第31話:「「俺達は――アルティ殿に決闘を申し込むッ!!」」
「まずは最初に、鹿島さん達4人が『どうやってこのダンジョンに入れたのか』教えてくれませんか? たしか、入り口に隠蔽結界がありましたよね?」
俺の問いかけに続いて、エゼルが補足するように言葉を口にする。
「このダンジョンをエゼル達が見つけた時には、まだ隠蔽結界が生きていたんだ。普通の人間だと、ダンジョンの隠蔽結界を見破るのは難しいからな(≡ω)b 正直、ダンジョンの中にエゼル達以外の人間が入ってきたのには、かなりびっくりしたぞ?」
この俺達の質問に、鹿島さんが首を傾げて、騎士達3人の方へと視線を向ける。
「隠蔽結界ですか? そんなの有りましたっけ?」
「いえ、私達が入る時には特に何も無かったかと」
「俺も特に気になる所は有りませんでした」
そんな風に言葉を口にする女騎士とイケメン騎士。でも、オジサン騎士だけは首を横に振った。
「いや、そう言われたら俺は違和感を覚えたぞ? 最初に勇者様が入り口を見つけた時と、食器を洗ったりして準備を整えた少し後では、雰囲気が違うというか……。元々、『そこにある』と分かっていたからダンジョンに入れたが、勇者様が最初に気付かなければ、俺達は入り口を見つけられなかったと思う」
ふむふむ。オジサン騎士の言うことが正しければ、鹿島さんが入り口を見つけた時には、まだ隠蔽結界は張られていなかったと考えた方が自然かな?
エゼルが侵入時に壊した結界を、戦闘後にディルが張りなおすまでの間に、ダンジョンの入り口を見つけたとか。
でも、ダンジョンを見つけた後、鹿島さん達がすぐに入らなかったのは何故なんだろう?
「そうですか……あの、今、『最初』とか『準備を整えた後』っておっしゃっていましたが、ダンジョンを見つけてすぐには中に入らなかったんですか?」
「ああ、想像ができるかもしれないが、俺達はこのダンジョンの外に広がっている森で魔物の討伐をしていてな。――まぁ、有り体に言えば勇者様のレベル上げをしていたんだが、それの休憩場所として、このダンジョンの外にある滝のほとりで休んでいたんだ」
そこで言葉を一度区切って、オジサン騎士が説明を続ける。
「んで、昼食をとった後に食器を洗っていた勇者様が偶然、滝の裏に洞窟を見つけてな。ダンジョンかもしれないから、入ってみようという話になって……このざまさ」
自虐的に苦笑したオジサン騎士。同意するのも否定するのも、何か少し気まずい感じ。
とりあえず曖昧な笑顔を返しておいて、俺は思考加速をしてディルにテレパシーを飛ばす。
『ねぇ、ディル、今の話は聞いていた?』
『もちろんですっ♪ 多分、私ちゃんが隠蔽結界を張る前に、女勇者さんに気付かれてしまったみたいですね。そこのオジ騎士さんが言うには、休憩後にダンジョンに入る前には、ちゃんと違和感を覚えたみたいですし』
ディルの「オジ騎士さん」という単語にちょっとツッコミを入れたかったけれど、今はスルーしておく。思考加速中だとはいえ、他の人と会話中だからあまり長く話していると相手が不審がってしまうだろう。
『念のため確認したいのだけれど、隠蔽結界が張ってあったとしても「一度、そこにある」と分かっていたら、ダンジョンの入り口ってバレてしまうものなの?』
『そうですね……今回は「認識阻害系の隠蔽結界」を使っていたので、認識しちゃった後には効果が薄くなります。でも「視覚阻害系の隠蔽結界」を重ね掛けしておけば、直接手で触ったりしない限り、入り口が分からないようにすることは可能です。……ごめんなさいです、私ちゃんのミスでした(Tω)』
『ううん、色々と話を長くして、認識阻害の隠蔽結界を張る時間が遅くなったのは俺のせいでもあるから。鹿島さんや騎士達をダンジョンの外に帰したら、入り口の場所を変更すれば大丈夫だよね?』
『はい! 侵入者がいる時には入り口の場所を変えられませんが、侵入者がいなければ自由に出入口の変更ができます!!』
『了解。それじゃ、最初の計画通りに口止めをしてから、ダンジョンから外に出てもらおう』
『了解です!』『了解なのだ(≡ω)b』
重なったディルとエゼルのテレパシーを受け取ってから、思考加速を停止する。
経過した時間は0.01秒もないから、オジサン騎士にも大きな違和感は与えなかったと思う。
「分かりました。とりあえず、隠蔽結界がなぜか一時的に切れていたけれども、今は再び結界が張られていると考えて大丈夫そうですね」
「もしかしたら、ダンジョンマスターが鹿島さんや騎士さん達を誘い込んだのかもしれないな。これからは、気を付けろよ(≡ω)b」
