第30話:「たしか、入り口に隠蔽結界がありましたよね?」
「――っ(///Δ)!? そ、ソレはちょっと非道いです」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、目線が泳ぎまくっている清楚系美少女? いや、23歳?
とりあえず、彼女を殺すという選択肢を今回選ばなくて良かったと、心の底から思ってしまった。
ああ、もう、全く。同じ日本人かもしれないってことだけで、ここまで感情移入しちゃうなんて。ちょっと気を付けないと不味いぞ、俺。
――そんなことを考えているうちに、無事に安全地帯の中に入ることが出来た。
周囲は半径30メートルくらいの広さで、緑の木々と小さな泉が広がっている。もちろん、魔物の気配はどこにもない。
でも、俺はダンジョンマスターだから知っているのだけれど……この安全地帯は完全に魔物が入れない訳ではない。例えば、俺みたいな「そのダンジョンの管理者」やディル&エゼルのような「それに準ずる存在」は、何の抵抗も無く入ることが出来る。さらに、DMやDCが許可すれば魔物達でさえも、安全地帯には入ることが出来る。
なぜ、こんな面倒なシステムになっているのか?
理由をディルに聞いてみたら、「ダンジョン協会の方針で、『こうした方が人間がダンジョンに長期間潜ってくれるから』だそうですよ? とっても良いアイディアですよね~♪」って言って笑っていた。
ちなみにディルいわく、ダンジョン協会の規則では「侵入者がいる時には『緊急事態』以外、安全地帯の中に魔物を侵入させるのは不可(ペナルティーの対象)」となっているらしい。侵入者がいない時なら、いつでも安全地帯に魔物を入れることは出来るけれど――それを侵入者がいる時にしてしまうとダンジョンに潜る人達の間に不信感が生まれるというのが理由だ。
なお、俺やディルみたいな人間型のDMやDCは、このペナルティーには当てはまらない。但し、安全地帯の中で人間に危害を加えないことが前提になっているけれど。
「ふぅ、これで一息つけますね」
先頭を進む俺の後ろで、女騎士が安心したような声を漏らす。
でも、それに言葉を返す人はいなかった。
「……」「……」「……♪」
「……(///Δ)」
なぜだろうと思って、後ろを振り向こうとして――気が付いた。あっ、俺、鹿島さんと手を繋いだままだった……。
「ごめん、ずっと手をつないだままだったね?」
そう言って、なるべく動揺が声に乗らないように気を付けながら手を離す。
内心では「下手したら、セクハラだよ!!」って焦っているのだけれど、それを表情に出してしまうと本当にセクハラになってしまう。
「あっ、ハイ……(///×)」
……何か少し残念そうな雰囲気を鹿島さんが出しているけれど……喜んで良いのか悪いのか。ちょっと微妙に困ってしまう。
とりあえず、「色々考え事をしていた」のと「ディルやエゼルの距離感が近いせいで、女の子との距離の取り方が一時的に狂っていた」のが、悪いのだと思いたい。だって、そうじゃないとディルに怒られるからッ!!
『怒られるだなんて、おにーさんは考え過ぎですよぉ♪』
『……ディルさんや、本当のことを言うと?』
『あはっ♪ おにーさんは、敵対する可愛い女の子には、見境なしですよね? 今日だけで、エゼルさんと女勇者さんの2人もですから、10日後とかは凄いことになりそうです♪ わーすっごーい! きみは――『ディルさんや? ソレは止めよう』――ドなんだね!!』
いや、うん、ハイ。最初に出会った時もだけれど、何気に危険なネタをぶっこんでくるディルさん怖いですッ(Tω)! 「見境なしなフレ〇ド」とか聞こえたような聞こえなかったような気がするけれど、多分、気のせいだろう。気のせいだと思いたいっ!!
『おにーさん、私ちゃん、DCとして……不安になります』
ポツリと聞こえたディルのテレパシー。
その寂しそうなトーンに俺が言葉に詰まっていると、ディルが言葉を続ける。
『なので、帰ってきたら私ちゃんのこと、ぎゅって抱きしめて下さい(///ω) それで許してあげますからっ♪』
『……。うん、分かった。俺も楽しみにしている』
ちょっとディルに嵌められたかな? とも思ったけれど、俺に甘えてくれる女の子がいるのだ、受け止めることが大切だろう。
コレが一緒に夜寝て下さい(健全に!)とか、水着でお背中流します(健全です!)とかなら、ちょっと考えるところがあったけれども。
『しまった! やっぱり、水着&添い寝が私ちゃんyoi――『また今度ね? 具体的には一昨年くらい?』――うぁぅあぅぅっ……(Tω)』
ディルが崩れ落ちるイメージをテレパシーで送ってきた。
意外と、余裕が有りそうだから大丈夫だろう。
思考加速を止めて、気まずい沈黙を崩すために言葉を発する。
「それじゃ、安全地帯に無事に入れた訳ですし――お互いの情報交換をしませんか?」
鹿島さんと手をつないでいたことには、一切触れない。ええ、はい、ここであえて「手を繋ぐのは自然な事ですけれど? それがどうかしましたか?」的な演技をしておくのは大事なことだ。
そうじゃないと、俺はセクハラ野郎として認定されてしまうからッ!!
幸い、鹿島さん本人と女騎士さんは、俺のことを悪い視線で見ていないので助かっているのだけれど……。イケメンとオジサン騎士の2人が、何だかかなり不機嫌そうだ。
……さては、イケメン、鹿島さんに惚れているだろ? オジサン騎士は、娘のような鹿島さんに付く悪い虫が不快なのかな? まさか恋愛感情なんてないだろうし、勇者という強力な人間兵器には、ポッと出の「得体の知れない若造」よりも自分の部下とくっ付いて欲しいと思うのは、自然なことだろう。
エゼルは――ああ、内心爆笑しているのな? 大人しいと思ったら、俺を観察して楽しんでいたらしい。
『おや、バレてしまっては仕方がない(≡ω)v』
『エゼル~、気付いていたなら教えてよ~?』
『いや、あまりにも自然な感じで手を繋いでいたから、邪魔するのは悪いと思って♪』
『いやいや、エゼルも知っていると思うけれど、鹿島さんはうちのダンジョンのメンバーには勧誘しないからね? 俺とは違う現代知識を持っているかもしれないけれど、今の段階で俺がDMだとバレることの方がリスクが大きいから』
『ちぇ~、つまらないなぁ~。でもまっ、世の中は欲張っても良いことはないからな♪ 作戦通り、サクサク進めるぞ!』
『了解。それじゃ、エゼルも会話の誘導、お願いね?』
『もち。アドリブになるけれど、エゼルも頑張る(≡ω)b』
思考加速を止めてから、それとなく鹿島さんに視線を送る。
騎士達を促すよりも、俺に協力的な鹿島さんの方が会話の切り口になってくれるだろうから。
「あっ、はい、今から情報交換ですね! まずは何を話しますか?」
「そうですね――」
俺の思惑通り、鹿島さんがあわあわしながら口を開いてくれた。なので、「何を話すべきか」少し自分の頭の中で再検討してみる。
俺やディル達の事前会議では、情報収集をする時のために、いくつかの作戦があった。鹿島さんの俺に対する好感度が高い今の状況から考えると、下手に誘導するよりも、単刀直入に聞くのが一番効果的だろう。
「まずは最初に、鹿島さん達4人が『どうやってこのダンジョンに入れたのか』教えてくれませんか? たしか、入り口に隠蔽結界がありましたよね?」
(次回に続く)




