第52話:「いっぱい私ちゃんの話を聞いて欲しいです♪」
「もちろんだっ(≡ω)!」「楽しみにしています!」
嬉しそうに言葉を重ねる2人に、俺も少しだけ頑張ろうと思った。
さて、魔物のみんなに挨拶をしましょうかね♪
――そんな感じで「小さい事件」を色々と繰り返しながら。あっという間に『水島おにーさん&エゼルさんの歓迎会♪』の3時間半は過ぎて行った。
◇
歓迎会の「最後の〆の挨拶」が済んだ後。片付けを手伝おうとした俺達に対して、サキ姐さんが先に帰るよう促してきた。
「主役のダンジョンマスターとコアマスター、エゼルさん達は先にお帰り下さい。ここの片付けは、おねーさん達に任せて、ねっ♪」
サキ姐さんの言葉に、近くにいたゴブさんも首を縦に振っていた。
「ダンジョンマスター達は、今回はお客様なのデスから、先にお戻り下サイ。会場の片づけは、我々が責任をもって行いマスノデ」
確かに、お客様と言われたらそうなのだけれど……本当に手伝わなくて良いのかな? 大丈夫なのかな?
何だか、俺の中の小市民的な気持ちや感情が、判断を迷わせてくる。
でも、そんな俺の思考を読んだのか、普段から慣れているのか、俺の代わりにディルが動いてくれた。
「サキ姐さん、ゴブさん、ありがとうなのです! 後は任せましたよ?」
少し大きめの声でディルが2人に声を掛ける。
ディルにしては珍しい。
でも、その目的が何なのかすぐに理解できた。
「ええ、おねーさん任されたわ♪」「御嬢のために、チリ1つ残さずに片付けて見せマス」
ディルに頼まれたことで、とても誇らしげに胸を張って言葉を口にした2人。俺達に一礼してから、意気揚々と片付けの指揮に戻っていった。
2人を見送ってから、ディルが俺と視線を合わせて小さく微笑む。
「配下に任せてと言われた時には、なるべく任せてあげるのも、上に立つ者のお仕事です♪」
そう言ってディルは、安全地帯の中を縦横無尽に動いて一生懸命片付けをしている魔物達に、優しい視線を向ける。
「んだ、んだ。任せるのは大切なことだべ~(≡ω)b」
なぜか東北弁でエゼルもコクコクと感慨深げに頷いている。その右手には、お土産としてもらったフルーツの詰め合わせバスケット。
リンゴとかブドウとかに似ているダンジョン産の果実が入っているから、東北弁なのだろうか?
……思わず思考が脱線してしまった。いけないいけない、元に戻しておこう。
「そうだね、ディルの言う通りかも。俺、そこら辺がまだ良く分かっていなかったよ」
一応、前の職場では新人や入社してから年数の浅い子達の面倒を見る立場だった。それなりに「人を育てる経験」を積んだつもりではいたのだけれど、彼らに仕事の大きな割り振りをするのは、俺よりも立場が上の人の仕事だった。
つまり無意識に面倒を見ることは出来ていても、仕事を任せることまでは出来ていなかったかもしれないな、と今になって感じてしまう。
そんな俺の思考を読んだのだろう、ディルが苦笑しながら言葉を口にした。
「お仕事を任せるのって、いきなりは難しいですもん。私ちゃんも最初の頃は失敗ばかりしていましたから(Tω)」
そう言って話を区切って、ディルはとても真面目な表情を浮かべる。
「もちろん、任せた配下が失敗した時には私ちゃん達DCやDMの責任になります。どこまで任せるのか? どんなサポートが必要なのか? どんな結果が欲しいのか? どんなリスクが考えられるか?……自分で直接手を下した方が早い場合も多いのですが、それじゃいつか行き詰まってしまうのです。『配下に仕事を任せることができないと、ダンジョンは大きくできない』って、過去の先輩たちの事例が教えてくれるのです!」
かなり真剣なモードになっているディル。
いつものほんわかした雰囲気が消えているから、それだけガチで大切な話なのだと理解してしまう。
だから俺も、気になったことを口に出して聞いてみることにした。
「俺としては、先輩方の成功例と失敗例、どっちも気になるよ。もしも俺が聞いても良い内容だったら、後で教えてくれないかな? 他のDMやDCがどんなダンジョン運営をしているのかも気になるし」
「エゼルも気になるぞ! ダンジョンを運営する側の視点は、今までほとんど考えたこともないからな(≡ω)」
俺達の言葉に、ディルが嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「それじゃ――拠点のお家に帰ってから、いっぱい私ちゃんの話を聞いて欲しいです♪」
そう言ってはにかむと、赤髪の吸血姫は俺とエゼルの手を引いて、鼻歌を歌いながら歩きだした。
優しい時間、優しい空気、優しい関係が――ゆっくりと俺達3人の間に流れていた。この時間が、ずっとずっと続きますように。
(次回に続く)




