猫に優しい人がいける森。
梅雨のある日の朝、部屋干しで生乾きのブラを身に付けていると飼い猫のベホマズン(雑種)が話しかけてきました。
「あなたは大変猫に優しいので猫の森にご招待しましょう。目を閉じてくれませんか?」
我ながら動じない性格です。
私はベホマズンの言われた通り目を閉じました。
するとどうでしょう。
緑のきれいな森の前に私は立っていました。
胸元に鈴がついた真っ白なワンピースに真っ白なサンダル。
いつの間に着替えさせれたのでしょう?
「こんにちは」
「こんにちわー」
私の前に立つベホマズン。
左右後ろに猫。
あちゃー囲まれたかー。
「それでは猫の森にいきましょう」
ベホマズンの案内で私は森に向かう。
「抱っこしましょうか?」
「よろしいのですか?」
「よろしいでしょう」
後ろを歩いていたおじいちゃん猫が遅れだしたので私が抱っこして歩くことにしました。
森に入りました。
綺麗な赤レンガの道がまっすぐ延びています。
「こけたら痛いのでお気をつけて」
「はい」
うーん。
「みてるねぇ」
「みますよ。それは」
森の木の下、枝の上。
たくさんの猫がこちらをみています。
別に興味ねぇなぁ。
って顔で。
「いろんな猫がいますね」
「世界中の猫がいるんですよ」
さすが猫の森。
「着きました。猫の森の猫の村ですよ」
レンガと藁と木の家が3つずつある……村と言えば村ですね。
「失礼」
チリリーン。
抱っこしていた猫が私の胸の鈴を鳴らすとドタンバタンと扉を開けて家から猫たちが大量に現れ、にじりよってきます。
少し驚いたので抱っこしていた猫を落としてしまいましたが、猫は華麗に着地して集団にくわわりました。
「ベホマズン。このこたちは?」
「猫です」
でしょうね。
また猫にかこまれたー。
「挨拶もすんだところで食事にしましょう」
挨拶だったんだね。
ああ、おいていかないでベホマズン。
私は進路方向にいる猫たちをつかんではポイしながらベホマズンの後をおいました。
「これは猫に優しい人ようの椅子なんですよ」
木製の子供用学習机と椅子って感じです。
それでは座りましょう。
よっこいしょ。
「みてるねぇ」
「みますよ」
猫の大群には囲まれたまま。
全員尻尾がピーンと立っているので歓迎はされているのでしょうね。
きっと。
「目を閉じて」
「はい」
「開けて」
「はい」
まあ立派なお魚が机の上に。
「ヒラマサですよ。猫に優しい人にはヒラマサをご馳走するのです」
ヒラマサかぁ。
「ベホマズン。残念だけど人間は生のヒラマサは食べられないんだよ。これはみんなにあげていい?」
「なんと……これは猫の村始まって以来の大事件です。どうぞどうぞ」
「ぺいっ!」
ヒラマサの尻尾を掴んで投げるとあわれヒラマサはあっという間に猫たちに食べられ、骨になってしまいました。
漁師さんもヒラマサも本望でしょう。
「おや?」
猫が一匹膝の上に乗ってきました。
「おやおやおやおや?」
足下に二匹。
胸と背中にへばりついた猫が一匹づつ。
右腕と左腕にも猫がしがみつき、脇と腕の間から猫が顔をにょきっと。
あら頭の上には子猫ちゃん。
「猫暖房ですよ」
「暑いし重いよ」
「撤収」
はーやれやれ。
全身猫の毛だらけになった。
「ヒラマサがだめならりんごとラ・フランスを食べましょう」
私とベホマズンは再び猫の森へ。
池につきました。
池の近くには立派なりんごとラ・フランスがなった木があり、その下でデブ猫たちが仰向けで気持ち良さそうに寝ています。
「あの子達のお腹をさわっていいかしら?」
「よろしいでしょう」
お許しを得たので一匹づつお腹を三回触り。
こっそり肉球をつつきました。
「ふぅ」
満足。
その後は猫たちと同じ方向を見ながらとても美味しいラ・フランスとリンゴを食べながらボーッとしました。
太陽が直視できるほど薄くなってきた。
「あっ。夜が来ます。村に戻りましょう」
少し早歩きで村に戻りました。
村には相変わらず猫の大群。
「ベホマズン?」
大群のなかに紛れ込むベホマズン。
「さぁ。この中から私を見つけて。見つけられないと永遠に猫の森の住人に……」
「夜だから帰ろうか」
ベホマズンの首の皮を掴んでブランブランさせながら私は森をでました。
すっかり夜。
森の方を見ると猫たちの目がキランキラン光ってお星さまのよう。
「じゃあ目を閉じて」
「はいはい」
こうして私は私の部屋に帰った。
朝だ。
時間はたってなかったみたい。
「ナーン」
ベホマズンが鳴いている。
夢か夢じゃないかはどうでもいいか。
どちらにせよ楽しかった。
私はベホマズンに餌をあげてガスの元栓をしめて元気に仕事に向かった。
「猫に優しいと猫の森にいけるよー」
そんなお話。