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第18話:「勇者がDMやっているなんて、おかしいだろ!?」

「さて。それじゃ――ダンジョン会議を始めたいので! おにーさんとエゼルさん、部屋の奥の方にある、椅子に座って下さいな♪」


 ディルの声に促されて、俺達は作戦室の中央にある、亀の甲羅のような楕円形のテーブルに近づく。ちなみに、このテーブルは完全な楕円形じゃなくて、一番奥のところが切り落としたかのように直線になっている。

 その切り落としたところには、ひときわ豪華な椅子が置かれていた。

 多分、高級木材の黒檀とか使っていて「足の小指をぶつけたら、めちゃくちゃ痛い椅子(=高額で上等な椅子)」なんだろう。――あ、常時発動している鑑定が教えてくれたけれど、特級魔黒檀とかいう木の魔物の素材で出来ている超高級品らしい。


「それじゃ、おにーさんは、一番奥に座って下さい♪」

 バスガイドさんみたいな上品な手つきで、ディルに片手で示された場所はテーブルの一番奥。そう、豪華な椅子が置かれている場所だ。

 一瞬、どうしようかなとも思ったけれど……。この椅子を見た瞬間に「俺の椅子だろうな~」と何となく予想は出来ていたし、魔王城の玉座みたいな『ダンジョンの様式美』と『ディルのこだわり』もあるのだろうから、素直に受け入れよう。

 足だけはぶつけないように気を付けて。職場で残業していた時の皮靴を今も履いているとはいえ、この特級魔黒檀は足をぶつけるとガチで痛そうだから。


 そんなことを考えながら、黒檀の椅子に座った次の瞬間――エゼルが俺の膝の上に座ってきた。

 もにゅっとした太ももとおしりの感触が心地良い。

 ……そうじゃない。確かに、このまま腕の中でモフモフ&もきゅもきゅを堪能したくなる魅力をエゼルは持っていますけれど――げふんゲフン。

 えっと、とりあえず俺達、今から真面目な作戦会議を始めるところですよね??


「エゼル?」

 ちょっとドキドキしてしまったのをエゼルにバレないように気を付けながら、疑問形で彼女の名前を口にする。

「ふぇっ? 水島おにーさんどうした?? ここがエゼルの席じゃないのか(≡ω)??」

 ……エゼルの席は、ずっと俺の膝の上? うん、そう言うのは嫌いじゃない(むしろ大好きだ!)けれど……ディルの目が怖いから、やめようね?


 にこっと口元だけで笑っているディルが、エゼルに向かって言葉を掛ける。

「エゼルさん、エゼルさんのお席は、私ちゃんの向いですよ? おにーさんの隣ですから、それで我慢しましょーね?」

 おぉぅ。ディルにしては、とても冷静で穏便なモノの言い方。

 おにーさん、ちょっとそんなディルが心ぱi――『おにーさん? どうかしましたか?』――いいえ、何でもありません。テレパシーで俺の心は筒抜けなんですよね?


『何を当たり前のことを? 太ももとおしりが心地いいんですよね♪』

『……すいませんでした』

『あははっ、謝ることなんてないですよぉ? ――それよりも、エゼルさん!! 早く、おにーさんの膝の上からどいて下さい。うらやまshi――もとい、けしからn――もとい、真面目な作戦会議の妨げです!!』


 色々な感情が洩れているディルのテレパシーに、エゼルのテレパシーが返ってくる。

『いや、ほら、この深みのある魔黒檀の濃ゆい黒! 輝くような照り! そして、しっとりと手に吸い付くような肘置きの質感!! 魔黒檀の椅子は、エゼル専用にした方が良いんじゃないかと思ってな♪』

『言い訳はどうでもいいですから、早くおにーさんの膝の上からどきなさいッ!』

『分かったのだ♪ それじゃ、テレパシー切るぞ?』

 そう言って、エゼルは一方的にテレパシーを切った。

 何となく、ディルが苦笑する雰囲気がテレパシーで伝わってくる。


『エゼルさんは、仕方ありませんね……』

『まぁ、マイペースなところがエゼルの良い所であり、気を付けたいところかな。……ごめん、俺もちゃんと気を付けるよ』

『はい♪ 分かってもらえたのでしたら、大丈夫ですよね?――それじゃ、エゼルさんが席に着いたら、もう一回思考を加速させて、ダンジョンについての打ち合わせをしましょうか!』

『了解♪』

 ディルの思考加速が止まったのを確認してから、俺も思考の加速を止める。


 DMのスキル(?)のおかげで、相手からテレパシーが入ったら自然と『思考加速状態』に入ってくれるのだけれど、短時間でのONとOFFには、まだ少し違和感を覚える。

 実際に使いながら練習をして、少しずつ慣れていきたいと思う。


 そして、普通の速さに戻った俺の思考は……完全に停止してしまった。原因は、思考加速の副作用ではなく……膝の上のエゼル。

「水島おにーさん!! 早く、エゼルの下からどいてくれっ♪ この椅子は、エゼル専用にするのだっ(≡ω)b 早くっ、早くっ♪」

 俺の膝の上で体を上下に揺すってはしゃいでいるエゼル。うん、コレ、俺を椅子から降ろすつもりは一切ないよね?

