第16話:「俺達のダンジョンの修繕と改良を始めようか♪」
「今日までの私ちゃんのお城――そして、今日からは3人のお家に――ようこそなのです♪♪」
ディルに「お城」と紹介されたログハウスは、ぱっと見た感じでは凸型の2階建て。
1階部分が横幅15mくらいで、一軒家としては決して大きいとは言えないサイズ。それの上に乗っている2階部分も……おそらく、4~6帖ほど。
正直、かなりミニマムな建物である。
見た目は、丸太を活かしたカントリー調というやつ。
外壁は「塗装なんて邪道だろう?」と職人が主張したのか……バーナーで炙ってから、サンドペーパーで仕上げたような、天然素材を活かした造りになっている。
自然の中で一人暮らしがしたい女性には、絶対に受けるであろう「趣と味わい」のある建物。
ソレは「家族向け」というよりかは「個人の城」としての存在価値と機能を持っていることが容易に予想できた。つまり、俺が何を言いたいのかというと――
「ぼそっ(コレ、本当に3人で暮らせるのか? エゼルは不安だぞ(Tω)?)」
うん、今、エゼルが全部呟いてくれた。
小金持ちな「田舎暮らしがしたい女の子の城」としてはベストチョイスかもしれないけれど、俺達が3人で暮らすにはかなり窮屈そうな建物なのだ。
2階スペースを女の子であるディルとエゼルに共用で使ってもらうにしても、俺は1階のリビングで毎日寝ないといけないかもしれない。
だって、1階部分を見る限り「トイレ」「お風呂」「脱衣所」「小さなキッチン」「小さなリビング」だけでギリギリっぽいから。収納や階段スペースなんかを考えると、リビングが有るかどうか、ちょっと怪しい。
「もー!! 私ちゃんのお城をそんな風に悪く言う人は、お家の中に入れてあげませんよ!?」
俺とエゼルの思考をテレパシーで読んだのだろう、ディルの唇が少し尖っていた。
「いや、でもさ、……コレは流石に狭いだろ?」
そんなエゼルの声に、ディルの唇が完全に尖って、大きなアヒルさんになる。
「むーっ!! エゼルさんはそんなことを言うんですか?? それなら――おにーさんはどうですか!?」
ディルに話を振られたけれど、変な言葉は返せない。
彼女を傷つけてしまうかもしれないから、変な反応や思考はしちゃいけないと思うから。
「……中を見てみないことには、何とも言えないけれど、……3人で住むには、ちょっと狭そうに見えるかな?」
俺の苦しい物言いに、ディルの表情は険しいままだ。
うん、ゴメン。テレパシーで分かるよね。
「分・か・り・ま・し・た・っ! それでは、中を見てみて下さいっ♪」
そう言ってアヒル口のまま、でも何故かちょっとドヤぁとした顔で、玄関のドアを開けるディル。
ドアから見える玄関内は、普通――この建物にしては、ちょっと大きすぎる――サイズだった。10人分くらいは軽く靴が置けるスペースがあるし。
「あっ、靴は履いたまま家に上がって良いですからね? そこにある、マットで靴底をゴシゴシして土を落として下さい」
靴を脱ぐべきか一瞬迷った俺の思考を読んで、ディルが教えてくれた。
「ありがと。それじゃ、そのまま中に入るね? おじゃまします」
「エゼルも、お邪魔するのだ♪」
「もうっ! 2人とも、『おじゃまします』じゃないですよ~! 今日から、おにーさんやエゼルさんのお家になるんですから!」
そう言って苦笑するディルの声を聞きながら……リビングに繋がっているであろう扉を開けた俺は、驚きで言葉が出なかった。
「……なんか、広いのな?」
一瞬遅れて、エゼルが俺の言いたいことを口にしてくれた。
そう、広いのだ。カントリー趣味が満載なリビングは予想していた通りだけれど――この広さを何かに例えるのなら、小学校の教室くらい? 玄関からドア1枚入った「リビングであろう部屋」だけで、これだけの広さがある。もちろん天井の高さも、部屋のサイズに負けてはいない。
多分、他にもある部屋を考えると……確実に居住空間が、外観からは想像できないサイズになることは間違いないだろう。……物理法則よ、どこに行った?