ちょっと偉そうなエゼルの言葉。
でも、そのエゼルに助けられたということを重々知っている4人は、真面目な顔で頷いた。
「ああ。ダンジョンに慣れていると俺が油断していたのが一番ダメだった。俺のせいで、みんなの命を危険にさらしたんだからな」
オジサン騎士の言葉に、女騎士とイケメン騎士が首を振る。
「それを言うなら、私も警戒心が緩んでいました。ダンジョンの1階で死にかけるなんて有り得ないと」
「俺もです。これからはもっと気を付けるようにします」
「あのっ、私も気を付けます! あと、出来るだけ早くレベルアップして、簡単なことじゃ死なないようになりたいです!!」
鹿島さんの言葉に、騎士達が安堵の表情を一瞬浮かべたのを俺は見逃さなかった。
多分、ここで戦うことを恐れたり、拒絶していたら……鹿島さんの今後の扱いがどうなるのか?――多分、あまり良い扱いは受けないのだろうなと分かってしまった。
騎士達が直接どうこうということが無くても、国の方針として幽閉や暗殺などが有りうるのだろう。
『暗殺されるのはもったいないですよね?』
ディルのテレパシーに、俺は頷きを返しながらエゼルに聞く。
『ねぇ、エゼル? 勇者って、公式発表では100年に2~3人のレアな人材なんだよね? 事前の作戦会議でも検討したけれど、仲間に取り入れるのを検討した方が良いかな?』
『ん? そうだな……現状で勇者見習いとはいえ、かなり珍しい人材だとエゼルも思うぞ? ただ、「相手さんが素直に、こっちの仲間になってくれるか?」という問題が事前会議でも上がっていたよな? その対策、何か良いのを思いついたのか?』
そう。エゼルが言うように、俺達がDMやDCであることを騎士達に知られるのは得策ではない。
鹿島さんはまだ俺が同郷ということで親近感を持ってくれるかもしれないけれど、騎士達にとってはトンビに油揚げをかっさらわれるような状況だし、騎士達には全力で抵抗もしくは逃亡されるだろう。
とはいえ、鹿島さんの目の前で騎士達をコロコロする訳にもいかない。
そんなことをすれば、日本人の感覚をまだ持っている女の子が、俺の事を拒絶するのは目に見えている。しかし、このダンジョンの情報を騎士達に生きたまま持って帰られるのも、俺達にとってはかなり不味い状態になる。
ダンジョンの入り口は別の場所に変更するにしても、この周囲にダンジョンがあることが知られるだけで、ダンジョンを発見される危険度は大きく跳ね上がるから。
……そんなことを色々と考えてみたものの、現状では俺達がダンジョン関係者だと明かすのは良い手段だと思えない。
鹿島さんの事は嫌いじゃないけれど、「あえて仲間にしないといけない」という決定打となる理由も現状では無いことだし。
『――ごめん、当初の予定通りで行こう! 今回は騎士達を「口止めして解放する」方向で』
『了解なのだ♪』
『おにーさんがそう決めたのなら、私ちゃんも全力でサポートします!』
『ありがとう、2人とも』
さて、そうと決まれば行動だ。
ちゃきちゃき鹿島さんや騎士達と契約魔法を結んで口止めをして、このダンジョンから退場してもらいますかね。
「ところで、鹿島さんと騎士の皆さんに、提案というか『お願い』があるのですが――」
その言葉に、鹿島さんと騎士達が俺に注目する。
うんうん、命を助けただけあって良い感じに注目してくれていますね。
「このダンジョン、俺とエゼルが攻略中なんです。なので、恐縮なのですが、ここにダンジョンが存在することを、他人には黙っていてもらえませんか?」
あえて丁寧な言葉で、俺は4人に要求を伝えた。
でも、それは言い換えると――「命を助けてもらったんだから、このダンジョンのことは黙っておいてね? ダンジョンから得られる地位や富や名声はあなた達も知っているでしょう? こっちはソレを独占したいんだから、公開しないで下さいよ?」――という強烈な主張でもある。
「えっ? あ、はいっ! そのくらいなra――「勇者様! 簡単に了承してはいけません!!」――ほぇ?」
鹿島さんの言葉を遮った、イケメン騎士。
そして、オジサン騎士が鹿島さんに説明を始めた。
「勇者様、こちらの2人は『俺達にダンジョン発見の権利を放棄しろ』と言っているんだ。具体的には、ダンジョンを発見した者が得られる報奨金や名誉を捨てろと言っている!」
「いや、でも、私達はアルティさんやエゼルさんの後から、このダンジョンに入った訳ですよね? ダンジョン発見の権利はアルティさん達にあるんじゃないんですか??」
当たり前なことを言ってくれる鹿島さんはマジで良い子だと思う。
