第57話:「素敵なプレゼントを設置するのだぁぁっ(≡ω)b」
「おまえの迷宮をぶち壊すっ(≡ω)! 迷宮殺――「エゼル? ソレだけは、止めとこう? うちのダンジョン、たとえ幻想だったとしても、壊さないで……otz」」
俺の突っ込みというか、半分以上お願いになっているその言葉に、エゼルがしまったという表情を浮かべる。
「すまなかった、ぶち壊しちゃだめだよな、自分のダンジョンを」
「……うん、うちのダンジョンどころか、この世界ごと壊しそうな勢いだったからね?」
「そうなのか??」
エゼルはきょとんとして不思議そうな顔をしているけれど、よくよく考えたらかなり危険な言動をエゼルはしていたと思う。
この世界には神様がいて、さらにその上に神々をまとめる存在が少数いるらしいけれど……俺のダンジョンマスターの知識が、『彼ら』を超える「|運営《Administrator》」や「読者」という存在がいると警告していた。
うん、世の中は、知らない方が幸せなことがとても多いなぁ――ということにして、あんまり考えないことにしよう!!
これ以上考えると、やぶ蛇になりそうだから。
「……とりあえずエゼル? この前、エゼルの提案を受けてウチのダンジョンの階層を変更したけれどさ。ここから、どんな風に改良していくと良いと思う? ダンジョン・ブレーカー的な視点として」
「うむーっ、そうだな……取りあえずの仮想敵は、この間の夜に話したみたいに『天界の天使』で良いんだよな?」
腕を組んで少し考えるような仕草をするエゼルに、俺は頷きを返す。
「そうだね、俺達の最大の敵は、しばらくは天界からやって来る天使だと思うよ。エゼルくらいのレベルを持った中級天使が単体ならまだしも、複数で攻めてこられるとかなりしんどい」
「そこは大丈夫じゃないか? 当面の間はエゼルが堕天したことは気付かないだろうし、やって来たとしても、行方不明になったエゼルの後釜が1人だけだろうから」
「あれ? 行方不明になったエゼルさんの捜索隊みたいなものは出ないんですか?」
何気なくといった様子で言葉を口に出したディル。
でも、エゼルは一瞬だけ暗い表情を浮かべて、無理やり笑顔を作った。
「あはは……多分、エゼルの捜索隊は出ないだろうな。ほら、エゼル、天界じゃ落ちこぼれだったから♪ 確実に死んだと思われた方が、無駄飯ぐらいが減ってあいつらも助かるだろうし(≡ω)b」
「あっ、す、す、すみません!」
「謝るなよ? 何か調子狂うだろっ♪」
エゼルは笑顔だけれど、何か微妙に気まずくなった空気。それを早く入れ替えるために、俺は話題を変えることにした。
「つまり、天界の天使に気付かれるのは“当面の間”は無さそうってことだよね? 良かったよ、俺達にとっては僥倖だ♪」
エゼルを慰める意味も込めながら、努めて明るく言ってみる。
そして、エゼルがはにかむようにもう一度苦笑したのを確認してから、別の話題を切り出す。
「そうなると、俺達はしばらくの間は、時々迷い込む冒険者を確実に相手にしないといけないよね? 『一度入ったら出られないダンジョン』という意味でさ」
「そうなるな(≡ω)」「はい、私ちゃん達のダンジョンに入った侵入者さんは、逃がさないのです!」
重なったエゼルとディルの言葉を聞いてから、俺は言葉を続ける。
