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〇〇は『深緑に染まりし火山』に行くそうです その8

 ただいま、カオリ(ゾンビ)対ベルモス(悪魔)のバトルが繰り広げられています。ピーという発信音の後、二十秒以内にこの場から離れてください。死にます。

 という冗談は置いといて……と言っても、二人が戦っているのは本当なんだけどな。


「固有武装『火山の力を司りし手甲(ボルケーノ・ナックル)』のすごさをお前の体に直接ねじ込んでやるぜ! ベルモス!!」


「固有武装『雷神から授かりし大鎚(ライジング・ハンマー)』の方が断然、君のより強いってことを教えてあげるよ! カオリ!」


「なんだとー! よーし、それなら今すぐ、あたしの熱い手甲やつをお前の腹にぶち込んでやるよ! 覚悟しろ!」


「ふん! それなら私は君の穴という穴に、この太い大鎚ものをぶち込んであげるよ!」


 ……あいつら、だんだんと下ネタ合戦になってきてないか? というか、あの二人ってなんか似てるな。

 ____それから、時は流れ、夕方になった。


「はぁ……はぁ……はぁ……お前、見かけによらず、なかなかやるじゃねえか」


「いやいや、君もすごいよ。私と互角以上に……遊べるなんてさ」


 お互い、疲労困憊ひろうこんぱいの中、最後の攻撃を仕掛けるためにかまえた。


「じゃあ、そろそろしまいにしようぜ。ベルモス」


「そうだね。名残惜しいけど、そろそろ終わりにしようか」


 両者はそう言い終わると同時に。


「固有魔法『範囲威力効果倍増拳(メガトンスマッシュ)』!!」


 カオリは自分のこぶし同士をガンッ、ガンッと合わせて、自分の固有武装の威力と範囲と効果を倍増させた。

 これで、さきほどよりも強い一撃が放てる。だが、それを見たベルモスはそれに対抗するために固有魔法を発動させた。


「固有魔法『人嫌いな悪魔の超覚醒ベルフェゴール・ドライブ』!!」


 その直後、ベルモスの体を黒きオーラがおおい尽くし、まゆのような状態になったかと思うと一気に膨れ上がり、風船が割れるようにはじけた。

 その中から姿を現したのは黒い入れ墨のようなものが全身に描かれたベルモスであった。

 彼女が武器を構えると、その黒い入れ墨のようなものが怪しい光を放ち、自分の体を強化した。


「モンスターチルドレンの女王にあたしはなる!!」


「私の名は、ベルモスだああああああああああ!!」


『はあああああああああああああああああああ!!』


 両者が、お互いの急所を狙うために走り出した。この一瞬に自分のありったけを込めて。その一瞬に自分の思いも込めて。両者の武器がお互いに触れそうになった、その時。


「二人とも、そこまで!!」


 ピシャリと、ナオトがそう言い放った。

 両者はその言葉に応じ、その場で静止した。

 ナオトは背中からくさりを出したまま、二人の方に行くと。


「お前ら、俺が止めた理由が分かるか?」


 二人は顔を見合わせた後、同時に。


『さぁ?』


 首を傾げながら、そう言った。ナオトは溜め息をいて。


「なあ、お前ら。あのまま続けてたらどうなってたと思う?」


 その問いに、それぞれが答えた。


「どっちかが死んでたかもな」


「そうだね。まあ、それは君の方だけどね」


「ああん? 今のは聞き捨てならねえなー」


「私は事実を言ったまでだよ?」


「おいおい、調子に乗るなよ? ロリ悪魔」


「そっちこそ、調子に乗らないでほしいな。くさった死体」


「やんのか、こらぁ!」


「続きをするというのなら、いつでもいいよ?」


「上等だ、おらぁ!」


「来なよ。返り討ちにしてあげるからさ」


「ぶっ殺す!!」


「やってみなよ!!」


「……いい加減にしないと固有武装没収するぞ?」


 腕組みをしながら二人をにらみつけたナオトの言葉を聞くと、二人は大人おとなしくなった。


「わ、分かったから、そんな怖い顔するなよ。マスター」


「き、君も私と互角以上に渡り合える存在だからね。言うことは聞くさ。あ、あはははは」


 ナオトは、二人のひたいに手をきつねの形にしたものを近づけると、思いっきりデコピンをした。


『あいたっ!!』


【ヒ〇まつり】のように『あいたっ!!』と言うのを聞いて、ナオトはひたいを両手で抑えている二人の頭を優しく撫でながら。


「カオリ、俺はベルモスにトドメをせとは言ったが、殺せとは言っていないぞ?」


 カオリ(ゾンビ)はキョトンとした顔をしたが。


