第1話:「……これ、アカンタイプの召喚だわ……otz」
※小説投稿サイト『マグネット!』でも投稿している小説です。よろしくお願いいたします。
なお作者は、恥ずかしながら、約2年ぶりになろうに帰ってきました。
詳しくは活動報告(2018/12/09)に書いております。改めましてご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。
さっきまで職場に一人残って残業をしていた俺ですが。息抜きとして、某エナジー系ドリンクを片手に、夜食のコンビニ弁当を食べていたはずなのに……ふと気が付くと、見渡す限りの鍾乳洞の中にいました。
うん、自分でも何を言っているのか分からない。
「私ちゃんの大召喚、成功ですっ!!」
声だけを聴くのなら、ちょっぴり天然な新入社員の女の子に似ている。
……いやいや、変な声が聞こえた気がするけれど、多分気のせいだろう、空耳だ。
俺の周りには、ダイヤモンドダストが優しく輝いているような、不思議な灯りの粒子が舞っている。そのまま周りをぐるりと見回すと、まるで雪の結晶がふわふわと空中を遊んでいるかのような幻想的な光景が、鍾乳洞の中に広がっているのを鑑賞できる。
天井から滴っている水滴の音や、遠くにみえる滝からマイナスイオンも発生しているのか、とても心が落ちつku――
「召喚、大成功ですっ! 大成功ですよっ!!」
……。ふんすふんす! と興奮しながら、国民的RPGに出てくるようなクラシカルな服を着た『赤い何か』が飛び跳ねているけれど、多分気のせいだろう。
まだ成長途中と思われる、上下に元気一杯に自己主張している「それ」に目線が行ってしまうのは、健康的な男性としては仕方が無いと思うのだが――って、いや、違うっ!!
大学卒業後、今の会社に入社してから5年が過ぎた。ネット小説の『アラサー異世界転移物』を楽しく読める程度には、人生に疲れている俺だけど……本気で異世界転移したいとは、ミジンコの爪の先ほども考えていない。
今の状況を例えるなら『職場で一人残業をしていたら、天然系赤髪美少女(胸そこそこ)に大召喚されてしまった件』――って、それなんて言うエ◇小説ですか?
はぁ……多分、疲れているんだな、俺。
こんな『自分の知りたくもない深層心理』が全開の夢を見るなんて、早く目を覚まさないと、明日の会議に資料が間に合わないかもしれない……。
「もうっ!! 何で私ちゃんを無視するんですかっ!? 流石の私ちゃんも、プンプンですよっ!?」
俺が現実逃避して、無視していたのがいけなかったのか『赤い何か』の唇がとがる。
でも、このリアルに『プンプンです』なんて言うちょっと痛i――もとい可愛い系美少女の反応を見る限り、これ以上無視するのは難しいっぽい。円滑なコミュニケーションを犠牲にするなら、もう少し現実逃避していることも出来るのだろうけれど……それは悪手だと、流石に「水島くんって空気読めないよね~♪」って部長に言われる俺でも、雰囲気で分かる。
赤髪の少女は、今は怒っているせいで、唇がアヒルのようになっている。
でも全体的に美人としか言いようがないオーラを全身で発しているから――あと5年くらいしたら、こんな感じで「余裕のある対応」を俺自身が取ることは絶対できないだろうなぁ……と予感させられるくらいには綺麗な子だ。
髪型はナチュラル・シルエット・デジタルパーマ・グレージュアレンジ風な印象だ。
女子の髪型には詳しくない俺だけれど。職場で面倒を見ている新入社員の女の子が自慢げに、何故か俺達に自分の髪型を暗記させようとしてきたから、この髪型だけは知っている。
……ええ、ハイ。「自然なシルエットの、デジタルパーマをかけたグレージュアレンジ」ですよね? お昼休みに、彼女と一緒にランチに行ったメンバーなら、グレージュアレンジは全員空で言えると思いますよ?
――って、いけない、いけない。また現実逃避をしてしまう所だった。
あまり年頃の女の子をじろじろ見るもんじゃないな。とりあえず、夢の中とはいえ、俺は俺なりのコミュニケーションをはかってみよう。
「……すみません、いきなりの事だったので、ちょっと思考停止していました」
とりあえず、年下だと思うけれど丁寧な対応を心がけよう。初対面の人には、第一印象が大切だから。
「ふむ? それなら仕方がありませんね。――で、記憶はどこまで残っていますか?」
「記憶ですか? 職場で残業していたら、いきなりここに来たのですが……」
「そうですか! 異世界の記憶が残っているのですねっ!!」
「いや、いきなり異世界って言われても……って、ここ、どこですか? 火星じゃ……無いんですか?」
「むっふ~♪ ここはアクアマリンという世界で~す☆」
「……」
ちょっとした引っかけで、地球じゃなくて火星と言ってみたのだけれど……完全にスルーされていることから考えるに、夢の中とはいえ、本当に嫌な予感しかしない。
何となくは理解している。でも、確かめない訳にはいかないのも事実である。
「ここは、本当に地球じゃないんですね?」
「えっへん♪ アクアマリンという世界ですっ! あなたを異世界召喚しました!!……って、あれ? 『ちきゅう』ですか? 『かせい』ではなくて?」
「ああ、間違えました。地球です」
「ハイっ♪ 地球から来た水島鮎名さん、よろしくお願いいたしますね♪」
「? なぜ、俺の名前を?」
「むふふっ♪ 何故か知りたいですか?」
「……ええ、それなりに気になりますので」
多分、俺の夢の中だから、が正解だと思うけれど。面白そうだから今はあえて口にしない。
「それじゃ、――こほん」
赤髪の美少女は一呼吸おいて微笑むと、ゆっくりゆっくりと言葉を紡いでいく。それはそう、とても大切な言葉を口にするように。
「私ちゃんと契約して、ダンジョンマスターになってよ?」
……うん。俺もネット小説は大好きだけれどさ。
どうせ夢だし、「会議の資料は諦めて、この異世界召喚を楽しもう!」とか少しだけ思い始めていたけれどさ。なんで某ホラー系アニメをパku――もといリスペクトしているんですか!? これ、運が悪いと第3話くらいでバットエンドが見えていますよね!?
「ぼそっ(あれ? この呪文を言ったら、男の人ならコロッと契約してくれるって女子の先輩に聞いたのに……なんでこの人、固まっているんだろう?)……あっ! 『あの言葉』を言うのを忘れていましたっ!!」
一人で小さく頷いて、赤髪の美少女が言葉を紡ぐ。
「ダンジョンマスターになってくれたら、キミの願いをなんでも1つ叶えte――「ちょ、すとーっぷ! 危ないから! ネタ的に、それはちょっと危ないから止めようね!」」
「ほ、ほぇぇ~?」
いきなり言葉を遮った俺に、若干引きつつ、きょとんとした表情を返してくる少女。
ああ、もう、無駄に可愛いなぁ……。
この赤髪の美少女の突出している魅力は、髪型でも、その怖いくらいに整った顔立ちでもない。何よりも惹きつけられるのは、その透き通るような紫色の瞳。
真っすぐに視線を向けられるだけで、心を鷲づかみにされるような危ない力が秘められていた。
だから、はっきりと理解した。
多分、70%以上は俺の夢だと思うけれど、これだけは言える。
「……これ、アカンタイプの召喚だわ……otz」
(次回につづく)




