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第61話:「――そう、夜の夢なんて気にしちゃダメだ」

「拾ってあげた恩を仇で返すような『恩知らず』は、この手でしっかり駆除しないといけませんね……くふっ♪」

 テトラの村で、特級天使のクローバーが凶悪な呟きを漏らした。


 その頃、何も知らないエゼルは、ダンジョンの拠点で特盛ナポリタンと戦っていた。

「うまうま♪ もぐもぐ♪ うまうま♪ もぐもぐ♪」

 山のようにという表現は少し大げさかもしれないが、あれだけ大盛りにしてあったナポリタンの山は、もうすでに1/2以下になっている。


「エゼル? あんまり一気に食べるのは、身体に悪いよ?」

「そうですよ? 一気食いは太る原因になるって、私ちゃんは聞きましたよ?」

「何っ!? それはマジか!」

 水島鮎名とディルの言葉にエゼルは驚きの声をあげた。――ものの、彼女の右手はパスタを丸める作業を止めていない。次のナポリタンを口に運ぶために。


 しかも、丸まったナポリタンは、エゼルが一口で食べられる限界サイズとギリギリ同じ。

 それは「いかに効率良く、たくさんのご飯を食べるか?」ということを長年考えて来た経験則から生まれた、エゼルの身体に刷り込まれている最適解だった。

 恐るべし、エゼルの食欲。


 しかし、一瞬表情を固めただけで、エゼルはニヤリとドヤ顔を作った。

「まぁ、エゼルはこんな食生活を何百年もしてきて、太ったことは一度もないからな♪ 多分、これからも大丈夫だ(≡ω)b」

 そんなことをのたまうエゼル。

 でも、それに冷や水を浴びせる一言がディルの口から飛び出した。


「……こっちの世界の食べ物のカロリーと、おにーさんの世界の美味しい食べ物のカロリーが、一緒という前提なら良いのですけれどね……。エゼルさんは、まだ気づいていないのですか? 『美味しいモノは基本的にカロリーが高い』という法則に(Tω)」

「ぐはっ! そ、そんな……そんなことは……」

 否定しようとするエゼルの頭の中に、ポテトチップスやアイスクリームや霜降りA5ランクのお肉が浮かんでは消えて行く。


 どれも今まで食べたことの無いような、甘露ともいえる美味しさだった。

 そして――何となく鑑定してみた結果の中に紛れ込んでいたあの数字。正直に言うなら、脊髄反射レベルで見て見ないふりをしていた、本能的に見て見ないふりをしていた悪魔の数字。


・ポテトチップス⇒559kcal(100gあたり)

・バーゲンダッツ!⇒244kcal(110mlあたり)

・A5ランク霜降りお肉⇒510kcal(100gあたり)


「おぅふ……(≡ω)」

 エゼルが机の上に崩れ落ちる。器用にナポリタンやスープの皿だけは上手に避けて。

 そして、ゆっくりと蚊の鳴くような声で言葉を絞り出す。

「エゼル、アシタカラ、ウンドウスル。ポッチャリエゼルニハ、ナリタクナイ(Tω)」


 そしてそのまま5秒程度、固まってから――がばりっ! とエゼルは身体を上げる。

「でもっ、今夜のナポリタンは全力で楽しむのだッ♪ ダイエットは明日からなのだっ!」

 ディルと水島鮎名の可哀そうな生き物を見るような視線を無視して、ナポリタンとの格闘を再開するエゼル。

 その姿は、ある意味で勇者と言える……かもしれない?(いや、多分、言わないだろう)


「うまうま♪ もぐもぐ♪ もぐもぐ♪ うまうま♪」

 若干、やけになりながらも、ナポリタンをしっかり味わって食べているエゼル。

 美味しい食べ物には敬意を払って味わうのが、彼女の信念だから。


 そして――ナポリタンを食べながら、ふとエゼルは少しだけ不安な気持ちになる。

『最近、夜に変な夢を見るんだよなぁ……今日も、あの夢を見るのかな?』

 モヤモヤとした気持ちがエゼルの胸の中に広がっていく。

 しかし、その暗い気持ちを引きずったまま美味しいご飯を食べるのは、彼女の信念とは外れていた。


『気にしちゃ、ダメだな♪ 今は、美味しいナポリタンを楽しもう!――そう、夜の夢なんて気にしちゃダメだ』

 小さく首を横に振って、エゼルは再び笑顔でフォークをくるくる回すのであった。



(次回に続く)

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