「それって、ル〇ィが『あいつは俺がぶっ飛ばす!』って言うのと同じ意味ってことか?」


「その通りだ。でも今回は俺の言い方が悪かったな。すまない」


「え? い、いや、あたしは久々に戦えたから、それで満足だ……それにマスターに一つ好きなことを頼められる権利も得たしな」


「ん? なんか言ったか?」


「な、なんでもねえよ! それよりベルモスにもなんか言うことがあるんじゃねえのか?」


「そう……だな。よし、じゃあ、ベルモス!」


「な、何かな?」


 ナオトはベルモスが少し目をらすほど、凝視ぎょうししていたが。


「……ベルモス。念のためにくが、お前は強いやつと戦いたくて、この火山に住んでるんだよな?」


「……そ、そうだよ」


「なら、殺し合いにまではならないはずだよな?」


「……うっ、そ、それは……」


「お前、本当に『怠惰たいだの姫君』なのか? どう見ても、そんな風には見えなかったぞ?」


「た、戦う時は勤勉きんべんになるんだよ」


「大罪と相反あいはんする『七つの美徳』の一つか。でも、それは単にお前の性格だろう?」


「う、うん、その通りだよ」


「そうか。つまり、自分の感情を制御できなかったってことだな?」


「……くやしいけど、君の言う通りだよ」


 ベルモスが少しうつむいて、そう言った直後、カオリ(ゾンビ)が俺に質問した。


「なあ、マスター。その姿でいられるのは三十分程度じゃなかったのか?」


「ん? ああ、それはくさりの力を使って戦い続けていたらの話だ。今回は、お前たち二人がドンパチしてたおかげで俺はこの形態を維持できたよ」


「なら、今回もやるのか? 封印」


「やらないと、お前の時みたいに倒れるかもしれないだろう?」


「そうだな。じゃあ、よろしく頼むぜ! マスター!」


「ああ、任せとけ」


 俺は、いまだにうつむいているベルモスにこう言った。


「自分の感情を制御できない悪い子には、お仕置きが必要だな」


 ベルモスは、その体勢のまま、こう答えた。


「当然だよ。君の家族をあんな風にしたのは私なんだから。この山頂から突き落とすなり、今すぐ私を殺すなり好きにしたらいいよ」


「そうか。なら、遠慮えんりょなく」


 ああ、このまま私は死んでしまうのか。もっと強いやつと戦いたかったな……。

 でも最期さいごにカオリという素晴らしい戦士に出会えて本当に……良かった。

 ベルモスが目を閉じて死を覚悟した、その時。


「『大罪の力を封印する鎖トリニティバインドチェイン』よ、このもの拘束こうそくせよ」


 ベルモスは、ナオトの背中から生えている十本のくさりによって顔から下をグルグル巻きにされ、あっという間にミノムシ状態になってしまった。

 ベルモスは突然そのようなことをされたため、ひどく動揺どうようした。


「えっ? えっ! これは、いったい!? く、くそ! 動けない!」


「俺ははなから、お前を殺すつもりはない。だが、その身に宿る大罪を封印させてもらう。いいな?」


「そ、そんな! まだ心の準備ができてな……」


「少女に宿りし大罪よ。そのまわしき力はそのものには必要ない。ゆえにその力はわれが引き継ぐ! さあ、大罪よ! 今すぐ、我が身に封印されるがいい!!」


 その直後、白き光が数秒間ベルモスを包み込んだ。大罪の力がナオトの体に封印された後、ベルモスは普通の姿に戻っていた。

 ベルモスはナオトのくさりから解放されると同時にナオトの足に抱きついて。


「ありがとう。君のおかげで私は……」


「今は礼を言うよりも、うちの家族に謝ってもらう方が先だな」


「そう……だね。でも、みんな死んだフリをしているよ? それでも私が悪いの?」


「先に仕掛けたのは、お前だろう?」


「……分かったよ。君の言うことは聞くさ」


「俺はナオトだ。君じゃない」


「……じゃあ、師匠ししょうだね」


「……ふん、好きにしろ」


「もしかして、照れてるの? かわいいね、師匠は」


「そ、そんなことはどうでもいいから、早く行け」


「はーい」


 ベルモスは死んだフリをしていたミノリ(吸血鬼)たちを起こすと、一人ずつ頭を下げて謝った。さて、そろそろこの形態を解くとしよう……か?

 その時、急に力が抜けて、ひざから倒れてしまった。

 やばい、意識が……遠のいていく。やっぱり一日に二回も力を使うのは、やばかった……か。

 俺が意識を失う前に感じたのは元の姿に戻る感覚と俺を心配して一斉に集まってきたミノリ(吸血鬼)たちの手の温もりであった。

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