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~始動~
山手線近辺。レトロな空気が漂う街の商店街から少し外れた裏道にある、小さな雑居ビルの五階。この街には少し不似合いなユニコーンのシルエットが描かれているスカートに、彼女の身長の半分ほどの巨大なうさぎのぬいぐるみを抱きかかえた少女が木製のドアの前で立ち尽くしていた。春らしい温かい風が吹き、小麦色の短い髪が揺れる。彼女は深海ような青い瞳で見据えていた。
少し痛んだ木の板には、不器用な文字でただこう書かれてある。
《私立佐々木探偵事務所》
少女は一つ息を吸うと、古びたドアを叩いた。