【プロローグ】
――人間は何のために生まれたのだろうか。
俺は、そんなことを毎日のように頭の中で何度も繰り返す。
人間というものの始まりは大袈裟だ。
開幕のブザーが鳴ると同時に、客席からは無数の拍手が起こる。数多のオーディションをくぐり抜け、最後まで辿り着いた者しか浴びることの出来ない拍手。上がれない舞台。
その舞台は、何千という生命を蹴り落してまで上がる価値があるものなのだろうか。
壇上に上がれば、息が出来なくなる。声が出なくなる。そんな可哀想な俺に、道化師のような仮面が近寄ってきた。
『お客さんは、皆カカシよ。カカシと思えばいいの。』
俺という名の舞台は、主役も、舞台監督も、脚本も、すべて俺だ。俺自身。キャスティングだけは自分の意のままに出来ない。与えられたものから、この舞台は始まる。
それは、つばを吐き捨てられて終わるだけのものになるのだろうか。それどころか、誰にも見られることはなく、朽ち果てて消えるのだろうか。生まれ、感情を知り、ある者は愛を知り、温かい家庭を築いた。またある者は憎しみと欲望に苛まれ、極悪非道の悪役となった。
どの舞台にも共通しているのは、どの舞台のクライマックスも同じということだ。
人間の舞台のクライマックスは【死】だ。自殺、他殺、病死、安楽死、事故死、死、死、死、死、【死】。他人の舞台のクライマックスを、俺は何百回、何千回と、紅い薔薇で飾ってきた。その度にまた俺は考える。
《人間は何のために生まれたのだろうか》
考えると、頭が痛くなる。吐き気がする。自分のクライマックスはどのように迎えられるのだろうか。誰も、知らない。誰にも、わからない。舞台の真ん中で泣き叫ぶ。演じながら、本心では哭いているのに。誰も、気づかない。気づかれない。スポットライトが眩しい。客席を見る。誰も、いない。誰も、見ていない。いるのは、カカシだけ。仮面を被ったカカシだけ。道化師のような仮面を被った…。カカシが、俺を見ている。観ている。監視ている。
俺は演じ切らなければいけない。この舞台を、俺という名の人生を。
ある者は言った。人は死ぬために生まれてきたのだと。
ある者は言った。人は生きるために生まれたのだと。
ある者は言った。人は人を騙すために生まれてきたのだと。
そして、ある《男》は言った。
『人は――――。』