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第5話:「おにーさん、どいて♪ そいつ殺せないから」

「フフフ、はははっ、フハハハハハッ(≡ω)ノ げほ! げほ! ッ――ここ、何だか埃っぽいぞ!?」

 ……こいつ、ちょっと天然系な匂いがする?


 一瞬だけ緩んだ空気。

 でも、そんな俺の視線に気づいたのか、キッという音がしそうな勢いで、エゼルというケモ耳天使が俺の方を睨んだ。

「っッ!?」「ふぇぇ!」

 冷たく固まり震える身体。そんな俺の隣で、ディルも身体を小さく縮めて震えている。

 ――いや、ケモ耳天使の威圧感が半端なくて、俺は身体を震わせることすらできていなかった。呼吸すら出来なくて、このまま心臓が止まってしまっても仕方がnai――いや、違う! 何を弱気になっているんだよ、俺!!

 ついさっき、俺は心に決めただろ? ディルの笑顔を守るために、世界に俺達の存在を認めさせるために――この現実な異世界にケンカを売るって――決めただろッ!!?


 いきなりの異世界召喚。

 望みもしなかったまさかのトラブル。

 お約束の可愛い女の子に煽られて。挙句の果てに『良い人』認定までされちゃって。

 ――それでも俺は、ディルには悪いけど、こんな薄暗い洞窟の中で「あっさり&ひっそり」使い潰されるつもりは一切無かったし、今でも一切考えてはいない。


 俺の隣で震えているのは、ちょっと抜けていて、めちゃくちゃ可愛くて、でも女の子らしい強かさも持っている、『絶対に肉食だ』と確信できる小動物。

 可愛いフリして獲物(俺みたいなの)を咥えてバリバリと食べてしまう、そんな危険な魅力を否が応でも感じてしまう自称・吸血姫の欠陥品(ウルトラ・レア)なダンジョンコア。


 そんな本来なら絶対的強者である彼女を、俺みたいな普通の男が笑顔にするためには。もう二度と自分のことを「欠陥品」とか言って、暗い顔をさせないためには。そして、社会の敵として召喚されてしまった俺が、唯一まともに生き残れる道を誰かにではなく自分自身の手で創るためには。

 ……その手を握らなきゃ、始まらないと思ったんだ。


 ダイヤモンドダストのような不思議な粒子。それが生み出す光がギリギリ届かない薄暗い鍾乳洞の闇の中。ゆっくりと、銀髪のケモ耳天使がこちらに近づいてくる。

 一歩一歩が無警戒にも見える軽い足取りと、フリフリとご機嫌そうに揺れている銀尻尾。純白色と宵闇色の羽が碁盤状に綺麗に入り混じったその翼だけ、周囲を警戒するように大きく広がっている。

 我彼の距離は気が付いたら一瞬で縮まって、ざっと40m。このスピードを考えると俺達は、もうすでに彼女の攻撃可能範囲に入っているのだろう。


「ほう、その紫色の瞳は、吸血鬼型のダンジョンコアか?」

 少し驚いたような声を出して、足を止めたケモ耳の天使。鍾乳洞に響いたその声は、その見た目よりも幼く感じる高い音だった。

 彼女は、俺の横で動けないで固まっているディルに、とても珍しそうな視線を送っている。


 不躾なその行動に軽い怒りを覚えたけれど――

「ははっ、吸血鬼型のダンジョンコアとは、ガチで珍しいなぁ♪ 精神操作で男のダンジョンマスターを操って、心も身体も喰い散らかすだけ喰い散らかして、最後にはサクッと殺してから、後腐れなく別の男に乗り換える『最低なやつら』がココに居るなんて。120年前に地上から絶滅させたと、先輩の天使に聞いたがな??」

 聞こえてきた言葉と同時に、隣にいたディルが「びくっ!!」と身体を震わせる。

 軽くどころじゃない怒りを感じて、目の前が真っ白になった。


 下を向いて俯いているディル。その震えが止まらない左手を、そっと右手で軽く握る。

 恐る恐るといった様子で、俺の右手を握ってくるディルの左手。迷わず俺は、その細い手を強く握り返した。分かっている、ディルはそんな子じゃないってことくらい。

 正規品のダンジョンコアの『お姉さん達』がどうなのかは知らないけれど、ウルトラレアなディルは違う。


「ふ~ん、お前ら仲がいいのな? まだ、精神操作が軽いのか?」

 俺達の様子を見たケモ耳天使が、不思議そうな顔で苦笑して、今度は俺の方に視線を向けて来た。

 感じるのは、想像以上に強い圧力。でも皮肉なことに、さっきの言葉のおかげで、耐えることは辛くない。

「そっちのお兄さんも災難だったな~。ダンジョンマスターになってしまった以上、エゼルは人類の敵になったお前を殺さなければいけnai――って? あれっ(≡ω)!?」

 俺と目線を合わせたまま、ケモ耳天使が目を見開いて固まった。

 

