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〇〇は『深緑に染まりし火山』に行くそうです その9

 バシャ、バシャという音と顔にかかるお湯の熱さで目を覚ました。

 あれ? 俺、もしかして寝てたのか? というか、なんか妙に気持ちいいな。

 俺がゆっくり目を開けると、そこには闇夜と温泉があった。


「あれ? なんで俺、温泉に入ってるんだ? というか、ここはどこだ?」


「ナオト……目が覚めたんだな。よかった」


 真後ろで声がしたため振り返ると、そこにはおけを持った名取がいた。

 名取なとり 一樹いつき。名取式剣術の使い手でナオトと同じ高校の同級生。

 両目は前髪で隠れていて見えない。

 人見知りだが、武器のことになるとよく話す。今はナオトたちと行動を共にしている。

 名取は桶を足元に置いたあと、湯船にかると話し始めた。


「お前が急に倒れたから心配した……。けど、寝息を立てていたから疲れて眠ったことが分かった」


「いや、だとしてもねむってるやつを温泉に入れるか? 普通」


「この温泉には特殊な効果がある……。それは、あらゆるやまい・ケガ・呪いのたぐいをなかったことにすることだ。ちなみに短時間だと効果はうすい」


「そうか……。それで? ここは、いったいどこなんだ?」


「『深緑に染まりし火山』にある温泉……と言っていた」


「誰がだ?」


「……ベルモスだ。ついでに言うと、お前をここまで運んだのはあいつのしもべ巨大灰色熊グリズリーだ」


「そ、そうか、あの熊がここまで俺を……って、そうだ! ミノリたちはどこにいるんだ! ここにはいないみたいだし。よし、名取! 探しに行こう! 今すぐに!」


 俺が温泉から出ようとすると、名取なとりは俺の手首をつかんだ。


「あいつらも入浴中だ……。たまには、ガールズトークをさせてやろう。ちなみに、あいつらの入っている温泉の温度は水が沸騰ふっとうする温度らしい」


 俺は湯船にかりながら。


「そ、そうだな。た、たまには、そういうのもいいかもな……って、あいつらの体やばいな」


「すっかり、あいつらの父親だな……ナオト」


「……いや、俺はあいつらの親にはなれないよ。あいつらが俺をどう思っているかは知らないけど、少なくとも俺はあいつらとただ一緒に旅をしているだけの存在だ。なんか、あたしはあんたの未来のお嫁さんよーとか言ってるやつもいるけど、やっぱり俺は……」


「だそうだが、みんなはナオトのことを……どう思ってるんだ?」


「えっ? お前もしかして……」


「……すまない、ナオト。でも、こうしないと俺のエクスカリバーが切断されかねんからな。その……そこの岩陰いわかげに全員集合している」


「い、いつからだ?」


「お前を温泉に入れた直後……からだ」


「えっ? じゃあ、この岩の向こうに見える温泉にはあいつらが入ってるってことか?」


「……正解だ」


「……よ、よーし、じゃあ俺そろそろ出るわ」


 その時、俺の背後に何者かが忍び寄り、俺の後頭部に手刀をくらわせた。

 俺は両手をげて、自分が降参したことを相手に伝えた。


「えーっと、たしかモンスターチルドレンは風呂に入れないんじゃなかったっけ? それに、誰かさんが『あたしたちは汗をかかないし、落とす汚れもつかないのよ!』って言ってた気がするんだが?」


「ここの温泉は特別だ。聖なる力と魔の力が合わさってるからな」


「じゃあ、そろそろその手を退けてもらっていいですか? 怖いんで」


「今のあたしには、あたしが望むことをマスターがしてくれるという権利がある。あとは分かるよな? マスター?」


「……カ、カオリ。俺は神社での戦闘と、さっきの戦闘の疲労がまだ……」


「はぁ? じゃあ、マスターの秘密をあいつらに話してもいいよな?」


「俺の秘密? な、なんのことだ? さっぱり分からないぞ?」


「マスターの高校時代にあった全ての出来事をあたしが知っている……と言ってもか?」


「……おい、名取。お前、まさか……」


「ゆ、許して、ヒヤシンス」


「名取、てめえええええええええ!!」


 カオリ(ゾンビ)は俺に名取と話す機会すらも与えない。


「おい、それでどうなんだ? あたしがマスターの過去をあいつらに暴露してもいいのか?」


 相手のア○ティメットトリガーがヒットした時よりもショックだな。これは……。

 今回は完全に完敗だな……。というか、カオリ(ゾンビ)のずるがしこさにはかなわないな。


「……わ、分かったよ! お前の言うことを聞けばいいんだろう!」


「さすがは、あたしのマスターだな。賢明な判断だ」


「くそ! 覚えてろよ! カオリ!」


「はいはい、ちゃんと覚えておくよ。それじゃあ早速、あたしの願いを聞いてもらうぞ」


「そ、そうだな。できるだけ早く終わらせたいしな」


「うーん、じゃあ、やっぱり、これにするかな」


「決まったのか?」


「ああ、決まったぜ。少し耳を貸せ」


「右耳で、お願いします」


「……そうか。じゃあ、左耳にしよう」


「やめてください。カオリ様」


「しょうがねえなー。今回だけだぞ?」


「ありがたき、お言葉!」


「おう。それじゃあ、言うぞ」


 カオリ(ゾンビ)は俺の右耳に小声で俺にしてほしいことを言った。

 それはあまり気乗りしないような内容だったが、断れば俺と名取のエクスカリバーが切断される恐れがあったため断念した。

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