「そう、ディルが言ったように、ダンジョンへの侵入者は絶対に逃がしちゃいけない。ダンジョンの情報は、あと半年くらいは最低でも外に知られたくないから。そうしないと、想定よりも早く討伐の天使がやってくるかもしれないし」
「そうですよ~。私ちゃん達のダンジョンが一攫千金狙いの冒険者で溢れるのは、今はまだちょっと困ります。まずは準備期間中として、私ちゃん達は力を蓄えないといけないのですから!」
がんばります、といった表情で握りこぶしを作るディル。
その様子を見ながら、エゼルもコクコクと首を縦に振った。
「うむうむ(≡ω) そうなると今のエゼル達が取れる手段は、この前も話し合ったが――『確実に侵入者を必殺できるダンジョン』一択だということになるよな? あーんな罠やこーんな罠が満載な、特製ダンジョンを実現する時が、ついに来たのだっ♪」
ちょぴっとドヤ顔になるエゼル。でも、自慢したくなる気持ちは俺も分からなくもない。
数日前に3人で熱中しながら話し合った色々な工夫を、これからうちのダンジョンに実際に組み込んでいくのだから。こんな状況でワクワクしない人間は、多分、世の中にいないと思う。
正直、秘密基地を拡張するみたいで俺もかなりドキドキしているのだけれど、冷静さを失ってはいけないとあえて自制して真面目な表情を作る。
「分かっていると思うけれど、いきなり強い罠や魔物を配置するのはいけないよ?」
俺の言葉に「分かっているぞ」と言いたげな表情で、食い気味になりながらエゼルが返事をしてくれた。
「そうだよなっ♪ この前も話をしたが、エゼルもそこが一番肝心な部分だと思うんだ! いきなり致死性の高い罠や強い魔物が出てくると、侵入者はすぐに逃げてしまうからな。むしろ最初は弱い罠や魔物ばかりにして、『コレ、よゆーで攻略できるじゃん♪』と調子にのせて、退路がすぐに確保できない状態まで引っ張ってから――強力な罠や魔法で一気に叩く方法が確実なのだっ(≡ω)♪」
興奮気味で一気に言い切ったエゼルの言葉。それに乗っかるようにして、ディルも嬉しそうな表情で首を縦に振る。
「そうですよね~、当面の間は、このダンジョンの存在を知った人は死あるのみです♪ でも――例外的に『良い人材』ならば、契約魔法でダンジョンの事を話せないようにした後に、取り込んだり解放したりすることも考えますけれど♪」
そう言って満足げな表情を見せるディルとエゼル。
今、ディルが言ってくれたルールは、「侵入者は基本的には死あるのみ。でも、鹿島さんのように稀にいる『殺すには惜しい人材』を確保するための余裕は、いつも必ず持っておこう!!」という考え方だ。
今はまだ、俺達3人だけでダンジョンの方針を決めているから良い。
でも、近い将来にはサキ姐さんやスラちゃん、ゴブさんやボルトさんにも運営に関する意見を求めて行こうと考えている。そして、将来的にはもっともっと俺達の仲間は増えて行くだろう。
その時に無用な混乱やトラブルを回避するためにも、今のうちから「基本原則」と「その例外」に関しては、しっかりとルールを決めて確認しておこうと俺達3人は考えたのだ。
もちろん、この「基本原則とその例外」という考え方はディルやエゼルと打ち合わせをして、罠の設置方法やダンジョンの魔物を呼び出す優先順位、さらには緊急時の回復優先順位などにも細かく決めている。
まだまだ仮のモノだけれど、今後の運用でその精度を高めていきたいと思っている。
――と、思考がズレたな。今は、思いっきりダンジョンの改造を楽しもう!!