 もっふもふで、ぷっにぷにの、もっきゅもきゅ!


「「ははっ♪」」

 重なったのは思わず零れた俺の苦笑と、ディルの苦笑。

 でも、その温度差はドライアイスと鍛造中のナイフくらい隔絶されたモノがあった。……そう、一瞬で俺の背中は凍りましたよ。

 ゆっくりと、そう、ゆっくりとディルが、俺の膝の上ではしゃいでいるエゼルに話しかける。


「……エゼルさんは、このダンジョンではおにーさんの仲間とはいえ、一応配下になっているのですよ? 一番偉いおにーさんが、一番良い席を使うのが当然ですよね? エゼルさんも、そう思いませんか?」

 満面の笑みで問いかけるディルに対して、エゼルがぷくっと頬っぺたを膨らませる。

「ぶーぶー! エゼルは、人生で300万回くらいで良いから、特級魔黒檀の椅子に座ってみたかったんだ! 特級魔黒檀の椅子には、狼耳天使のロマンがあるのだッ!!」


「人生で1回で良いとかなら、可愛げがありますけれど……300万回とか、あと500年生きるとしても、ほぼ毎日座ることになりますよね??」

「ふふん♪ そうとも言うな☆」

 俺には全然理解できないけれど、『何気に超高級品っぽい特級魔黒檀の椅子』に、エゼルは我を忘れているようだ。例えるなら、初めてのキングサイズのベッドを見た、7歳の子どもみたいな感じだろうか? 「わ~、ナニコレ! すっごーい!!」みたいな感じで。


 そんなエゼルに対して、ディルが優しい視線を送ってから、にこっと微笑んで口を開く。

「……それじゃエゼルさんに『特級魔黒檀のベッド』を私ちゃんが作ってあげますから、今日から寝てみますか?」

「ほほぅ♪ それはすばらsi――「手足をもぎもぎした『DPタンク専用』のベッドですけどね♪」――っ!? い~や~だ~!!」

 クスクスと笑うディルに、エゼルの尻尾とケモ耳がぴーんと立つ。

 俺にしがみつく腕にも力が入って、ちょっとしあwase――じゃなくて、痛いっ、爪が痛いです!!


「マジで嫌だぁ~!! エゼルの家具は全部『ミカン箱』で良いから!! もぎもぎするのはダメ、絶対ッ(Tω)ノシ――「まだ、どこか余裕がありますよね?」――無いっ! エゼルの余裕は、全然ないっ!!」

 俺に抱き着きながら肩で息をして、少しぐったりなっているエゼル。……何か、俺もちょっとぐったりだよ? 分かっている?


 そんな俺とエゼルを見つめながら、ディルがクスクスと小さく笑う。

「そうですか、つまらないですね~♪」

 本当に残念そうに言うディルだけれど……ディルさんよ、『天丼』って言葉を知っていますか?

 なんか、さっきから全然、ダンジョンのお仕事が進んでいないような気がするんだけれど……。このままじゃ、何か取り返しのつかないことが起こりそうだから、気持ちを切り替えてお仕事をしようよ? ねっ?


 ――という訳で、まだぐだぐだしているエゼルと、エゼルをいじって遊びたさそうにしているディルに釘を刺そう。同時に、俺も緩んだ危機感を元に戻そう。

「さて、ディル、エゼル。そろそろ真面目にお仕事しようか? ディルが作った拠点に来て、俺もテンション上がっているけれど。ダンジョンの仕事は命がけなんだから、きちっとしよ? 良いかな?」

 俺の真面目な声に、すぐに反応してくれる2人。


「うむっ♪ すまなかった!」

「私ちゃんも、遊び過ぎました。ごめんなさい!」

 そう言って、じゃれあいを止めて、それぞれの席に座って静かになる2人。こういうしっかりしているところは、何か頼もしくて嬉しい。


 俺はDPで500MLのお茶と、それを入れるための紙コップを取り出して、彼女達の前に置く。

「ううん、俺もちょっとはしゃいでた。誰かが悪いって訳じゃないけれど、今後の事を考えると『きちっとする時は、きちっとしておいた方が良い』と思うかな。メリハリっていう意味でも。――ってことで、早速だけれど、始めて良いかな?」


「はい♪ 私ちゃんは大丈夫です!」

「エゼルも行けるぞ? 思考加速して、ちゃきちゃき済ますぞ!!」

 今まで、少しだけ遊び過ぎた。

 俺も2人も。だから、後れを取り戻そう。

「了解。それじゃ、一つずつ済ませて行こうか♪」


 加速させた思考の中で、今から済まさせていかないといけないことを思い浮かべる。

『まずは、ディルがしてくれた「ダンジョンの隠蔽」は成功したんだよね?』

『ハイッ! エゼルさん並みの天使クラスじゃないと、見破れない強さの【隠蔽結界】を張っておきました!』

『ねぇ、エゼル? エゼル並みの天使って、わりとこのダンジョンの周辺に来るのかな? 今の隠蔽結界で大丈夫かな?』

 ダンジョンを潰す側の視点を早速、俺達のダンジョンに取り入れていきたい。

 そんな俺の問いかけに、エゼルがテレパシーを返してくる。


『んー、大丈夫だと思うぞ? このダンジョンがある国の周辺はエゼルの管轄地域だったから、当面の間はエゼル並みの天使はやってこないはずだ。他には上級冒険者の中には、隠蔽結界を見破れるヤツもいるだろうが……この国にはそんなやつ、たしか2~3人しかいないからな。あえて何の特産品もない、このダンジョンがある地域に来ることは無いはずだ。魔族や龍族は、あいつら絶滅危惧種扱いだから、そちらも問題ないな』

