでは、ギリギリ1/3を削れた程度。
ゆっくりと、そうゆっくりと、ケモ耳天使のまとう雰囲気が強くなる。
ただでさえ、気を抜けば足と心が竦んでしまいそうになる「絶対的強者が持つプレッシャー」を最初から感じているのに、追加で明確な殺気を当てらえるのはかなりしんどい。
俺の表情が固まったのが見えたのだろう、苦笑するように笑ってから、ケモ耳天使が口を開いた。
「さぁ――エゼルの本気を見せてやる、生まれてきた事実を後悔しろよ♪」
(次回に続く)