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〇〇は『深緑に染まりし火山』に行くそうです その14

 身支度みじたくなどを済ませたあと、俺たちは再び『例の火山』に登ることにした。

 俺はよく覚えていないが、ミノリ(吸血鬼)とカオリ(ゾンビ)がそこで反省させられているらしい。

 今回は、俺とシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がそこに登って、そこで反省しているであろう二人を連れ戻しに行く。

 留守番が決定した他のメンバーの顔が一瞬いっしゅん、引きつったように見えたが全員の頭をでると少し改善されたため「早めに戻るからな」と言った後、俺とシオリは『例の火山』を登り始めた。


「タン、タン、タン、タタタン、タタタッタタ、タン、タタン、タタ、タッタッタッー」


「シオリ、何歌ってるんだ?」


 俺より少し前で行進をしている、シオリにそんなことをくと、シオリはこちらを向いて後ろ歩きをしながら、こう言った。


「ナオ兄は『ガ〇パン』知らないの?」


「えっ? いや、知ってるけど……あっ! もしかして!」


「そう、あの有名なBGM、戦車道行進曲! パンツァー」


『フォー!』


 俺たちはつい、こぶしを天に突き上げながら、言ってしまった。

 あー、なつかしいなー。

 マウスの倒し方、やばかったなー。

 あと、西住姉妹の一騎打ちも、かっこよかったなー。

 最終章にも期待だな、これは。俺がそんなことを考えていると、頂上でとても大きな音が聞こえた。

 その音から分かったことは、何者かが頂上で戦っているということだった。

 俺とシオリは顔を見合わせると、首をたてったあと、急いで頂上へと向かい始めた。


「なあ、シオリ。あの音って、やっぱり」


「うん、多分。あの二人がケンカしてる音だと思う」


「まったく、あいつらはコブラとマングースかよ」


「でも、殺し合いに発展してしまったのなら、さっきので、どっちかがやられてると思うよ」


「ああ、そうだな。でも、あの音は物と物がぶつかった時になる音だった。だから、おそらく二人はまだ生きている。まあ、これはあくまでも俺の推測だから、本当かどうかは分からないけどな」


「そうだね。現地に行ってみないと、何も分からないもんね」


「ああ、そうだな。それに、あの二人のケンカを止めないと、この火山が崩壊ほうかいするかもしれないからな」


 俺たちは走りながら、そんな会話をすると、歩くとかなりの時間を要する山道を数分で登りきった。(俺の身体能力は【くさり】の力を使うたびに化け物じみていく)

 頂上に着くと、二人はそれぞれの固有武装を使って戦っていた。


「お前のそのつばさは! あたしの固有武装で消し炭にしてやるよ!」


「あんたの固有武装で、あたしに勝てるわけないでしょう!」


「なんだと! ぶっ殺すぞ! コラ!」


「なによ! あたしにかなうとでも思ってるの!」


 固有武装『光を喰らう黒影製の翼(ブラックイカロス)』は、ミノリ(吸血鬼)が手に入れた固有武装。空を飛ぶためだけでなく武器としても使える優れもの。

 固有武装『火山の力を司りし手甲(ボルケーノ・ナックル)』は、カオリ(ゾンビ)が手に入れた固有武装。

 まるで火山の噴火の威力をそのまま打撃力だげきりょくに変えているかのように攻撃こうげきできる。

 そんな物を持っている二人が戦っているため、周囲の地面はボロボロであった。


「お前ら、いい加減にしろよ! ケンカの原因はいったい何なんだ!」


 二人は、こちらを向き均衡きんこうし合ったまま、こう言った。


「ナ、ナオト、良かった。もう、元気になったのね」


「マスター、復活おめでとう! 温泉での件は……その、すまなかったな」


「ああ、この通り、完全復活だ。温泉での件も水に流したしな。だが、そう言うお前たちは俺がねむっている間に、何をしていたんだ? 今も、ケンカをしているように見えるが……」


