第49話:「きゅ~ぅ(*°Δ)ノ」
「……(な~んてね♪ 遊んでくれてありがと、ダンジョンマスター♪ 大きくなったら、ボクのことを女性として考えてくれるんでしょ? ボク、頑張ってレベルを上げて人間の淑女っぽく進化するから、かなり期待してて良いよ~。ニシシッ(///∀)~♪ )」
サバサバとした中学生くらいの女の子っぽい声で悪戯っぽく言うと、俺のほっぺたに軽くキスをしてからスラちゃんは走って逃げて行った。
……俺は、完全に遊ばれてしまったらしい。まぁ、何というのか――今後の成長に期待かな?
ちょっとだけグダ~っと横になりたい気持ちに襲われたけれど、幹部級の4人が俺に挨拶を終えたことで、他の魔物達が俺に挨拶をしたげにそわそわしている。
早速、目線が合った一匹のゴブリンが会釈をしてから俺に話しかけて来た。
「おいら、ゴブリンのゴンっす! さっきのダンジョンマスターの御言葉、とても感激したっす! 俺、頑張るっす!」
油断していたところに、熱くて高いテンションで一気に話されて、一瞬どんな言葉を返したらしいのか分からなかった。
でも無言でいられる訳が無い。
思考加速を利用して、気まずい沈黙が訪れる前に、何とか言葉をひねり出す。
「俺の言葉が届いたみたいで嬉しいよ、ありがとう。これからもよろしくね? 俺と握手してくれるかな?」
「は、ハィッス! よ、よよ、よろしくお願いしますっす!!」
俺の右手を掲げるようにして握手をした後、ゴンは嬉しそうに90度で頭を下げてから、次の魔物のために道を開けた。
そう、気が付けばいつの間にかゴンの後ろに、俺に挨拶がしたい魔物達の列が出来ていたのだ。
『水島おにーさんは人気だな~(≡ω)b』
思考加速状態で、俺のすぐ隣にいるエゼルが俺にテレパシーを飛ばしてきた。
魔物達はみんな俺に最初に挨拶をするつもりなのだろう、エゼルの前には誰も並んでいない。
でも、エゼルの後ろには――エゼルの尻尾を幸せそうな表情で撫で撫でしている『彼女』がいた。
『そんな風に言うエゼルだって、早速サキ姐さんに遊ばれているみたいじゃん? 尻尾のモフモフ触らせて良かったの?』
『ぐっ!? サキねーさんはお胸がポワポワしていて、とってもとっても魅惑的だったんだ……あのお胸をこっそり直に触らせてくれたから、今はエゼルの尻尾を触らせているだけだぞ?』
なにその魅惑的な取引。俺も混ぜて欲しかった。
『ちなみに触った感想は?』
セクハラになるかな? とも思ったけれど、エゼルが聞いて欲しそうな自慢げな雰囲気を出していたから、冗談半分で聞いてみる。
内心、エゼルに怒られないか少しドキドキだけれど……怒られたらすぐに謝ろう。
でも、そんな俺の心配は杞憂だった。めちゃくちゃ興奮した様子で、エゼルが自慢げに話し出す。
『もう超スゲー柔らかくて、手に吸い付ku――『エゼルさん? おにーさん? 』――はい、ごめんなさい。エゼルが悪かったと思う(Tω)!!』
即座に心理的土下座をした俺とエゼルに、ディルからのテレパシーが飛んでくる。
『分かっているなら、怒られるようなことをしないで下さいっ。サキ姐さんは、ああ見えて本当はとっても恥ずかしがり屋な処jy――もとい乙女さんなんですからね! 恥ずかしがり屋をこじらせて、あんなちょいエロキャラになってますけれど(Tω)ノ』
サキ姐さんが『ちょいエロ』という範疇に入るかどうかは、議論の余地があるとして。
その衝撃的な事実に、なぜかエゼルが猛烈に興奮していた。
尻尾をバタバタ振りまくるイメージを、わざわざテレパシーで送ってくるくらいに。
『マジかッ!? 処jy――じゃなくて、乙女さんなのにあの暴力的な大人の魅力を振りまけるのかッ!?』
いや、はい、うん……俺は正直、対応に困ってしまう。
サキ姐さんがいわゆる「乙女」だと言われても、なんか生々しくてちょっとドン引きです。下手な返事や反応や返答ができないし。こういう所、女の子って抵抗が少ないらしいんだよね……男の俺には理解できないのだけれど。
下手に相槌を打ったりコメントをすると、セクハラとか言われそうで居心地が悪いというか怖いです。
そんな風に俺が戸惑っている間にも、エゼルはふんすふんすと鼻を鳴らしながら大興奮していた。
『エゼルも、サキ姐さんに教えてもらって、エロカッコいいスーパーエゼルに進化するのだッ(≡ω)v』
いや、エゼル、流石にそれはどうだろう? 少し前も、不老不死でスーパーなんとかエゼルに進化するとか言っていたよね?
エロいエゼルなんて――まぁ、軽く想像できちゃう俺がいるのは致し方ないとして――サキ姐さんみたいな『魅了効果を発動できる大人なエゼル』は、多分、もうエゼルとは言えない『別の何か』だと俺は思うよ?
『ブーブー! 水島おにーさんが失礼な事を言っているブー!!』
ディル経由で俺の思考を読んでいたのだろう、エゼルがブタさんになって抗議してきた。ちょっとだけ、こういう可愛いエゼルの方が好きなんだよな……と感じたのはエゼルには内緒だ。
『……聞こえているぞ(///ω) でも――エゼルは、エゼルのままでおにーさんとラブラブするのだっ♪』
恥ずかしそうに言いつつも、嬉しさを隠しきれていないエゼルの声。俺も何だか嬉しくなった。
周りの人を幸せにすることができる、そんなエゼルが俺は好きだ。
『……ボッ(///-)ノ』
――あ、エゼルが意識を失った!?
サキ姐さんに尻尾を撫で撫でされながら後ろ向きに倒れていくエゼルに、すぐ隣にいた俺も慌てて手を伸ばす。
思考加速状態だったおかげ&エゼルが気を失ったとほぼ同時に動けたおかげで、エゼルを無事に受け止めることができた。サキ姐さんごとだけれど。
「きゅ~ぅ(*°Δ)ノ」
サキ姐さんが、何か可愛い悲鳴をあげて動かなくなってしまった。
あれ? えっと? あれ?
――これ、俺が悪いのッ!?
(次回に続く)




