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第46話:「おねーさん、期待してあなたを待っているわよ♪」

「俺も、このダンジョンのみんなと仲良くなりたいな」


 そんな風に決意を新たにしていると、いきなり後ろから、誰かに抱きしめられた。

 背中には「もきゅもきゅっ♪」とした素敵な感触。この質量、ディルやエゼルでは出せないサイズだし、俺の胸の前で交差している「黒い刺繍の入った(少しエッチな)レースのロング手袋」を付けた腕は、2人の趣味とは明らかに違う。


「ん~ふふっ♪ こんばんは、お話良いかしら?」

 俺の耳元で囁くように聞こえた声は――

「サキ姐さんですか?」

「あ・た・り♪ 早速、おねーさんの名前を憶えてくれたみたいで、おねーさんはとっても嬉しいわぁ♪」

 そう言いながら、さらにもきゅもきゅを当ててくるサキ姐さん。

 流石サキュバスなだけあって、素敵なおppa――げふんゲフン、胸部装甲の魅力と重量が半端ないです!


「あーーーっ!! サキ姐さん、私ちゃんのおにーさんを誘惑しちゃダメです(≡Δ)ノシ」

 俺の思考を読んできたのだろう、異変に気付いたディルが俺達のところに駆け寄って来て、俺とサキ姐さんの隙間にその身体を割り込ませてくる。

 ……あんまり、こういうことを言ったり考えたりするのはいけないんだろうけれど、「巨大もきゅもきゅ♪」と中くらいの「もきゅっ♪」が右に左に移動して――おにーさんの背中や脇腹や腕は、今とってもとっても幸せです♪


「クスクス♪ コアマスターは、可愛いですよねぇ♪」

 ディルを愛おしむような、サキ姐さんが漏らした声。俺の位置からは顔が見えないけれど、多分年下の妹を見守る姉のような顔をしているんじゃないかなと想像できてしまった。

「私ちゃんは、いつも可愛いんでーす!! だから、私ちゃんのおにーさんから離れなさーい(≡Δ)!!」

「あらあら。女の子は余裕を持たないと、重たい女って思われて男性に嫌われるんですよ、コアマスター?」

「うぐぐっ――、お、おにーさんは、そんなことないですよね?」

 一瞬動きを止めて、固まった状態でディルが俺に聞いてきた。


 ちょっとだけ悪戯しようかなとも思ったけれど、ディルが涙目になりそうだったからフォローしておく。

「俺は、ありのままのディルが好きかな? 頑張るのは良いけれど、無理はして欲しくないからさ?」

「はいっ♪♪ ――ほら、おにーさんは私ちゃんの事が大好きなんですよッ!」

 勝ち誇ったような声でそう言って、俺の背中をサキ姐さんから奪還することに成功したディル。なんか、こういう例えは良くないのかもしれないけれど……親ザルにひしっとくっ付いている子ザルのイメージが浮かんでしまった。

 なんかもう、必死過ぎて悶え死にしてしまいそう。


 そんなことを考えていた瞬間、サキ姐さんの大きな声が会場に響いた。

「あらあら♪ うちのコアマスターとダンジョンマスターは、ラブラブなんですねぇ~♪ 羨ましいです(///∀)b」

 その言葉で、会場中の魔物達の視線が俺とディルに集中した。

 元々、今回の歓迎会の主役だったから注目されてはいたと思うけれど……こうして、改めてみんなに見られるのは、ちょっと恥ずかしい。

「――っ、違っ、違うんですっ!!」

 そう言いながらも、俺の背中から離れようとしない可愛いディル。

 背中に当たる感触から予測すると、そのまま俺の背中に顔を埋めて動きを止めたようだ。……ここは、ちょっとディルに助け舟を出した方が良いのかな?


