プロローグ「ここはどこ?」
「…ここどこ?」
気づけば辺り一面真っ暗だった。
地面は土。小さな風は木の葉を揺らして、サラサラ音をたてた。森の中…だろうか。
困ったことに何故自分がこの場所にいるのかがわからない。
記憶喪失?というわけでも無さそうだ。
自分自身のことはきちんと理解している。
名前は藤崎隼人。歳は20歳で最近成人したばかり、大学生。今は夏休みで…いつものようにバイトを終えて帰宅して…ん?何か違うな。普段とは違うことが何かあった。ええと…ああそうだ。
「…すみません。近くに公園はありませんか?」
道を聞かれた。もう夜で暗かったのと、深くかぶったフードで顔は分からなかったが、確かに聞かれた。声は低く、小さかったのと夏なのに着ているコートに不審に思ったがすぐ近くに公園はあったし特にきにせず対応した…はずなのだが…
あの公園はブランコと水道のあるだけのものだし…それに街灯もあったはずだ…
こんなに暗いのは有り得ない。
それにこんなに木も生えていなかったはずだ。
…ここはどこだ?
携帯も何もなく手ぶら状態。
押しながら歩いていた自転車もない。
「ここでいいですか?」
「はい!はい!ああ助かりました。ああ少しばかりですがお礼を…」
…思い出した。
そう言ってあの人が片手をあげた瞬間。
「え?あの…」
「大丈夫ですよ。目を…閉じて…」
そこからだ。
そこからの記憶がない。
目覚めたらここにいたということはあの人が原因で…
…落ち着こう。
つまりこれは夢ではないのか…
夢ならよかったのに。
課題もあるしバイトも…友達との約束もあるし実家へも帰省しなくてはならない。
いやいやそんなことよりこんな見ず知らずのところで生活出来ないし、まずここは本当にどこだ?
色々思い出したことにより小さなパニックを起こし始めている。落ち着け…大丈夫だ。
ええと…とりあえず場所の把握と…誰かに助けを…ええとええと…
「あっ…!見つけました魔王様!!」
はい?
パニくる俺の頭上から聞いたことのある声が響いた。
この声…
「大丈夫ですよ。目を…閉じて…」
あっ!!
あの人だ。
で、でもどこに?
周りは相変わらずで人の気配はないし…
と、突然ブワッと大きな風が吹いた。
風が頬を掠める。…と、先程よりもしっかりとしたあの人の声が傍で響いた。
「すみません。二人で通るのは初めてでしたもので…お怪我はないですか?」
ゆっくり目を開けながら声の方向を見ると…
「っ…!?いつの間に…」
フードをかぶった人物がすぐそばに立っていた。
あの人はフードをゆっくり下ろして、
「お礼をさせてくだい。…魔王様もお待ちですので。」
と悪意のない顔で微笑んだ。サラサラとしたあの人の短い白髪が風に揺れる。それは暗闇の中でも凛と光り輝いていて…つい、見とれてしまった。