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第29話:「(///Δ)!? そ、ソレはちょっと非道いです」

「ああ……私達、本当に助かったんだな……ありがとう」

 そう言って横たわったまま、お礼の言葉を口にする女騎士。その隣にいる、ほっとした表情の鹿島さん。とりあえず、2人にとっての俺達に対する第一印象は悪くなさそうだ。

 それじゃ、そろそろ寝ている男騎士も起こして――交渉の時間を始めましょうかね?


「あの、いつまでもここに居るのは危ないと思います。もう少し奥に進んだところに『安全地帯』がありますので、そちらに移動しませんか?」

「安全地帯? こんな浅い階層にあるんですか!?」

 俺の提案に女騎士が驚いたような表情を浮かべて、事実なのか確認してきた。「ええ、さっき作ったからあるんです。」とは言えないから台本通りの言葉を俺は口にする。

「はい。私も少し驚いたのですが、ここから少し歩いたら安全地帯です。そこで休憩していたら、あなた達の声が聞こえてきましたので……」

 さり気なく、わざわざ助けに来たことアピール&安全地帯までの距離が近いことをアピールする。これから交渉するのだから、相手にきっちりと負い目を感じさせておかないと♪ いやらしくならない程度に。


 そんな俺の思惑を無意識に感じたのか、女騎士が真面目な表情で軽く頷いて、言葉を口にする。

「そうですか、そんな近くに安全地帯が……でも私達は運が良かったのですね、こうして助けてもらえたのですから」

「いえいえ、ダンジョンの中では自己責任とはいえ、助け合いの精神も大事ですからね」

「本当に……ありがたい……です……」

 感極まったのか、言葉を詰まらせる女騎士。何となく分かってしまったけれど、この人も「良い人」なのだろう。

 良く言えば、他人に率直に感謝できるキレイな心の持ち主。悪く言えば、俺みたいな悪人(?)にコロッと騙される素直な人。


 俺がそんなことを感じているとは知らずに、女騎士は目元を手で拭うと、小さく笑って俺の目を見て来た。

「自己紹介がまだでした。カージナル王国近衛騎士団のサフラン・クロッカスです。そちらに転がっている同僚の騎士達2人と一緒に、こちらの勇者様――ハルカ・カシマ様の護衛をしております。この度は、本当に助けて頂いてありがとうございました」

 そう言って頭を下げる女騎士に、俺も自己紹介を返す。


「王国の近衛騎士団の方と勇者様でしたか。それはそれは、無事に救援が間に合ってよかったです。私は、アルティ・グロッソと申します。レベル38で歯牙ない冒険者みたいなことをしていますが、ダンジョンについては詳しいと自負しています。なので仲間の――「エゼルだ♪ 天界に所属している天使族として、このダンジョンを潰しに来ていたんだ。ちなみにレベルは251だぞ(≡ω)b」――ということです。今日は、このダンジョンを彼女に案内していましたが、貴女方と出会えてラッキーでしたよ」

 ……うん、嘘は言っていない。相手が誤解するような表現は使ったかもしれないけれど。


 俺とエゼルの自己紹介を聞いて、女騎士が再び頭を下げた。

「本当にありがとうございます。あのっ、今は手持ちがあまりありませんが……今回のお礼は、私の名前と騎士爵位に誓って必ずいたします」

「お礼だなんて、そんな……」

 一応、様式美として断るふりをする。今後の交渉を考えると、ゲス顔で対価を要求するのは好印象にはつながらないから。


 でも、女騎士はかなり困った表情で首を横に振る。

「いいえ、ここでアルティ様とエゼル様に受け取っていただけないと、私達が困ります。『カージナル王国は、勇者を助けられたのに、お礼もろくにできない弱小国だ』なんて話になると……周辺の小国が動揺しますので」

 苦笑する女騎士に、俺も苦笑を返してゆっくりと首を縦に振る。

「……それもそうですね、負担にならない範囲でのお礼、期待しています」

「ありがとうございます」


 ニコッと花が咲いたような笑顔を女騎士が浮かべた時だった。

「ぅ……ぅうっ……」

 女騎士と話をしていると、男騎士2人からうなり声が聞こえて来た。

「リカルドさん! ケインさん! 目が覚めたんですね!?」

 鹿島さんが嬉しそうな表情で、2人の身体を揺らす。すると、横たわったままの姿勢でリカルド――と俺の簡易鑑定に表示されている濃いめのイケメン――が、右腕を頭に当てながら目を開けた。