 俺は背中にいるディルに右手を回しつつ身体を捻って、優しくディルを俺の正面に来るように移動させる。

 そして、左手を肩にそっと回してディルを優しく抱きしめながら、右手でディルの頭を撫でる。衆人環視の状態では少しだけ恥ずかしいのだけれど、それを顔に出したらもっと恥ずかしいから、ポーカーフェイスで乗り切ろう。


 一呼吸置いてから、俺はこっちを向いている魔物達に声を掛ける。

「ディルは、俺の大切な人です。エゼルも、俺の大切な人です。そして――ここに居るみんなも、今ダンジョンを守ってくれているみんなも、俺の大切な存在です」

 なるべくゆっくり、遠くにも聞こえるような大きな声で。俺は、言葉を口にする。

「だから、みんなと一体になってダンジョンを運営していけたら良いなと思っています」


 そこで言葉を区切り、一呼吸置いてから、俺は少し強気な口調で続きを声にする。

「うちのダンジョンは、ディルのおかげで少し特殊です。こうもりさんのおかげで毎日大量のDPが手に入りますし、魔物のみんなのステータスは種族における上限MAXをたたき出していますし、ダンジョンの仲間のために自ら死を選ぶことを恐れない戦士も数多くいます。でも――他の古くからあるダンジョンと比較すると、『まだ出来たばかりの新米ダンジョン』に変わりありません」

 俺は、周りの魔物達を見渡しながら、言葉を続ける。どの子も、俺の言葉を静かに聞いてくれている。


「俺達のダンジョンが、今後、世界を覆いつくすような存在になれるか否かは、ここに居るひとり一人の手に掛かっています。俺はディルが好きです。エゼルが好きです。サキ姐さんは……ちょっとエッチだから苦手ですけど(笑)」

 俺の冗談だと分かる冗談に、会場の雰囲気が少しだけ柔らかくなる。幸い、サキ姐さん本人も、ちょっと苦笑しながらも微笑んでくれていた。


「――というのは冗談で、サキ姐さんのサバサバした雰囲気、俺は大好きですよ。そして、ここにいるみんなの事も、俺にとって大切な存在です。だから俺とディルに、その力を貸して下さい。その知恵を貸して下さい。その命を預けて下さい。……あと半年。そう、あと半年以内に俺とディルは、このダンジョンを他のダンジョンに負けない存在にしてみせます」


 さぁ、最後の〆の言葉だ。せいぜい格好付けて宣言してやれ、俺!

「だから、みんなの力を貸して欲しい! 俺は今ここに宣言する。『俺達のダンジョン』という『(くさび)』を、この地から世界に広げていくことを。そして変わらない世界を、変えられない世界を、俺達(異端者)を認めてくれない世界を――引き裂く(きっかけ)になることを。だから――始まりの魔物として、誇り高き皆に俺は期待する! 俺とディルとエゼルとゴブさんとボルトさんとスラちゃんとサキ姐さんを信じて、ともに歩んでくれる強者(ツワモノ)は、今、この瞬間に――その拳を上にあげてくれ!!」

 直後、歓声と咆哮にダンジョンが包まれた。ビリビリと空気が震える振動が心地いい。

 会場のすべての魔物が、その手を天に向けて突き出していた。ゴブリンが、コボルトが、スライムが、キラーバッドやキラーマウス達までも。


 熱気に包まれた安全地帯。とても頼もしい仲間達。でも――せっかくの歓迎会なのだから、和気あいあいとした雰囲気に戻そう。

「みんな、ありがとう。あとはゆっくり料理と飲み物を楽しんでね♪」

 俺の言葉に、笑顔で敬礼する魔物達。そしてすぐに近くの魔物達との団欒を、笑顔で再開し始めた。

「あらあら、コアマスターが召喚した水島さんは、想像以上に『良い男』ですわね♪」

 そう言ってサキ姐さんが、俺の腕の中でプルプルしている真っ赤な顔のディルの髪を優しく撫でた。


 腕の中で、こくりとディルが首を縦に振る。

「おにーさんは、素敵な人です(///ω)♪」

 その様子を見て、サキ姐さんが優しい目で微笑んだ。そして、俺の耳元に艶やかな唇を寄せる。

「ぼそっ(コアマスターに飽きそうになったら、おねーさんをつまみ食いして、お口直し&仲直りしてもいいからね♪ おねーさん、期待してあなたを待っているわよ♪)」


 本気とも冗談とも取れない声色でそう言うと、俺と1回だけ視線を合わせて微笑んでから、サキ姐さんは飲み物があるテーブルの方へと消えて行った。

 ……年上(多分)のおねーさん、おそるべし。



(次回に続く)

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