第28話:「私達、本当に助かったんだな……ありがとう」
1話抜かして投稿していました……すみません(Tω)
===
「……運命の人、見つけちゃったかも?」
そんな声が聞こえた気がするけれど――うん、俺は何も聞いていない♪ 当初の作戦通り、台本に基づいて行動するのだ。
……今時、年下の女の子に「運命の人」とか言われると、ストーカーされそうでガチで怖いんですよ……(Tω)ノシ
過去のトラウマが刺激されて、手足が震えそう。
そんなことを考えていたら、エゼルが落とし穴の中から出て来た。
「アルティおにーさん、2人目を回収できたぞ!……って、どうかしたのか?」
『エゼル、今はそっとしておいて欲しい。女勇者に聞かれると不味いから』
『ん、そうなのか? 了解したぞ(≡ω)b』
短時間だけ思考加速をして、テレパシーを交わす俺達。
テレパシーで会話をしながらも、手では2人目の女騎士をロープから外す。
「サフランさんっ!」
女勇者が女騎士に駆け寄って、その肩を揺する。
今回使用した眠りのガスは、かなり強力なヤツだから3~5分は起きないだろう。
「エゼル、3人目行けるか?」
「もちろんだ♪ ちゃきちゃき回収して、早く【洗浄】と【浄化】の魔法を使いたいからな(Tω)」
そう言って脱力しているエゼルは、さっき女勇者さんと猫さん大戦争をしていたせいもあって、消化液でドロドロだ。ゆったりとした作りの神官服が、肌にピタッとくっついてなんかちょっとえっch――『おにーさん?』――はい、ごめんなさい。私が悪かったです!
『もぅ、エゼルさんをそういう目で見るのは夜だけにして下さい!!』
――え? 夜ならいいの? マジで?
『ちょ、ちょ、ちょ……ディルと水島おにーさんは何を言っているんだ(///ω)!?』
『何って、エゼルさんをSHIK〇Nするのは、夜だけにしましょう! という健全なお話です』
『『……ディル、全然健全じゃないからね?』』
『ほぇ? 私ちゃんは、おにーさんに色々見て欲しいです! じっくり、うっとり、ねっとり――って、何を言わせるんですかぁ~(///ω)ノシ』
何か、妄想を垂れ流すポンコツ娘がいる。うん、そういうディルは可愛いから好きだよ?
でもさ、タイミングをちょっと考えようか……otz
少しだけ脱力しながら、俺はエゼルに視線を向ける。
『エゼル?』
『うん、水島おにーさん』
『『今は、真面目に仕事しようっか?』』
そう言って、お互いに頷いてから思考加速を停止する。
「それじゃ、3人目を連れてくるからな♪」
「了解。こっちもすぐに引きあげる」
エゼルが穴の底に消えて――女騎士と同様の流れで3人目を回収し、4人目も回収する。
ドロドロの男騎士なんて、誰得なんだろう? とか一瞬思ってしまったけれど、今後の作戦のために生かしておかないとダメだから、無心で作業を済ませる。
「無事に全員回収できたな♪」
「ありがとうございます。エゼルさんも、アルティさんも、本当にありがとうございます!」
女騎士に寄り添いながら、土下座しそうな勢いでお礼を言う女勇者。
若干、エゼルが苦笑しながら首を横に振る。
「とりあえず、全員が消化液まみれだから【洗浄】と【乾燥】の魔法を掛けるぞ? そして、回復魔法で怪我の治療もしないとだな(≡ω)b」
「あっ、私もお手伝いしまsu――「広範囲洗浄&広範囲乾燥&広範囲体力回復!!」」
エゼルの適当な言霊で、それぞれの魔法が順番に発動する。
水色の霧が俺達全員を包み込んで汚れを落とし、温かい風が湿気を飛ばす。そして、白色の光が俺達を癒してくれる。
消化液で汚れていた俺とエゼルだけでなく、消化液でべったりとなっていた女勇者や3人の騎士達も全身がきれいになっている。
軽い火傷のようになっていた肌の一部も、完全に治癒していた。
……っていうか、最初のモニター越しや消化液でドロドロになった時には感じなかったけれど、この女勇者は――「どこかの旧家のご令嬢でしょうか?」って聞きたくなるくらいの清楚系美人な雰囲気が滲み出ている。
肩まで伸びた真っすぐな黒髪。ピンと伸びた背筋とキリっとしている口元。透き通るような白い肌。
……なんだろう、さっきまで「16歳くらいの世間知らずっぽい高校生だな」とか軽く見ていたけれど、一般市民な俺としては近くにいられると、少し緊張してしまうかも?