「……俺達、まだ、生きているみたいですね」

「はい、偶然通りがかったアルティさんと天使のエゼルさんが、助けてくれました!!」

「天使ですか? それじゃ、ここは天国!?」


「リカルド、何を馬鹿なこと言っているの? 世界中でダンジョンを攻略してくれている、天界の天使様よ!!」

 同僚相手には丁寧語を使わないのだろう、俺に対する口調とは違うサバサバした言葉を女騎士がイケメンに投げつけた。そして、その言葉で我に返るイケメン。

「ああ、了解しました、やっと理解できました……俺達は、この2人に助けられたんですね?」

「そういうことよ。ケインを起こして、リカルドも一緒にお礼を言いなさいな」

「もちろんです。――ほら、ケインも起きて下さい!」


 イケメンに促されて、もう一人のオジサン男騎士も目を覚ます。

「……っぉ!? あれ? 天使様がいるってことは――ここは天国か?」

「いや、ケインさん、それ、さっきリカルドさんがやっていますからね?」

 女勇者の容赦ない突っ込みに、オジサンが苦笑する。

「いやいや、起きてすぐに言われても、マジで天国かなって思ったんだよ。あの状況から、命が助かるなんてマジで奇跡だからな♪」

「はい、ケインの言う通り、俺も奇跡だと思いますよ。ちなみに、こちらの2人がみんなを助けてくれたそうです、俺の後にケインもお礼を言って下さい」

「ああ、もちろんだ!」


 そう言って、自己紹介とお礼をそれぞれ口にしてくれるイケメン&オジサン。

 ちなみに、2人の自己紹介の中身は、女騎士さんと似たような感じだった。オジサンの方は、王国近衛騎士団の何かの階級を持っていて、ちょこっと偉い人らしいけれど。

 その後、彼らに俺とエゼルも自己紹介を返して、安全地帯があることを伝える。

 2人とも最初は驚いていたけれど、すぐに移動して、装備の確認や今後の話をすることに賛同してくれた。


「それじゃ、安全地帯に移動しますね?」

「「はいっ!」」「おぅ!」「はい!」「了解だ(≡ω)b」

 騎士達とエゼルの返事に頷きを返して、ボロボロの4人を挟むように移動する。

 先頭が俺で、最後尾がエゼルだ。一応、ディル経由で魔物達には俺達を攻撃しないように伝えてあるから、魔物の襲撃は無いのだけれど――「4人を護った」という実績は積めるだけ積んでいた方が、今後の交渉は有利に進むだろう。だから、サービスすることは惜しまない。


 そして、100メートル程歩いて、ダンジョンの角を曲がると――安全地帯の目印になる、明るい光が見えてきた。

「ふわぁぁ~♪ 本当に、ダンジョンの中に『綺麗な泉』と『草木』が生えているんだ(///Δ) 初めて見ました!……っていうか、とっても明るいから、まるで外にいるみたいです♪」

 鹿島さんが感動したように言葉を口にした。

 ダンジョンの安全地帯は、彼女が言ったように、なぜか緑と水に溢れている。初見だった彼女が感動するのも、少しだけ分かるような気がした。


 ――次の瞬間、安全地帯に引き寄せられるように、鹿島さんが駆け出して――慌てて俺はその手を握った。

「今、一人だけ前に出るのは危険だ!!」

「ほぅっ……す、すみません(TΔ)!!」

 思わず、本気モードで叱っていた。

 年下の女の子相手に、これは、ちょっといけないことをしたなと反省する。

「……危ないから、気を付けて? ここで鹿島さんに怪我して欲しくないからさ?」


 俺に叱られておどおどしている鹿島さんに、優しく声を掛けながら言葉を続ける。

「大きな声を出して、ゴメン、許してくれると……嬉しい」

「は、ハイッ! 頑張ります(///Δ)!!」

 え? ……何を頑張るのだろう?


 分からなくて、思わず笑ってしまっていた。

「ふ、くっ、ふふふっ♪」

「は、はぃ? アルティさん、どうかしましたか?」

「いや、何を頑張るのかな? って思ったら――ふふっ♪」

「――っ(///Δ)!? そ、ソレはちょっと非道いです」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、目線が泳ぎまくっている清楚系美少女? いや、23歳?

 とりあえず、彼女を殺すという選択肢を今回選ばなくて良かったと、心の底から思ってしまった。

 ああ、もう、全く。同じ日本人かもしれないってことだけで、ここまで感情移入しちゃうなんて。ちょっと気を付けないと不味いぞ、俺。



(次回に続く)

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