第10話:「――おにーさんの1番は、私ちゃんですからね」
『い・や・で・す♪ 不埒な浮気者に、私ちゃんは説明をよーきゅーします!』
俺が可愛がっている年下の女の子が、(ヤンデレに)成長しちゃって、おにーさんはドキドキしています、物理的に!!
――とはいえ、年下の可愛い女の子が嫉妬してくれるなんて、ちょっとした可愛い行為だと思う。だから、軽く受け止めて、そっと抱きしめてあげるくらいの大人の余裕を見せた方が良いだろう。
ただし、受け止める時には「刃物ごと受け止めて」刺されないように説得と確認が必要だけれど。
ちなみに、あえて受け流すのもアリだけれど……これから永い期間を一緒に過ごさないといけないディルが相手だと、ちょっと無責任かなと感じてしまって気が引ける。
『ねぇ、ディル? 本気で怒っているの?』
『むー! 怒ってません!!』
良かった、返事をしてくれて。怒ったら「何を言っても無口になって黙り込んでしまう人」がたまにいるけれど、ディルはそういうタイプじゃないみたいだ。
ちなみに、怒っている人に「怒っているの?」と聞くのは、余計怒らせるから得策ではないと、俺はどこかで聞いたことがある。でもさ、相手の反応や感情を揺さぶるのには、わりと効果的な言葉だと俺は思うんだ。
『そっか。ディルは俺達のダンジョンに、ケモ耳天使さんが加わるのが嫌なの?』
『……嫌というか、何というのか……その……むー!』
口ごもって、拗ねるような気配をさらに醸し出すディル。多分、思考が加速中でなければ、絶対に唇がとがっていただろう。
さて、どうしたものか?
ディルの反応を見ながら、ベストまではいかなくてもベターな状態まで持って行きたい。
『ねぇ、ディルは……俺達のダンジョンの今後について、どう考えている?』
『……ダンジョンの今後ですか? まずは、今のダンジョンを堅実に運営して、ある程度の余力が出来たら他の地域にもダンジョンを増やしていきたいです!』
言葉がすらすらと出て来たけれど、ディルの置かれていた立場を考えると、すぐに納得できた。異世界のDMと契約するのを夢見ていた女の子が、異世界のDMと契約した後のイメージトレーニングを欠かす訳が無い。
ちなみに、ディルのダンジョン運営のイメージは、アパートの経営をしている大家さんみたいな感じかな?
まずは一つ目のアパートを軌道に乗せて、その後、1つ目のアパートで得られる利益と信用を使って、2つ目3つ目のアパートを購入する。そして、それが上手く行けば雪だるま式にどんどん収入を増やしていける。
なんだか、想像するとすごく楽しそう。
ダンジョン経営を頑張って、ガンガンダンジョンを拡張して、さらに2つ目3つ目のダンジョンも運営して……。そんなダンジョン経営が面白くない理由はどこにもないと思う、表面上は。
そう、ダンジョンをむやみに広げると、上級の冒険者や今回のケモ耳天使のエンゼル・マーブルさんみたいな人がやって来ることになる。
そのためきちんとした対策と、それを実行できる人財が欠かせない。
『俺とディルのダンジョンをさ、今後どんどん増やしていくのなら――信用できる仲間が必要だと思うんだけれど、ディルはどう感じる?』
『それは……』
言葉を詰まらせるディル。
多分、頭では必要だと理解しているけれど、気持ちがそれを拒否しているといったところだろうか。
『目の前にいる、ケモ耳天使のエンゼル・マーブルさん。悪くないと思って、俺は誘ってみたけれど……ダメだったかな?』
レベル1桁の俺達に対して、何百年も生きているケモ耳天使のエンゼルさんは、そのレベルも保有する知識も桁が違う。加えて、ダンジョンを攻略する側で生きて来た経験は、必ずダンジョン防衛に強力なアドバンテージを発揮すると俺は考えている。
新米ダンジョンマスター&ダンジョンコアのアドバイザーとしては破格の存在だ、もしも仲間にすることが出来るのなら。
『おにーさんは、ずるぃです。そんなことを考えられてしまったら、私ちゃんは反対できません……』
『でも、ディルは何だか気持ちがモヤモヤするんだよね? それとも、モヤモヤしない?』
『……モヤモヤします。ディルは……いけない女の子です……』
『……そんなディルも可愛いから、俺は好きだよ?』
『にゃにゃッ(///ω)!?』
ちなみに、コレは本心。女の子ってちょっと我儘なくらいが可愛いと思うんだ、俺的には。
だから、きっちりとディルと向き合いたい。
『ディルの考える「頭で考える、こうしたら良いなと思うこと」と「心で感じた、こうであって欲しいなと思うこと」を教えてよ? 俺、ちょっと鈍い所があるから、教えてもらえるともっとディルのことを考えたり、知ったりすることが出来ると思う。ディルのこと、ちゃんと考えて仲良くしたいから……ダメかな?』
少しタイムラグがあってから、ディルからの返事がきた。
『……おにーさんはズルいです』
『うん。多少ズルくても、ディルに嫌われることを考えたら、30万倍はマシだから。ね?』
『ズルいです……でも、私ちゃんのことを思って、そう言ってくれているのは、分かります』
『あはは、バレちゃった』
『仕方ないから教えてあげます……今回だけ、ですからね?』
『それは約束できないかも。また、ディルとケンカしちゃったら、俺は仲直りしたいもん』
『……私ちゃんも仲直りしたいです、その時には』
『ありがと』
『どういたしまして、です。――はぁ~、気持ちが落ち着きました』
そう口にして言葉を区切ってから、ディルが続きを話し出す。
『まずは、怒ってしまってごめんなさいです』
『うん、大丈夫だよ。でも、今度から刃物はやめようね?』
『そうします。――ダンジョンコアの先輩から聞いた「一番効果的な怒り方」ってことだったので試してみましたが、私ちゃんには向いていないみたいです。ぼそっ』
『うん、俺もそう思う。刃物は危ないからね!』
ええ、ハイ。ディルがぼそっと「(つい、そのまま刺しちゃいそうでした……)」なんて言ったのは、聞こえていませんよ? うちの子がそんなことをする訳が……あるかもしれないけれど、未遂だったから大丈夫ですッ!!
『えへへ……(///ω)♪』
とりあえず、仲直りが出来たことで嬉しそうなディル。次回以降、光り物が出てこないことを願おう。
そんなことを考えていたら、ディルからの応援テレパシーが届いた。
『えっとですね、おにーさん。私ちゃんも、あのケモ耳天使さんを仲間に出来たら、良いかもなって思います。私ちゃんとおにーさんのダンジョンをサポートしてくれるなら、とっても強力な味方です!』
『そうだね。隷属化じゃなくて、仲間として協力してもらえるのなら百人力だと思う。それじゃ――』
『ハイっ♪ お仲間にするための交渉、お任せします』
ディルにここまで言わせて、仲間に出来なかったら格好悪い。それに、俺自身もケモ耳天使のエンゼル・マーブルさんを仲間に引き込みたいと本気で考えている。
だけど、変に気負っても仕方がないから、自然体で行こう。
『ありがと。なるべく頑張ってみるよ』
『ハイっ♪ 応援してますね! でも――』
小さく言葉を区切って、ディルが嬉しそうな声で続けた。
『――おにーさんの1番は、私ちゃんですからね。忘れないで下さいっ♪』
(次回に続く)