 そのままパクパクと口を動かし、ごしごしと目をこすって、もう一度パクパクと口を動かして。

 ケモ耳天使は小さく深呼吸をしてから、ゆっくりと確認するような声色で、不思議そうな表情を浮かべたまま、俺に声を掛けて来た。

「――もしかして、お前、ただの人間なのか? まだ、この吸血姫型のダンジョンコアと未契約なのか??」


 急激に弱くなった天使の圧力。

 俺の隣にいるディルも一息つけたみたいで、俺の手を握る指に力がこもっていた。

「ぼそっ(どうしよう……? この男、犯罪歴もぜんぜん無いし、これじゃ勝手に殺せない……)」

 小さく聞こえた重要な言葉。――多分これが、俺に与えられた「最初で最後のチャンス」だろう。


 さぁ、動け、俺の身体。

 さぁ、紡げ、俺の言葉。

 さぁ、始めよう、戦いを!

「……そうですね。俺は、まだ人間ですよ? 信じてもらえるかは分かりませんが……」

 とりあえず、会話でチャンスを引き延ばす。

 飽きられたり、時間稼ぎがバレたらその瞬間に終わりだけれど、今はチャンスを消したくない。


 俺の言葉に、ケモ耳天使が苦笑する。

「ん~、正直、エゼル的には違っていて欲しいんだけれどな~。鑑定スキルでお前のステータスを見たら、流石に人間だと認めずにはいられないんだよ、残念ながらッ(Tω)!!」

 よし、会話に乗ってきた!


 でもこの世界、魔法があるのは知っていたけれど、やっぱり鑑定のような特殊スキルも存在するんだな……。だが、今はスキルの存在を驚いたり、検証している場合じゃない。

 最低限度の必要な会話で、相手の興味を引き出しつつ、考える時間と準備の時間を生み出さないといけないから。


「ちなみに俺達が、あなたの鑑定スキルを『隠蔽できるスキル』を持っているとは考えないんですか?」

 時間と情報を得るために、もう一歩だけ踏み込んだ俺の言葉。

 でも、ケモ耳天使は「きょとん?」とした表情を浮かべる。そして、小さく肩を揺らしながら苦笑した。


「フフフっ、お前、意外と面白いのな♪ レベル250を超えている中級天使の、エゼルの鑑定をごまかせる『中規模以下のダンジョンのDMやDC』なんて、多分、この世界には存在しないと思うぞ? いや、大規模ダンジョンのDMやDCでも難しいだろうな。エゼルは鑑定が得意なのだ(≡ω)b」

 ドヤ顔を作って、エゼルというケモ耳天使が言葉を続ける。 

「――いや、過去にはこの世界の半分を支配した混沌(ダンジョン)なる者(マスター)がいたらしいから、そのレベルくらいになれば分からないかも?? だが、どう見てもお前はただの人間にしか見えない。鑑定を知らないようなド田舎者みたいだしな」


 ここまでの情報で得られたこと。

===

①この世界は、魔法がある。スキルがある。レベルがある。

②レベル差やスキルレベルの差が大きいと、隠蔽系の魔法やスキルは無効化される?

③この天使は、レベル250以上の強者らしい。

④天使は、犯罪者じゃない人間を殺せない。

===

 この4つとその他の情報から、導き出される打開策は? 解決策は? 妥協案は?


「なぁ、俺がもし、異世界かra――「もう良いだろ?」」

 気が付けばタイムアップ。ちょっと困ったような表情で、ケモ耳天使が俺達の方に近づいてくる。

「そろそろ良いよな? 時間稼ぎにも付き合ったし」

 ゆっくりと、一歩ずつ、ゆっくりと。音が止まったような空間で、ダイヤモンドダストのような光の粒子が舞う空間で、我彼は5mの距離を空けて向き合った。

 

「おにーさん、どいて♪ そいつ殺せないから」



(次回に続く)

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