閑話:「ボクはもっともっと強くなるよ!」
だんじょんますたーが提案した「アンデッド・デミ・ドラゴン」を活用したレベル上げ。それが終わった後に、ボク達4人は自主的な訓練をすることになった。
だんじょんますたーとコアマスターとエゼルの3人を見送ってから、隣にいるサキ姐さんの方をボクは見る。
「……(サキ姐さん、それじゃボクと訓練しよ?)」
「ええ、スラちゃんさん、お手柔らかにね♪」
「……(スライムだからって油断していると、負けちゃうかもよ? ニシシッ(///∀) )」
「あらあら♪ その自信と高くなったお鼻を、ぽきっと折ってあげましょうか? うふふっ♪」
表情では笑顔を作っているけれど、サキ姐さんも早く自分の力を試したいといった雰囲気を隠せていない。
一見穏やかそうに見えるこの人も、一皮むいたら、かなりの戦闘狂だから。
ドキドキする気持ちと、ちょっとぞくぞくする軽い恐怖を楽しみながら、ボクはサキ姐さんと訓練場の南側に移動する。
北側はゴブさんとボルトさんが使用するから、距離をあけたのだ。
なお、訓練場には、非番の魔物達が集まっている。
初めてのアンデッド・デミ・ドラゴンを使ったレベル上げだったし、レベル上げを経験したボク達がどれほど強くなったのかを、その目で実際に見ておきたいのだろう。
あるいは、近いうちに自分達も同じようなレベル上げに参加することを知っているから、興味津々なのかもしれない。
「……(みんなー、急いでスペースあけて下さーい!!)」
「……(そっち、もう少し離れた方がいいですよー!!)」
ボク達が移動するのに合わせて、銀ちゃんと桃ちゃんが観客達を誘導してくれる。
そのおかげで、南側に陣取っていた観客達が割れるようにして距離をあけてくれた。これなら、良い感じに広いスペースで戦うことができそうだ。
「……(最初は力加減に慣れていないから、お互いに弱い攻撃からいこうよ?)」
ボクの声に、サキ姐さんが首を縦に振る。
「もちろんよ。コアマスターが中級ポーションをたくさんと上級ポーションを少しだけ置いて行ってくれましたから、致命傷を避ければ大丈夫だと思いますけれどね」
「……(分からないよ? サキ姐さん、油断しちゃダメだよ?)」
「それもそうね、ごめんなさい。気持ちをしっかりと入れて、油断しないようにするわ」
気を引き締めたサキ姐さんに頷きを返してから、ボクもゆっくりと口を開く。
「……(オーケー♪ それじゃ、まずはボクから攻撃させてもらうから、その後にサキ姐さんは攻撃してね? 交互に、攻守を入れ替えながら『いのちをだいじに!』で組み手をして行くイメージで!)」
「ええ、分かったわ♪」
「……(それじゃ――いくよ!)」
まずは、基本攻撃から。
スライムの身体を活かした、跳びはねながらの体当たり攻撃だ。
「……(体を丸めて、ジャンプして――ランダムに複雑な動きを加えながら跳びはねる!)」
第一印象、身体が軽い。
第二印象、スピードが乗る。
第三印象、このままサキ姐さんに当てても良いのか不安になる……。
「……(サキ姐さん、行くよ!? 準備は大丈夫ッ!?)」
「ええ、どーんと来なさいなー♪」
サキ姐さんの余裕そうな声を信じて、ボクはちょっと軽めにサキ姐さんに体当たりをする。
ドズンッ!! という重たい音を立てたけれど、ボクの身体はサキ姐さんに受け止められてしまった。
直後、聞こえてくる部下達のどよめき。
そりゃそうだ。『軽く』とはいっても、今までのボクの何倍も――下手したら十何倍も――早いスピードでの体当たりだったのだから。
「なかなか良い一撃だったわね♪」
どこか嬉しそうな表情のサキ姐さん。多分、ボクが強くなったことと、サキ姐さん自身が強くなったボクの攻撃をちゃんと受け止められたことが嬉しいのだろう。
サキ姐さんが余裕な事を知って、サキ姐さんの眷属であるキラーバッドやキラーマウス達が嬉しそうに鳴いている。
そしてボクの部下であるスライム達も、「次は頑張って下さい!」とか「思いっきりやって、倒しちゃうのです!!」とか、真剣かつ熱い声で言っている。
これは訓練だから「倒す」のはいけないんだけれど……多分それを言っても聞いてくれなさそうな雰囲気。みんな、めっちゃ盛り上がっている。
……とりあえず、ボクの攻撃を受け止めてくれたサキ姐さんに声を掛けることにしよう。
「ありがとう、サキ姐さん♪ 今度は、もっと強くても大丈夫そうだね?」
「ええ、まだ余裕があったわ♪ お互いに少しずつ、焦らずに力を出していきましょ?」
「りょーかい!」
「それじゃ、次はおねーさんの番ね♪」
後ろに飛び跳ねて距離を取りながら、サキ姐さんが軽い口調でそう言った。
でも、その瞳だけは真剣な色を隠せていないけれど。
「うん、いつでも攻撃して良いよ!」
「そう、それじゃ――愛の右腕ぱーんち♪」
気が付けば、一瞬でボクの目の前に移動していたサキ姐さん。
そこから放たれる音速の右ストレートを、ボクは慌てて左手で払いのける。
「……(ちょっ! 早すぎッ!!)」
「あら? コレをよけられちゃうの? それじゃ――もっと早く、愛の左腕ぱーんち♪」
サキ姐さんの音速を超えた(多分)左ストレートも、身体を捻ることでボクは何とかかわす。
あんなパンチ、まともに喰らったらボクの身体が吹き飛ぶよ!!
