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第36話:「天使達の間で噂が流れるのは、早いんだろうなぁ♪」

「ありがとう、エゼル。もう、大丈夫だよ」

 エゼルが回復魔法の最上位クラスに匹敵する【ファイナル・ヒール】を成功させたことで、固まっている鹿島さんや騎士達。

 でも俺が言葉を発したことで、鹿島さんとサフランさんがホッとため息を吐いたのが分かった。そして、オジサン騎士が驚愕の表情から一瞬だけ苦い顔をしたのも、俺は見逃していない。


 ――さぁ、交渉の時間を始めようか。

 俺は、あえてサフランさんや鹿島さんに分かるように、小さく深呼吸をする。命を狙われたことで気が動転しているけれど、無理やり落ち着かせようとしている風に見えるようにして。


「……ごめんなさい、アルティさん……」

 しゅんとした顔で、目から涙を零しそうになりながら、鹿島さんがこっちを見てくる。彼女の顔には「今すぐにでも駆け寄りたいけれど、エゼルに拒絶されたことで、それができない」と書いてあった。

 でも、取りあえず今はまだ、沈黙を守ろうと思う。

 気付かなかった振りをして、ゆっくりと深呼吸を続けるのだ。


 すると、サフランさんとオジサン騎士が声を掛けて来た。

「アルティ殿、私達からも謝罪をさせて欲しい」

「……俺の監督不行き届きだった」

 そう言って、頭を下げる2人。

「「本当に、すまなかった!」」


 頭を下げられたことで、これ以上は無視することが出来なくなった。

 だから、ゆっくりと口を開いて言葉を発する。

「気にしないで下さい――」

 俺の口から出た言葉に、やや俯き気味だったサフランさんとオジサン騎士の顔がパッと上がる。


――と言えれば(・・・・・・・)どんなに良いことで(・・・・・・・・・)しょうか(・・・・)?……今回のコレは、明らかな殺人未遂ですよね?」

 続けた俺の言葉に、サフランさんとオジサン騎士の2人の顔がこわばった。そして、ゆっくりと首を縦に振る。

 同時に、鹿島さんと、俺の前に立っているエゼルも首を縦に振っていた。


「今の俺は混乱しているので、良い判断が出来るのか難しいのですが――」

 そこで俺は言葉を区切り、ニコッと笑顔を作って続きを口にする。

「曲りなりにも、カージナル王国の近衛騎士団に所属している人間が、ダンジョンの中でこういうことをするなんて……どうしたら良いと思いますか?」


 そう、俺はサフランさんとオジサン騎士に、ボールを投げたのだ。

 決定権を委ねるフリをして、最大限以上の譲歩を「相手から自主的に」引き出せる基本的な交渉術。やり過ぎると相手に嫌われたり、逆ギレされる危険性を孕んでいる方法でもあるけれど……今回の「俺の怒り」を伝えるには一番丁度良いだろう。


 案の定、サフランさんとオジサン騎士は言葉に詰まる。

 下手なことを口にすると、それで俺達に対する謝罪の内容が確定してしまうから。

「それは……」「……」

 困惑した顔のサフランさんと苦々しい顔をしているオジサン騎士。

 鹿島さんは落ち着かなげに、視線を俺とサフランさん達の間で交互に移動させている。

「……」

「……」「……」

「……」

 しばらく気まずい沈黙が流れた後、オジサン騎士がゆっくりと口を開いた。


「分かった。ここはこのメンバーの中で責任者でもある俺に話をさせてくれ」

「承知しました。――続きをどうぞ?」

 軽く頷いてから、俺はオジサン騎士の話を促す。

「すまないな。まずは、今回の失態を改めて謝罪させてもらいたい。本当にすまなかった、私の監督不行き届きだ」


 そう言って、深々と頭を下げるオジサン騎士。

 俺もゆっくりと言葉を口にする。

「謝罪の意志は受け取りますよ。当然、謝罪だけじゃ済ませませんけれど」

「ああ、当然のことだと思う。幸いにそちらのエゼル殿のおかげで命は取り留めたものの、運が悪かったら命に関わっていたのだから」

 オジサン騎士が言葉を区切って、小さく息を吸った後に、やや早口で続ける。


「……そこで、決闘の前に決めた『ダンジョンのことを口外しない』という約束を守ることに追加して、今は手持ちが少ないから、後日大金貨15枚を支払うことで今回の償いとさせてもらいたい」

「大金貨15枚?」

 ちなみに、大金貨15枚は小金貨10枚分だ。小金貨1枚が食料換算で日本円だと3万円ほどの価値を持っているから、ざっと450万円の賠償で手を打って欲しいと言うのだろう。


「ずいぶんと安いのな(≡ω)?」

 俺が言おうとしていた言葉を、エゼルが言ってくれた。

 そして、エゼルが言葉を続ける。

「最低でも大金貨250枚だ」


 エゼルの声に、周囲の気温が5度くらい下がったような気がした。……えっと、エゼルさん? ざっと計算すると「250×10×3万円=7500万円」ですよ?

 俺、また刺されるのは嫌なんだけれど。

 そんなことを考えたのがフラグだったのか、エゼルがさらに燃料を投下する。


「そのくらいの口止め料じゃないと、国としては『気まずい(安心できない)』んじゃないか? 近衛騎士団員が起こした不祥事が、この国だけでなくて、エゼルのいる天界まで伝わってしまうとかなり困ると思うぞ?――天使は世界中を飛び回っているから、天使達の間で噂が流れるのは、早いんだろうなぁ(≡ω) 困った困った♪」



(次回に続く)

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