そんな俺の戸惑いに気付かない様子で、女勇者は自分の服や髪を触って驚いている。
「すごい……短縮詠唱なのに、1回でキレイになってる。――っていうか、何か落とし穴の中に落ちる前よりも、私、体力が充実しているような気がする?? なぜ?」
不思議そうな表情の女勇者に、エゼルがドヤ顔で胸を張った。ふんす、ふんすと鼻が鳴っていて、ちょっと可愛い。
「エゼルの回復魔法は、単にHPを回復して傷を治すだけじゃなくて、持続回復とか疲労軽減とかステータスの一時上昇の効果があるからな。コレでも中級天使でレベルは250オーバーなんだぞ(≡ω)v」
「すっ、凄すぎます!! レベル250を超えているなんて――あれ? エゼルさんは、おいくつなんですか?」
「……18歳」
「18歳なのに!? 本当に、凄いです!」
『エゼル~? 本当はいくつだったっけ?』
『520歳くらいだったはずだぞ?』
『俺相手には、サバ読まないんだ?』
『当たり前だ♪ 水島おにーさんには、本当のエゼルを知っていて欲しいからな!』
『ありがと』
『どういたしましてなのだ♪ 520年もファーストキスを守っていたエゼルのこと、惚れても良いからな(///ω)?』
ちょっぴり真面目な声のエゼル。でも、俺は軽く流すことにした。
今はまだ、彼女の好意を受け止めてはいけないから。
『うん、惚れた♪ だから、今は作戦通りにお仕事しよ?』
『……水島おにーさんは、ちょっと「いけずさん」だな? まぁ、今はそれでも良いことにしてやる!』
『ありがとう。それじゃ、思考加速を止めるよ?』
『了解♪』
思考加速を止めた直後、女勇者が口を開く。
「私よりも年下なのに、本当に凄いです!」
「「あれ?」」
俺とエゼルの言葉が重なる。この人、18歳以上なの!? ――あっ、本当だ。
改めて鑑定スキルを発動させると、年齢がしっかり23歳と出ている。うん、『転移者の人族の勇者だから、見た目通りの年齢だろう』と俺もエゼルもスルーしてしまっていたようだ。
そんなことを俺が一瞬のうちに考えていると――自身も鑑定を済ませたであろうエゼルが――恐る恐る禁断の言葉を口にする。
「お前――じゃなくて、あなたは何歳なんだ?」
かなり不用意な言葉だけれど、エゼルとしたら年齢を聞かない方が不自然だと考えている雰囲気だ。
「あっ、自己紹介がまだでしたね! 私、鹿島はるかって言います。今年の5月に23歳になりました♪」
「お、おぅ……鹿島さんは23歳なんだな? 何というか、もっと若く見えたぞ……?」
俺が止める間もなく、エゼルがそんなことを口にした。
でもさ、エゼル。ソレ、禁句だよ? 多分、鹿島さんは気にしていると思う。
「あはは……よく言われます。中学生~高校生くらいに見えちゃうみたいですね……悲しいことに」
ほら、やっぱり。でも、ここで下手なフォローをすると、傷口をさらに抉ることになるから俺は何も言わない。
「鹿島さん、すまなかった。気にしていたんだな?」
どストレートに謝ったエゼルに、鹿島さんが少しだけ苦笑して、明るい笑顔を浮かべる。
「はいっ♪ でも、若く見えるのは良いことだって、お母さんが言っていましたから♪ これは私なりの個性ってことで、頑張ります!」
鹿島さんがそう言った直後だった、小さな呻き声が聞こえてきたのは。
「サフランさんっ!? 目が覚めましたか!?」
鹿島さんの言葉に、サフランと呼ばれた女騎士が首をゆっくりと振る。
肩まで伸ばした金髪が揺れた。開いた瞳は緑色。そこから受ける印象としては、典型的な「20代くらいの外国の美人さん」といった雰囲気だ。
そして、ゆっくりと彼女が口を開く。
「ここは、天国ですか? それとも地獄ですか?」
「天国でも地獄でもありません、私達、落とし穴から助かったんです!!」
鹿島さんの言葉に、女騎士の目が見開かれた。
「――っ!? 勇者様、本当ですか!!」
「本当ですっ! ここにいるエゼルさんとアルティさんが助けてくれたんです!」
そう言って、俺とエゼルに視線を向ける鹿島さん。女騎士とも視線がぶつかったから、軽く頭を下げておく。
「ああ……私達、本当に助かったんだな……ありがとう」
そう言って横たわったまま、お礼の言葉を口にする女騎士。その隣にいる、ほっとした表情の鹿島さん。とりあえず、2人にとっての俺達に対する第一印象は悪くなさそうだ。
それじゃ、そろそろ寝ている男騎士も起こして――交渉の時間を始めましょうかね?
(次回に続く)




