最終話:「99%に120%を上乗せしたくらいの確率で!!」
「なんで! なんで! 何でですかっ!!」
思わず叫んだ私ちゃんの声。
でも、逆にエゼルさんが私ちゃんに問いかけてきた。
「なぁ、ディル。なんでここに『水島おにーさん』はいないんだ? 水島おにーさんがいないのなら、エゼルはディルと一緒にいちゃいけない」
「なんで! 何でです! せっかく、こうして記憶を取り戻し始めているのに!?」
「……エゼルはさ、水島おにーさん以外のDMと仲良く話しているディルの横顔なんて、見たくないんだ。そんなディルを、エゼルは多分絶対に許せない。だから、ここで――」
エゼルさんが小さく言葉を区切って、にこりと微笑みを浮かべてから、ゆっくりと口を開いた。
「……エゼルを殺してくれ、お願いだから♪」
笑顔なのに、とても悲しい言葉。笑顔なのに、とても悲しい瞳。笑顔なのに、とても悲しそうな獣耳と尻尾。
だから私ちゃんは、言葉に詰まってしまう。
「それは、その、あのっ、えっとまだki――「なぁ、エゼルの記憶は今は完全には戻っていないんだ。でもさ、気になることがある……」」
私ちゃんの言葉を遮ったエゼルさん。
そして、絶対に感じるであろう『当然の疑問』を私ちゃんにぶつけてきた。
「ディルは水島おにーさんの召喚に失敗したのか?」
それはまるで、言葉が鈍器になって、頭を殴られたみたいな衝撃。
立ち眩みがして、気持ちが悪くなる。
でも、口から出てきたのは言い訳の言葉だった。
「……違うのです、ちょっと失敗しただけです、エゼルさんが来るまでに前回みたいに召喚しようと思っていたのですが、エゼルさんの方が先にやってきてしまったのです。だから、この後、もう一度再召喚するのですよ??」
自分でも何を言っているのかわからない。
さっき失敗した召喚魔方陣の術式が、どこをどう間違っていたのかさえ気づけていないのに……改善しないまま再召喚するだなんて失敗する未来しか見えない。
でも、私ちゃんの口から出てきたのは言い訳の言葉。子どもが強がって嘘をつくのと一緒だった。
ふらりっと、エゼルさんの尻尾が一度だけ揺れる。
でも、その顔はとても血の気が引いている、固い表情だった。
「なぁ、エゼルは前回のことを――レベルが6だった頃のディルと出会った時の記憶を――取り戻せたんだ。あの時は、ディルの隣に水島おにーさんがいただろ? キシ〇トールを使って、エゼルとのレベル差を乗り越えてくれて、凄いやつだなって惚れたのも思い出せたよ。エゼルは、ディルと水島おにーさんとの日々を……特級天使のクローバー様がやってきた日のことまで、やっと思い出せたのに――」
顔をくしゃりと歪ませて、エゼルさんが私ちゃんを見つめてくる。小さな声で、何かを呟いて。
「なのに、なんで! なんで、水島おにーさんがここにいないっ! なんで、エゼルが来るまでに、水島おにーさんを召喚していなかったんだ!? こんなんじゃ、こんなんじゃ……記憶を取り戻しただけだなんて……あんまりにもあんまりで酷すぎるだろッ!!?」
「痛っ……」
気づけばエゼルさんが、私ちゃんの両肩をその手でぎゅっと握っていた。
レベル差2倍なのにとても痛く感じる、想いが籠った両手の圧力。
とても痛い、泣きそうなくらい痛い。涙がこぼれる。
「ふぐぅぅっ、ごめんなさい……」
「泣くな! 泣くなよ!! 今、必要なのはそんなのじゃないだろ!? ディルは泣かないで、余裕な笑顔で……水島おにーさんを召喚してくれよぉ……」
ぽたぽたと空中を落下する、たくさんの水滴。
鍾乳洞の濡れた床に溶け込む涙の上に、エゼルさんが私ちゃんの両肩に掴まりながら――引っ張られた私ちゃんと一緒に泣き崩れた。
「ぅええっ! なんで、なんで、水島おにーさんがいないんだよぉ……!!」
「分からないのです……! 前と同じように私ちゃんは魔方陣を描いたのに……!」
エゼルさんの非難の声と私ちゃんの言い訳。
それは、すぐに広い鍾乳洞の中に溶け込んでいく。
ふわふわとした光の丸い粒。雪のように舞い降りてくるその中で、私ちゃんとエゼルさんの願いは重なっていく。
「水島おにーさん、どこにいるんだよぉ……」
「おにーさんに逢いたいです」
涙がこぼれる。こぼれて、こぼれて、止まらない。
その時、召喚の魔方陣が光った。
私ちゃんたちの足元で、ほんの一瞬だけ。
固い表情でエゼルさんが私ちゃんに視線を向けてくる。
「おい、見たか?」
「見ました。――エゼルさんも?」
「ああ、見間違いなんかじゃないんだな?」