でも、騎士達はそんなことでは納得していないみたいだ。特に、男性のお二方が……。
「いえ、勇者様。ダンジョン発見の名誉と権利は『冒険者ギルトや領主に、最初にダンジョンの所在を報告した者やそのパーティーが得られる』と規則で決まっています。現時点では、まだ俺達にもチャンスはあるんです」
「でもっ、私達、アルティさんやエゼルさんに命を助けられたんですよ? ここは、そのお礼の意味も込めて気持ちよく譲りましょうよ?」
鹿島さんの言葉に、イケメン騎士が首を横に振る。
「……勇者様。勇者様は、勇者様の育成に『カージナル王国がどれだけの費用を掛けている』のか、その金額を知っていますか?」
「えっ? 私の育成にお金……?」
「はい、勇者様の育成には、俺達の人件費や宿代、食事代、装備品、消耗品等々、沢山のお金が必要です。それを――「そこら辺で止めとかない? 誘拐犯が見苦しいよ?」――っ!?」
面白そうだから口を挟むつもりは一切無かったのに、気が付けばそんな言葉が俺の口から洩れていた。
しかも、その言葉は止まらない。
「自分達で勝手に無理やり鹿島さんを異世界から『誘拐』しておいて、その生活費や育成費が必要だとか言うなんてどうかしている。――心が狭いどころか、そんなこと口に出して恥ずかしくならないのか? お前ら頭がおかしいぞ?」
「だぞだぞ~♪ まるで『自分達が正しいことをしている』みたいな言い方をしていたが、全部、鹿島さんに押し付けているだけだからな? 誘拐した相手に対しては、普通だったら土下座して多額の生活費と賠償金を支払うのが、本来なら妥当だぞ(≡ω)? 常識で普通に考えたら分かるだろうに……嘆かわしぃぞ♪」
俺とエゼルの口撃に、腰の剣に手を伸ばす男性騎士2人。
「「おっ、お前ら――」」
思考を加速させて、いつでも切りかかって来られても対処できるようにする。
ふと、男性騎士の隣にいる女性騎士に視線を向けてみたけれど、何かを考えている様子でじっと動かない。……さて、どうしようかな?
そう思った瞬間に、エゼルがテレパシーを送ってきた。
『水島おにーさん、もっと煽っても良いか?? こいつら煽ったら、めちゃくちゃ面白くなりそうだぞっ(≡ω)ノシ』
『ん~、却下かな。俺も最初は煽るつもりでいたけれど、ここは「上下関係を見せつける」だけに留めておこう? こっちが絶対的な強者だって認識させておけば、下手な行動や復讐とかを相手も考える気が起きないだろうし』
『ちぇ~』
唇を尖らせるイメージを俺に送ってくるエゼル。
思わず苦笑しながら、返事をしていた。
『ここで下手に相手を傷つけたり、コロコロしたりしたら、鹿島さんに嫌われるでしょ? それは、鹿島さんを仲間にするチャンスを消してしまうから、今は避けないと』
『うぅ~~っ、でも了解だッ! こうなったら、エゼルとのレベル差を認識させてやる(≡ω)b』
『よろしく頼むよ? 相手さんが暴走しない程度にね?』
『らじゃ~♪』
軽い打ち合わせを終わらせて、エゼルとのテレパシーを止める。
そして俺は、一番反抗的なイケメン騎士に目線を合わせて、微笑みながら口を開いた。
「あなたなら、俺達相手に勝てるとでも?」
「エゼルはレベル250を超えているんだが?」
エゼルの250というキーワードに、騎士2人が一瞬怯んだ。
そりゃそうだ、普通ならレベル差200オーバーの相手にケンカなんて売りたくない。だが、それに続けた言葉が悪かった。
「こっちのアルティ兄さんは、後衛職のレベル38だけれどなっ(≡ω)!」
小さな沈黙が場を包む。
騎士3人の視線が、鑑定スキルを持つ鹿島さんに向かっているのが分かってしまった。
「……嘘は、言って、いません……。でも――」
プレッシャーに押されて、かなり言いにくそうに、ぎこちない表情で言葉を口にした鹿島さん。そして続けて俺の隠蔽されたステータスが後衛職にしては異常に高いことを迷いながら口に出そうとしたのであろう――けれど、一瞬言葉が止まったその瞬間に、男性騎士2人の大きな声が重なった。
「決闘を――アルティ殿に決闘を申し込むッ!!」
「俺もだ! 俺もアルティ殿に決闘を申し込むッ!!」
エゼル相手には敵わないと思ったのだろう。でも、レベル38かつ後衛にしか見えない俺に対して、男2人で決闘を申し込むのって……イケメン騎士とオジサン騎士は、大人げないと思う。
ほら、女騎士と鹿島さんが汚物を見るかのような冷たい視線を、あなた達に向けていますよ?
「「俺達は――アルティ殿に決闘を申し込むッ!!」」
(次回に続く)




