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魚の奇術  作者: 6
6/6

エピローグ

 100円で回る洗濯機が止まるのを待ちながら、春の訪れの中うたた寝を堪能する。コインランドリーは休日の私の憩い。

 しばらく金髪の青年とは会っていない。もう大阪へ引っ越してしまったのか、学生が忙しいのか、彼女でも出来たのか。いかなる理由があろうと、私には関係ないのだが。

 ふわぁ、と一つあくびをして、惚ける頭を目覚めさせる。

「…ふぁうぇっ!?」

「フハハハッ。変な声ですね〜。」

 目を開くと、ふにゃふにゃと笑う表情が特徴的な金髪の青年がたっていた。誰の存在も感じていなかっただけに、思わず大げさに驚いてしまう。

「なになに、まだ引っ越してなかったの?」

「お別れを言いに来たんです。」

「今日だったのね。」

「最後に、どうです?」

「やろ。」

 彼は向かいに座ると、ポケットからいそいそとスマホを取り出して、連珠の準備をする。

「楽しかった。ありがとね。」

「まだ始まってませんよ。」

 受け取ったスマホには、黒い石の置かれた盤面が映る。画面を撫でて、適当に白い石を置く。

「大阪ってどんなとこ?」

「俺も初めて行くんです。」

「え?実家でしょ?」

「ふふふ〜。」

 最後まで彼の事を何一つ知らなかった。

 そう分かった時に、彼に対して別れの寂しさを感じるのは違う気がした。この青年なりの優しさなのか。ただ素性を明かしたくないだけか。どちらでもいい。私は彼と連珠で暇を潰すだけの関係なのだ。それも今日で終わる。

「姉さんは三浦 吉平って人、ご存知ですか?」

「あー、最近ニュースになってたよね。両親殺した後、自分の開発した方法で自分自身も魚になったって。」

「でもその魚が本当に彼かどうか、まだ分かってないみたいですよね。」

「ね。」

 ただの世間話なのだろう。

 それがどうしたのか、聞こうとして止まる。

「私、あの人が子どもの頃に受けたインタビュー見て、羨んでた。ちょうど大学受験でさ。ああいう子は勉強なんて余裕なんだろうなって。頭いいっていいなーって。でも…私みたいな凡人じゃわかんない、いろんな悩みあるんだろうね。」

「…どーでしょうね。」

 ずいぶんとあっさりとした返事。

 ふにゃふにゃとした笑顔を向ける。

 私も笑ってやった。

「俺の夢、美人なお姉さんとゲームする事だったんです。叶えてくれて、ありがと〜ございました。」

 急にそんな事を言われて、私は一体どんな顔をしていたのだろう。真っ直ぐに見つめられて、思わず外に視線を逃してしまう。

「おーいっ!そろそろ出るで!」

 白いワンボックスカー脇でこちらに手を振っている男性が目につく。

「…大阪弁…。」

「そろそろ行かなきゃ。続きはまた会った時にしましょ。」

 相変わらずふにゃふにゃと笑う。自分の事は何も話さない、ずるい人間だ。そう思いながら、私はにっこりと笑った。

「姉さん、三浦 吉平は大阪でマジシャンになるそうですよ〜。」

「は?…へ?」

 それが私に向けられた、彼の最後の言葉。

「吉平!お前、また人の名前で勝手に買い物したやろ!」

「い〜じゃないですか〜。もう一心同体なんですからー。」

「気色悪いねん!」

「てか、兄さん免許持ってたんですね。すごーい。」

「当たり前やろ。もーええからそっち乗り。」

 吉平。

 私の耳がおかしくなければ、あの男性はたしかに金髪の青年の事をそう呼んだ。

 ワンボックスカーに乗り込んだ2人を呆然と見送る。緩いエンジン音が、桜の舞う4月の道をゆっくり進み消えて行く。

 私は、今まで一体誰とスマホゲームを楽しんでいたのか。今となっては、確かめようもない。

「さて、乾燥。」





 おわり

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