「それじゃ、早速だけれど、優先順位を決めて罠を設置していこうか?」
「ついに来ました、了解です!」「いよいよだな! ワクワクするのだ(≡ω)ノシ」
言葉を重ねた2人に頷きを返しながら、俺もドキドキする気持ちを何とか抑える。
「まずは、各階層にどれだけDPをつぎ込むのか決めないとだね。この前、ある程度の構想は決めたけれど、あれから数日経ったわけだし……もっと良いアイディアが浮かぶかもしれないから、1つずつ確認していこう♪」
「はいっ! 提案がありますっ♪」
しゅぱっ! と音がしそうな勢いで右手を挙げたディル。
視線でディルに言葉を促すと、嬉しそうにディルが言葉を発した。
「それじゃ、まずは7階層から考えましょう! ここが最終防衛フロアになるわけですし、7階層に安心感が無ければ、健全なダンジョン生活は難しいのですっ!」
ディルの言葉に、エゼルもコクコクと頷く。
「そうだな♪ 最終防衛フロアはとても重要だぞ♪ ここは対天使&対上級冒険者向けの素敵なプレゼントを設置するのだ(≡ω)b」
エゼルの言う、素敵なプレゼント。それは――初見殺しの罠の数々。
重力場を応用した『天井に落ちる罠』だったり『空を飛べなくなる空間』だったり、空気中の酸素濃度を薄くしたスズメ地獄ならぬ『こうもりさんの安眠部屋』とか、さらに極悪な一酸化炭素を充満させた命がけの謎解き部屋こと『タイムアタック・ルーム』などなど。いずれも初見では、手痛いどころか致命傷になりうるダメージを侵入者に与えることが出来る罠ばかり。
もちろん、既存の罠と組み合わせて、確実に仕留められるように凶悪度を上昇させた状態で、設置するつもりだけれどさ。
俺もDMになったことで「敵対する人間がダンジョンで死ぬこと」は「大好きなペットに餌をあげること」くらいに自然で大切な事だと感じるようになった。
そして、元人間のDMになったからには、それなりの覚悟を決めたのだ。
息をしなければ生きていけない。ご飯を食べなければ、生きていけない。
もちろん将来的には、自分の国の住民の撃退DPや滞在DPだけで生きていけるのが理想だけれど――今はまだ、その段階ではないのだと自覚もしている。ネット小説でよくある『異世界転移ダンジョンマスターモノのお約束』だから、いつかは「人喰いダンジョン」は卒業したいのだけれど――それは今じゃない。そんな甘いことを夢見ていたら、ディルとエゼルを失ってしまう。
俺が死ぬのはまだ許せる。でも、ディルとエゼルが死ぬのだけは、絶対に自分のことが許せなくなる。
だから――
「重要だから繰り返す! 素敵なプレゼントを設置するのだ(≡ω)b」
ふと、昏い感情に囚われそうになった俺の耳にノリッノリなエゼルの言葉が聞こえた。思わず「エゼルはテンション高いな~」と苦笑してしまった。
同時に、心の中に広がっていた重たいモノが消えたような気がした。
「エゼルは、やっぱり俺にとっては大切な存在だよ」
「ん? 水島おにーさん、何か言ったか?」
「ううん、何でもない。それよりも――初見殺しの罠は、外せないよね?」
良かった。俺の言葉は、エゼルには聞こえていなかったみたいだ。
そして、俺の誤魔化しの提案に、テンションが高いエゼルは食いついてくる。
「もち! 水島おにーさんが元いた世界の兵器も、じゃんじゃん設置するのだ♪」
そう、初見殺しという意味では『地球産の兵器』はかなり効果が高い。だからウチのダンジョンの深部には、人道的なモノから非人道的なモノまで、効率重視で遠慮なく設置しようと俺は考えている。
コストパフォーマンスが良い埋め込み型の対人地雷はもちろん、センサーで反応する大音量の音響兵器やフラッシュバンなんかも設置予定だ。
ちなみに欲を言えば、もっと強力な兵器が欲しいと思ったのだけれど……今の俺達の手持ちのDPでは、満足な数をそろえることが出来ないから断念した。
対人地雷なら、一番安い中東やアフリカ産のブツで1個5DPで購入できるのに対して、俺が欲しいと思ったサブマシンガンタイプのMとPが付く銃火器は最低でも1万2000DPのお値段が付いている。UとZが付く旧式のタイプでも6000DPと、微妙に高い。
こうもりさんのおかげで買えないことは無いけれど、消費する弾や消耗部品の事を考えると……おいそれとは手を出せないのが現実的なのだ。弾が1つで1~2DPだけれど、あっという間に3000とか5000DPとか消費することになりそうだから。
「重要だから繰り返す!! 素敵なプレゼントを設置するのだ(≡ω)b」
同じ言葉をドヤ顔で3回も繰り返したエゼル。
ディルも「ですです♪」と言いながら、わくわくした表情を浮かべていた。
うん、2人との付き合いもそれなりに長くなっている俺だから分かる。……エゼルもディルも危ないくらいにテンションが高くなっているよ……。
「重要だから繰り返す!! 素敵なプレゼントを設置するのだぁぁっ(≡ω)b」
ああ、もうエゼルが壊れ始めた。ちゃきちゃきと、罠の設置を始めましょうかね♪
(次回に続く)