 そこでエゼルがテレパシーを区切って、真面目な口調に変わる。

『――まぁ、この土地でエゼルが消息を絶った以上は、3~6か月以内に後釜の天使が調べに来るとは思う。それだけは、本気で気を付けておいた方が良いぞ?』


 やっぱり、後釜はやって来るのか。

 でも、3~6か月後なら、十分に撃退可能だ。ダンジョンのDPも俺達のレベルも、十分に余裕を持って上げることが出来るから。

『エゼル、ありがとう。それじゃ、当面の間は【隠蔽結界】はこれでOKだね。後釜の天使対策が必要だけれど、それは後で考えることにして――次は、現状のダンジョンの魔物や配下の動物について考えてみようか? 回復や蘇生召喚をしないといけないから』


 そこで一度、テレパシーを区切って思考を整理する。

 やらないといけないことはたくさんあるから、1つずつ処理していくことが大切だ。

 多少抜けていても大丈夫だけれど、それが致命傷にならないようにだけ、気を付けておきたい。そのためには、しっかりと3人の目でチェックすることが重要だと思う。


 ――よし、それじゃ、打ち合わせを再開しよう。

『まずは、このダンジョンの「運営の方向性」をディルから聞いても良いかな? 今日までに結構なDPを蓄えられていたみたいだけれど、ディルは、今日までどんなダンジョンを目指して運営していたの?』

『そうですね……ちょうど150日前に私ちゃんは、冥界で生まれたのですが――『ちょっと待った!!』『ちょっと待て(≡ω)!』――ほぇ?』

 今、明かされた衝撃の事実。

 私ちゃん150歳じゃなくて――生後150日。それ、本当ですか!?


『本当ですよ? 冥界の神様から生み出された直後に「地上をサクッと征服してきてよ?」って言われて、冥界でDCとしての研修を105日間受けて、地上にやって来たのがちょうど45日前です♪ 私ちゃん、これでも研修中は「ゆーしゅーな成績()」だったんですよ?』

『お、おぅ、凄いのな(|||ω)ノシ』

 なんか、ディルの言葉が衝撃的過ぎて、エゼルが固い。いや、こんなことを考えている以上、俺の思考も固まっているのだろうけれど。


 ――って、今、重要なのはそんなことじゃないだろう。

 話の軌道修正をして、ダンジョンの再構築を少しでも前に進めなきゃ。

『話を中断させてゴメン。ディル、えっとさ……取りあえず続きを教えて?』

『はい! 150日前に冥界で生まれて、45日前にこの土地でダンジョンを作った私ちゃんですが、野生のこうもりさんに毎日協力してもらってDPを稼いで、無事に今日、おにーさんを異世界から召喚したんです♪』


 にこっと笑顔で言い切ったディル。

 野生のこうもりさん、確か撃退DPが毎日1万DPくらい入ってくるんだったよね? 日本円換算で毎日100万円の収入。ダンジョン研修で◎だったとしても、正直、笑いが止まらなかっただろうなと思う。

『なっ! 異世界召喚だとッ(≡ω)!?』

 あれ? なんか、エゼルが椅子から立ち上がって驚いている。……あ、俺が異世界からやって来たこと、エゼルには言っていなかったっけ??


『……エゼルさんには、言っていなかったんですか? おにーさん?』

『いや、そう言われたら言っていなかったような気がする……ゴメン、エゼル、驚かせて。異世界の人間だと、俺のこと、嫌いになるかな?』

 ちょっとずるい質問の仕方。でも、エゼルは軽く笑って許してくれた。

『んにゃ、水島おにーさんのことは嫌いにはならない♪ それは確定事項。――でもな、一言だけ言わせてくれ!』


 そう言ってテレパシーを区切るエゼル。

 何となく、中二病的な役作りをしているのだなと察してしまったけれど、そっとしておいてあげよう。

『そうですね、そっとしておいてあげるのが優しさってやつだと私ちゃんも思います』

『……2人とも、何気に酷いぞ!?』

『『それが言いたかった一言ですか(なの)?』』

『ちーがーうー!! エゼルが言いたかったのは、エゼルは「水島おにーさんが異世界から来た人だなんて聞いていない」ってことだ!!』

 頭の中にガンガン響くくらいに絶叫したエゼル。その大きなボリュームのままで、エゼルがテレパシーを続けた。


『異世界からやって来る人間は、魔王やDMを倒す「勇者」じゃないのか!? 勇者がDMやっているなんて、おかしいだろ!?』



(次回に続く)

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