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第85話:「神代災害級のダンジョンじゃないかっ!!」

「ガツンと頭に拳骨を落として、悪い夢から目を覚まさせてあげるのです♪」

 多分――いえ、モニターに映っていたエゼルさんの様子からだと、ほぼ確実にエゼルさんは記憶を失ったままだと思う。

 だから私ちゃんが直接話して、記憶を取り戻してあげないといけない。


 初めて出会った1回目とは違う。レベル251のエゼルさんに対して、私ちゃんのレベルは520になっている。

 おにーさんはいないけれど。予定よりも早くエゼルさんは現れたけれど。キシ〇トールを使わなくても、私ちゃんはエゼルさんを圧倒することができる。


「……でも、手が震えてしまうのですね」

 エゼルさんと戦わないといけないことが、正直怖い。

 彼女は、私ちゃん達の仲間になってくれて――私ちゃんと対等な立場で、仲良くなってくれた2人目の友達。

 そんなエゼルさんと、本気で私ちゃんは戦うことができるのだろうか?


「ううん、ダメ。エゼルさんの記憶を取り戻すためにも、気合を入れなきゃ、私ちゃん!」

 頬を軽くたたいて気合を入れた後、しばらく目を閉じて集中して待っていると――エゼルさんがボス部屋に入ってくる気配がした。

「ほう? エゼルの気配に気づくとは♪ お前、なかなか勘が良いやつだな?」


 エゼルさんの声に、思わず涙が流れそうになる。懐かしい、とってもとっても懐かしい。

 失ってしまった時間が、頭の中に次々と浮かんでくる。

「ん? 何を考え事をしているんだ? レベルがたった6(・・・・)の新米ダンジョンコアが、侵入者を前にして油断しちゃだめだろ(≡ω)?」


 警戒の色も敵意も見せない私ちゃんの態度に、エゼルさんが不思議そうな表情を浮かべる。

 そう。今のエゼルさんは、まだ不思議そうな表情を見せる余裕がある。

 なぜなら私ちゃんは、レベルを6に隠蔽しているから。いきなり今の私ちゃんのレベルをエゼルさんに知られたら、エゼルさんが撤退してしまうんじゃないかと考えたから。


 普通は高レベルの鑑定スキルを持つエゼルさんの【鑑定】は誤魔化すことができない。

 でも、我彼のレベル差が2倍以上あることと、私ちゃんにおにーさん譲りの【隠蔽】スキルがあることで、しっかりとレベルやステータスを誤魔化すことが出来ていた。


 気が付けば、私ちゃんと40メートルくらいの距離になっていた。

「ほう、その紫色の瞳は、吸血鬼型のダンジョンコアか?」

 エゼルさんが驚いたような表情を浮かべて、懐かしい言葉を口にする。


「ははっ、吸血鬼型のダンジョンコアとは、ガチで珍しいなぁ♪ 精神操作で男のダンジョンマスターを操って、心も身体も喰い散らかすだけ喰い散らかして、最後にはサクッと殺してから、後腐れなく別の男に乗り換える『最低なやつら』がココに居るなんて。120年前に地上から絶滅させたと、先輩の天使に聞いたがな??」


 ああ、本当なら心にグサリと刺さる罵倒なのに、今の私ちゃんにとってはたまらなく懐かしく感じてしまって――

「……泣くのか? まぁ、泣かれたからって言って、エゼルは手加減をしないけれどな」

「エゼルさん、という名前なののですよね?」

 私ちゃんが泣きながら問いかけたことが意外だったのだろう、エゼルさんが一瞬驚いたような反応を見せた。

 そして、小さく咳ばらいをして、私ちゃんに問いかけてくる。


「ところで、DMはどこにいる? 普通、こんな新しいダンジョンなら――DCが出てくるよりも前に、DMが出てくるはずだろう? ダンジョンの奥までやってくることができる侵入者相手に、レベル6のDCをぶつけても、狩られるだけだからな?」

 DMという言葉で、私ちゃんの瞳から涙がこぼれる。


「ああ、そっか」

 私ちゃんの涙を見て、エゼルさんが微妙な表情を浮かべた。そして、言葉を続ける。

「お前も、厄介払いされたクチか? 本来のDCは別にいて、DPで後から呼び出された『予備の使い捨てダンジョンコア』なんだろ?」

 なんでだろう、とっても酷い勘違いをされてしまったのだけれど……私ちゃんは気づいてしまった。気になってしまった。

 エゼルさんが『お前()』と悲しそうな顔で口にしたことを。


「エゼルさんも、厄介者扱いされているんですか?」

 思わずかけた言葉に、エゼルさんが苦笑する。

「さあな? でも、『のけ者』の気持ちは分からなくもないぞ?」

 そう言って口元を歪めと、エゼルさんは無理をしている笑顔を作った。


「さてと、そろそろおしゃべりもお終いにするか♪ でもな、お前みたいな吸血姫タイプのDCは珍しい。だから――」

 すうっと大きく息を吸い込むと、エゼルさんがとても真剣な顔になる。

「最後に、何か言っておきたいことは無いか? お前というDCがいたことは、多分エゼルの記憶の片隅にずっと残るだろう。あ、でも――つまらないことは言うなよ? 本当に一言だけだ(≡ω)ノ」


 ああ、もう、なんでこんなに懐かしい言葉ばかり出てくるのだろう。

 滲む視界を手でこすって、私ちゃんは笑顔を無理やりつくる。

「諦めるには、まだ早いのです♪」

 言葉と同時に、ダンジョンのボス部屋の出入り口を【ダンジョン操作】で一気に塞ぐ。


 出入り口を潰されたエゼルさんが、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた。

「おいおい、それで退路を断ったつもりか? お前を殺せば、元に戻るだろう?」

 そう、エゼルさんの言う通り。

 ボス部屋の出入り口を塞いでも、そのボス部屋のボスを倒せば自動で元に戻る。


 苦笑しているエゼルさん。でもその余裕の表情は、ゆっくりと消えていく。

 私ちゃんが力を開放するたびに。


 そう。余裕なんて一切見せない。最初から全力。エゼルさんを甘く見ては、失礼だし危険だから。

「……レベル520って、まじかよ? 新米ダンジョンどころか、特級天使が対処するような神代災害(しんだいさいがい)級のダンジョンじゃないかっ!!」


 震える声のエゼルさん。

 でも、私ちゃんの本気は、こんなものじゃありませんよ?



(次回に続く)

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