「ち、違うの! これは!」


「おいおい、何か勘違かんちがいしてないか? マスター」


「ん? どういうことだ?」


「あたしらは、ケンカをしているわけじゃねえ。この山の頂上のどこかに生えてるっていう植物を探してるだけだ」


「そうなのか? けど、ずいぶんと派手にあばれたように見えるぞ?」


「それは、仕方ねえさ。普段、その植物はねむっているからな」


「そんなことが……あってもおかしくないよな。この世界では」


「まあ、そういうことだ。だから、ここでこいつと戦ってるのは、それを無理やり起こすためなんだぜ?」


「そうだったのか。で? それは起きそうなのか?」


 カオリ(ゾンビ)は、ニシッと笑いながら。


「全然、これっぽっちも起きる気配がないぜ!」


 自信満々にそう言ったため、おこるのがバカらしくなった。


「じゃあ、もう、お前たちが戦う必要はないってことだよな? ミノリ」


「ん? え、ええ、そうよ。でも、こんなにあばれても起きないなんて、本当にこの場所にしか生えないのかしら?」


 ミノリ(吸血鬼)がそんなことを言ったので、少し考えてみた。

 こんなに可愛かわいい幼女が二人でドンパチしているのに起きない植物……か。

 普段は眠っている植物……いくらあばれても起きない植物……この場所にしか生えないという植物か。

 うーん、名前さえ分かれば、どんな植物か見当けんとうがつくのだがな……。

 俺がうでを組んで考えていると、黒いパーカーのそでをクイクイと引っ張られたので、シオリ(獣人ネコ)の仕業しわざだと思い、そちらを向いた。


「どうしたんだ? シオリ。何かめずらしいものでも見つけたのか?」


「ナオ兄、ここはどこ?」


「えっと、記憶喪失きおくそうしつかな?」


「違うよ。単純たんじゅんに、ここがどこなのかをいてるんだよ」


「えっ? ここはどこって、それは……」


 その時、俺の脳内のうないでオレンジがはじけ飛ぶ音がした。要するに、ひらめいたのだ。俺は腕を組むのをやめて。


「シオリ、お前はいつからこの答えをみちびき出していたんだ?」


 シオリ(獣人ネコ)は、キョトンとした顔で。


「えーっと、この火山の頂上にしか咲かない植物があるって聞いた時からだよ」


「お、お前、すごいな。将来、探偵たんていになれるぞ」


「そうかな? 私はただ、真実を見つけただけだよ?」


「かっこいいな。今のは、いったいだれの言葉だ?」


 シオリは、ニコッと笑って。


「わたしだよー」


 そう言って、俺の手をギュッとにぎってきた。

 突然のことだったので、少しおどろいてしまった。

 だって、女の子の手って、びっくりするくらいやわらかいんだもの。

 お、おかしいな。俺っていつもこんな感じだったっけ? ま、まあ、いいか。今はそんなに気にする必要ないしな。


「じゃあ、二人に伝えるか」


「うん、そうだね。それとナオ兄の手、やっぱりすごくいいよ。みんな、この手の感触かんしょくが好きだって言ってたのがよく分かったよ」


「お、俺の手の感想はいいから、早く伝えにいくぞ」


「うん、分かった」


 その後、俺とシオリは二人に真実を伝えにいった。


 *


『ええええええええええええええええええええ!!』


 二人のその反応はごくごく自然なものだ。だって、この山の山頂にしか生えないという植物は……。


「今、言ったことは全て事実だ。だから、ここに大人数で来ちゃいけないんだよ」


『そ、そんな』


 ガッカリして体を小さくする二人の気持ちはよく分かる。

 自分たちが正しいと思っていたことが、間違いだと気づいてしまったからだ。


「ということで、それが咲くまで、お前たち三人はできるだけ山頂から離れてくれ」


「分かったわ。その代わり、十分以上待っても咲かなかったら……」


 ミノリ(吸血鬼)。


「分かってるよ。大声で、お前たちにここに戻るよう叫べばいいんだろ?」


「ええ、そうよ」


「まあ、しっかりやれよ? マスター」


 カオリ(ゾンビ)。


「ああ、分かった」


「ナオ兄、ファイト!」


 シオリ(『ノ○ノラ』の白のように、そう言った)。


「ありがとうござ……いや、ありがとう。頑張るよ」


 そんな感じで、三人はできるだけ山頂から遠くに下行き始めた。さてと、しばらく待ってみますか。

 しかし、それは俺があぐらをかいて座ってから、三秒もたないうちに咲いてしまった。


「早っ! こんなに早く咲くものなのか?」


 咲いた花の名前は、俺たちの世界で言うと『リンドウ』。この世界では多分、『グリーンドウ』だろう。(バイオレットウガラシやインディゴマがあるから)