「んふふ~っ♪ 2人とも驚いてくれて嬉しいです!! 私ちゃんのお家は、外から見た時はちょっと小さく見えますが、ダンジョン魔法を使っているので、中に入るとと~っても広いんですっ!!」
「お、ぉぅ……」「すごぃのな……」
驚きすぎて反応が返せない俺とエゼル。いや、DMの知識としては、ダンジョン内の空間を広げることが出来る【ダンジョン魔法】があるのは俺も知っていた。だけど、「知識で持っていること」と「経験すること」の間には、大きな差があるのだと現在進行形で感じている。
人間って、自分の常識を打ち破られると、本能的に思考が停止するのな。今知ったけれど。
「ふっふっふ~! しかも私ちゃんのお家は広いだけじゃありませ~んっ! このお家には、なんと108つの隠し機能があって、まず1つ目は――」
自慢げに熱く語り出したディルだけれど。
それを一瞬、全部聞いてみたいと思った俺だけれど。
エゼルは、何かぽかんとした顔で、まだ復活できていないけれど……。
とても大切なことがあったから、ディルの説明の間に言葉を割り込ませる。
「ごめんディル、ちょっと良いかな?」
「――という効能がある温泉がお風呂に引いてあるので、後でおにーさんと一緒にしっぽri……ほぇっ? 何ですか?」
あっ、この反応、説明に夢中になっていたな?
まぁ、自分のお城だもんね、親しい人に自慢したくなる気持ちは良く分かる。
俺が日本で働いていた職場の先輩も、新築の家を建てた時には、最新式の断熱窓や耐震素材について熱く語ってくれたし。その話を真面目に聞いていたら、俺のことを前よりも一層可愛がってくれるようになった……っていうのは良い思い出だけれど、横に置いておく。
とりあえず、ディルの話は後でしっかりと聞かせてもらうことにして。温泉に俺と一緒に入りたいとか何とか聞こえたから……それも後でじっくりと聞かせてもらうことにして。
俺達がこの拠点にやってきた、本来の目的を口にする。
「ごめん、ディル。今はダンジョンの機能回復を1秒でも早く先に済ませたいから、そっちを優先しても良いかな?」
俺の言葉に、ディルの表情が一瞬でキリっとしたものに変わった。
「そうでしたっ! 早く『魔物さん』や『こうもりリーダーさん』達を再配置しないと、ダンジョンの機能が停止しちゃったままです!! 多分、ダンジョンの隠蔽も切れているから、早く元に戻さないと、一般の冒険者さんとかにダンジョンが見つかっちゃいます!!」
「そういう訳だから、まずは俺達がするべき、最低限必要な事を教えてくれないかな?」
「はいっ! でも、現状で取りあえず【ダンジョンの隠蔽】だけは今させて下さい! これからダンジョンの中身を改良するにしても、魔物さん達を回復させるにしても――最低限、外部の侵入者だけは防がないといけませんから!」
「うん、了解、隠蔽は頼んだ」
ディルが、こくりと頷いたことを確認してから、俺はエゼルの方を向いて言葉を続ける。
「ちなみに、エゼルは、俺達の会話に積極的に混ざって欲しい。今日までダンジョンを攻める側だった経験や力を、これからはダンジョンを守る側として発揮してもらえたら嬉しい」
「了解した! エゼルに任せろ♪ DPと時間さえあれば、うちのダンジョンを史上最強にしてみせるからな(≡ω)b」
「頼もしいな、エゼルにも期待しているぞ♪」
「ラジャー♪」
そう言いながら、ビシッと痛いポーズを決める、ケモ耳天使。
やっぱり、エゼルは中二病だ。
思わず笑いそうになったけれど、我慢して言葉を口にする。
「――それじゃ、俺達のダンジョンの修繕と改良を始めようか♪」
(次回に続く)