「ちょっと止まってください――」
エゼルさんに一度断ってから、私ちゃんはダンジョン魔法で現在の魔方陣の状態を確認する。
そして、ソレを見つけてしまった。
「しっかり、ダンジョン魔法で確認しました!! おにーさんの召喚キーになるのは『涙』です! おにーさんの記憶を強く持つ、私ちゃんたちの涙が召喚の条件になっているみたいです!!」
「……ぁははっ♪」
エゼルさんの口から、乾いた笑いがこぼれた。
でも、それはすぐに潤いを取り戻していく。
「ははっ♪ フハハハッ♪ ふはははっ♪」
涙に濡れた顔で。真っ赤になってしまったその瞳で。
だけど素敵な、エゼルさんらしい、もっふもふな可愛い笑顔で。
「よ~し、いっぱい泣くぞ!」
エゼルさんの言葉に、私ちゃんも噴き出してしまった。
「もちろんです♪――あ、でも……」
「でも?」
「エゼルさんに泣きつかれたせいで、今の私ちゃんの服が……その」
「ああ、鼻水でぐちゃぐちゃだな♪ え~んがちょ(≧ω)X♪」
「どや顔で言わないで下さいっ!!」
何でだろう、こんな子どもみたいな会話だけで、また泣けてくる。
「ふぐっ、えぐっ……エゼルざんっ……ありがとう」
私ちゃんの言葉に、エゼルさんは苦笑する。
そして狼耳をピコピコと動かしながら、ちょこっとだけドヤ顔を作った。
「悪い、悪い。とりあえず泣くのは着替えてからだ。いっぱい泣くぞ(≡ω)♪」
ああ、もう、いつものエゼルさんだ♪
私ちゃんも、頑張らなきゃだよ。――うん、頑張ろう!
「了解です♪……えっと、ちなみにエゼルさんも着替えますよね?」
「んにゃ? エゼルはこのまま――「着替えましょう!! エゼルさん、鼻水でどろっどろじゃないですか!!」」
思わず言葉を遮ってしまったけれど。
よく見たら、なんというのか……まぁ、アレな感じ。絶対に着替えたほうがいい。
「しゃーないなー。まぁ、ディルが着替えるのなら、エゼルも着替えようかな(≡ω)?」
「それが良いです! で、ご相談があるのですが……(///ω)」
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「えっと、おにーさんのお出迎えの衣装なのですが……ごにょごにょ(おにーさんの好きなメイド服でお出迎えしてみませんか?)」
私ちゃんの告白に、エゼルさんが満面の笑み……というか、少し邪悪な笑みを浮かべる。
「何だとっ!? ディルの手元に『おにーさんの本棚』の中で断トツ上位を独占していた、あのメイド服があるのか!?」
「えへへ♪ あります!」
そうなのです。おにーさんが喜んでくれると思って、記憶を取り戻してからサキ姐さんに作ってもらったのです♪
「よし、着替えるぞ! 着替えてから、水島おにーさんを召喚直後に悩殺するのだっ(≧ω)ノシ」
「了解です♪ ついでに、水島おにーさんの記憶を取り戻すための作戦会議もしちゃいましょう!!」
「それ、いいアイディアだな♪ あ――でも、召喚魔方陣の使用期限とかは大丈夫か? これで、水島おにーさんを再召喚できなかったとかなったら、エゼルはガチで死ぬ自身があるぞ(Tω)??」
表情豊かなエゼルさん。
再び仲間になれた彼女に感謝の気持ちを抱えながら、私ちゃんはちょっぴりドヤ顔で宣言する。
「そこは確認したので大丈夫です。私ちゃんとエゼルさんと、あとはサキ姐さんとスラちゃんの涙で、おにーさんを召喚する魔方陣が稼働するようです! 99%に120%を上乗せしたくらいの確率で!!」
エゼルさんの「それ、100%を超えているからな?」っていうツッコミは聞こえません。だって後半の120%は、愛の力なのですから♪
おにーさん、待っていてください。
今度こそ、おにーさんを私ちゃんたちのもとへ召喚して見せます♪
(幕間編 完結・本編へと続く)
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【作者からの告知・再掲】
こんばんは、煮魚アクア☆です。
ここ数日、たくさん事前に告知をさせていただいておりましたが……いよいよ明日(2019年1月1日)の午前中に『DMな鬼嫁さん』の本編を投稿します(≡ω)b
具体的には、朝の10時頃を予定しております。(……が、場合によっては前後するかもしれません。その時には、ごめんなさい)
なおギリギリまで最終調整をしておりますので、応援していただけると嬉しいです。
皆様も、年末年始をお楽しみくださいね(≧ω)ノシ それではでは~♪