 本来、この花は俺のいた世界では、こんな場所には生えないはずだし、そもそも、こんな深緑ふかみどりではない。


『おはよう。今日もいい天気だね』


 その花は急に俺の脳内のうないに直接、話しかけてきた。


「お前、話せるのか? すげえな」


『そうかな? この世界の植物のほとんどは人と会話できるよ?』


「……えっ? そうなのか? 初耳なんだが」


『それより、僕をりに来たんでしょう?』


「まあ、それはそうだが……」


なぞいたものには褒美ほうびを与えるのが、この世界での常識。けど、それを与えるに相応ふさわしい存在かどうかは、僕が決める。ねえ、君はどうやって僕が顔を出す条件を導き出したの?』


「暴れても出てこないのと、普段、咲かないのは、リンドウの花言葉《悲しんでいるあなたを愛する》のせいなんだろう? まあ、それを知っていたシオリはすごいが、なによりも、この火山にしか咲かないということを聞いただけで、それを理解したのがすごいな」


『なるほど、君はその子のおかげで僕を見つけることができたんだね』


「ああ、そうだ。だから俺じゃなくて、シオリに褒美ほうびを与えたいんだ。ダメか?」


『どちらにせよ、僕は自力で動けないからね……いいよ、君がその子に僕という褒美ほうびを与えるのなら僕は大歓迎さ。僕を見つけてくれた君にめんじて、僕はそれを許すよ』


「そっか、ありがとな。ところで、どうして、この山にしか生えないんだ? それだけが分からなかったんだが……」


『ああ、それはね。ここに僕を植えた人が恋をしていたんだよ』


「それで?」


『彼女は、その人と一緒になりたかった。行くところまで行ったら、子作りもしてみたいと』


「……ほう」


『でも、それはかなうことはないと言っていた』


「どうしてだ?」


『……それは、彼女が人ではなかったからさ』


「……そっか。けど、どうしてその人は好きな人に自分の気持ちを伝えなかったんだろうな」


『人ならざるものが普通の人と普通の恋や結婚ができると思う?』


「そうか? 俺なら、大歓迎なのにな」


『……そうか……もしかしたら君が彼女の言っていた好きな人なのかもしれないね』


「えっ? それってどういう……」


『話はおしまい……あと、お腹がいたな。我慢がまんできそうにないから、先にあやまっておくね……ごめん』


「ん? それって、どういう……」


 リン(グリーンドウを省略した言い方)は、地面にあるはずの根っこを俺の手首にして、血を吸い始めた。


「お前、動けないはずじゃ、なかった……のか?」


『ごめんね。でも、この世界の植物はだいたいが吸血種なんだ』


「は、はは、しょうがないな。だが、死なない程度に頼むぞ?」


善処ぜんしょするよ』


 まさか、復帰早々に植物に血を吸われるとはな。


「……まったく、あなたは本当にあの頃から変わっていないのね、ナオト」


「……えっ?」


 俺の背後から聞こえたその声に俺は聞き覚えがあった。


「『強制睡眠(スリープ)』」


「……せん、せい?」


 俺がねむる前に、一瞬いっしゅんだけ見えたその姿は間違いなく、俺の高校時代の恩師である『先生アイ』であった。


「『完全破壊(デストラクション)』!」


『ク、【純潔の救世主(クリアセイバー)】!? どうしてこんなところに! く、クソ! あと少しだったのに! おのれ、おのれええええええええええええええええ!!』


 その植物は、瞬時に灰とすと風に飛ばされてしまった。


「……お人好しすぎるのが弱点なのは、あの頃から変わっていないのね……レプリカにだまされるなんて。まあ、それがあなたのいいところでもあるのだけれどね」


 白いワイシャツ、白いスカート、白い靴下くつした、白い運動靴、白というより銀に近いショートヘア。

 そして、ひとみだけが黒い彼女はあらゆる世界の頂点に立つ存在。その名は『アイ』。

 彼の異変に気づき、モンスターチルドレン育成所から、どうやって助けに来たのかは不明だが、彼女のおかげで彼は助かった。


「本物の『グリーンドウ』が、あなたの右肩に咲いていたのに気づかないなんて……ふふふ、やっぱりあなたは面白いわね。ナオト」


 彼女は、ナオトの寝顔を見ながら頭をでた。


「『完全記憶操作ザ・メモリー』……ごめんなさい、ナオト。私の名前は、しばらく忘れておいてちょうだい。じゃあ、またね。ナオト」


 先生はそう言うと、どこかに消えてしまった。

 その直後、ナオトのことが心配で様子を見に来た三人がねむっているナオトを発見しなかったら、ナオトは動植物たちの養分になっていたかもしれない。

 実は、ナオトの右肩に生えていた方がナオトと会話をしていた方で最後の方に会話していたのが、おそってきた方である。(『話はおしまい』のあたりから、後者が話していた)

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