「え~っ! よけてばっかりじゃなくて、ちゃんとおねーさんの愛を受け止めてよっ!!」
「……(馬鹿なこと言わないで!! サキ姐さんの愛は、受け止めたら命に関わるよッ!!)」
「も~、おねーさん、傷つくわぁ(Tω)ノシ」
「……(こっちは物理的に傷つくの!!)」
思わず、全力で叫んでいたボクに、サキ姐さんがクスクスと笑い出す。
「……(ん?? どうしたの?)」
「いや、スラちゃんさんは、自分も大幅にレベルアップしているのを忘れているんじゃないかなって思ってね♪ 今のあなたのレベルなら、多分、私の攻撃を受けても大丈夫だよ思うわよ?」
「……(あ!)」
「え? 何? 本当に忘れてたの??」
ちょっと残念な生き物を見るような視線を受けてしまう。
ぅうっ……精神的なダメージがぁ……。
「……(ゴメン、マジで忘れてたよ。……ボクが受け止めないと、訓練にならないよね? 次は、ちゃんと受け止めるから!)」
「そうね。でも――最初だから、ちょっとだけ手加減するわよ♪」
「……(りょーかい! さぁ、カモン♪)」
ちょっと軽い調子で口にしたボクに、サキ姐さんの右ストレートが襲い掛かってくる。
思わず避けそうになったけれど、ぐっと我慢して両手を交差して受け止める。
パァン!! という、水面を強く叩くような音が周囲に広がり、ボクの身体は2メートルくらい後退した。
「……(ちょっと痛かったけれど、ほぼ無傷だね……自分でもちょっと信じられないよ)」
「ほら、おねーさんの言ったとおりでしょう? すらちゃんさんもレベルが上がったのだから、大丈夫ね♪」
平然な様子で話をしているボク達に、配下の魔物達は興奮して歓声をあげている。「強い」とか「格好良い」とか大絶賛だ。
何かちょっと恥ずかしい気がするけれど……気にしないで訓練を続けよう。
「……(うん、それじゃ、この調子でどんどん組手をして行こうか?)」
「ええ♪ 『安全第一&いのちをだいじに』で行きましょう!!」
こうして始まったボクとサキ姐さんの2人での訓練。
途中まで順調だったけれど、熱くなりすぎてガチバトルになりかけたのは、だんじょんますたーとコアマスターには絶対に内緒だ。
大事になる前に、無言でお互いを殴り合うボクらを止めてくれたゴブさんとボルトさんには、今度美味しいクッキーを差し入れしておこうと思う。ボルトさんの拳骨は痛かったけれど、ボクが悪いんだから。
「……(ねぇ、ボク達、強くなれたよね?)」
訓練場に仰向けに横たわっているボク。その隣にいるのは、戦友のサキ姐さん。
「ええ♪ あなたもおねーさんも、確実に強くなれたわ(*^-)b」
「……(でもさ、ボク、思うんだ。これから――「そこまでよ♪ せっかくなら、おねーさんと一緒に口に出さない?」――あははっ、それ良いアイディアだよ♪)」
そしてボクは言葉を紡ぐ。
「それじゃ、サキ姐さん、準備は良い?」
「ええ、いつでも良いわよ♪」
「それじゃ――3、2、1、せーの!」
ボクの合図の後に、ボクとサキ姐さんの声が重なる。
「「これから、おねーさんはもっともっと強くなるわ!」」
大切な誓約の言葉。魂からの願い。
今までの自分が変わっていく、前向きな進化を望む欲求。
ボクは、もっと強くなりたい。もっともっと強くなりたい。そして、ここにいるみんなや、だんじょんますたーやコアマスターやエゼルを守れる一角の魔物になるのだ。
ふと、視線を感じて横を見ると、サキ姐さんと目が合った。
「その瞳、スラちゃんさんは、おねーさんと同じことを考えているのかしら?」
「……(さぁ? ボクは、超能力者じゃないから、口に出してもらわないと分からないよ?)」
「ふふふっ♪ そんな無粋な事をしなくても、おねーさんには分かるわ♪」
「……(ありがと。――でも多分、ボクとサキ姐さんの考えていること、今は一緒だと思う)」
「おねーさんも、そんな気がするわ♪ 頑張りましょう!」
「……(うん、頑張るよ!)」
気が付けば、ボクとサキ姐さんは笑顔になっていた。
「これから、おねーさんはもっともっと強くなるわ!」「……(これから、ボクはもっともっと強くなるよ!)」
今までもサキ姐さんとは戦友だったと思うけれど――これが、ボクとサキ姐さんが本当の意味での戦友になれた瞬間だった。
(次回につづく)




