〇〇は『深緑に染まりし火山』に行くそうです その1
昼ごはんを食べ終えた俺たちは、それぞれ自由に行動していた。(その日の昼のおかずは『からあげ』だった)
「封印時の効果発揮! 相手のスピリットに指定アタック!」
「マジック、フ○ーツチェンジ。そのスピリットと私の大天使サ○・ダルクのBPを入れ替えます」
「うわあ! あたしのエ○ゼシードがー!」
「マジックが豊富な黄デッキに敵うとでも思っていたのですか?」
「ま、まだよ! まだ、あたしのライフは残っているわ!」
「そうですか。では、続けましょう」
赤デッキ使いのミノリ(吸血鬼)と黄デッキ使いのコユリ(本物の天使)は、いつ買ったのかは分からないが、なぜか『バ○スピ』をしていた。
『遊○王』でも『デ○エマ』でもないとは……変わってるな。
まあ、人それぞれだから別にいいけどな……。俺はその後、他のメンバーに目を向けた。
「シ、シオリちゃん! 耳かきしてあげるから、こっちにおいで!」
「うーん、じゃあ、膝枕してくれるー?」
「もちろんいいよ! ほら、こっちにおいでー」
「……ゴロン」
マナミ(茶髪ショートの獣人)はシオリ(白髪ロングの獣人)に耳かきをやり始めた。
シオリは横になった時点で眠っていたが、マナミは特に気にせず、耳かきをしている。
なんか見てるだけで癒されるな……。さて、次に行こう。
「シズクさん! 私と遊びませんか?」
「うん、いいよー。何して遊ぶ?」
「それじゃあ、トントン相撲をしましょう!」
「うん、分かった」
「シズクさんって、トントン相撲やったことあるんですか?」
「うん、あるよ」
「そうですか! でも、負けませんよ!」
「私も負けない!」
そんな感じでツキネ(変身型スライム)とシズク(ドッペルゲンガー)は『トントン相撲』をやり始めた。
平和だな……。よし、次だ。
「お姉様! 私と遊びましょう!」
「うーん、今は無理かな」
「な、なぜですか!?」
「コハル。いくらかわいい妹の頼みでも、僕は実の妹を恋愛対象にはできないよ」
「私はまだ、何も言っていませんよ?」
「僕の眼の力を忘れたのかい? 相手の次の行動を先読みできるんだから、コハルが次にしそうな行動くらい分かるよ」
「わ、私は別にそんなこと……」
「はぁ……コハルはいつからこんな風になってしまったんだろうね。まったく困ったものだよ」
「そ、それでも、私は諦めません! 近い将来、絶対にお姉様と〇〇してみせます!」
「はぁ……なんだかコハルの将来が心配になってきたよ」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)はコハル(湖の主)に言い寄られていたが、きっぱり断っていた。
俺がその様子を見ていたことに気づいたミサキは俺に『ウインク』をした。
俺はその直後、目をパチクリさせた。さ、さあて、次に行くとしようかな。
「おい、誰だよ! ハートのエースを持ってるやつは! あたしが全然出せないじゃねえか!」
「おかしいですねー。私は均等に配りましたよ?」
「そうだよー。疑うのは良くないよー」
「ルル! お前は黙ってろ!」
「はーい」
「まったく、これだから妖精型モンスターチルドレンは」
「あのー、今それ関係ありますか?」
「なら、早くハートのエースを出してくれよ! じゃないと、あたしの番が来ないじゃねえか!」
「はいはい。では、お望み通り、ハートのエースを出してあげますよ」
「よおし! これでやっとあたしのターンだな! 暴れるぜー!」
口調が少々荒いのがカオリ(ゾンビ)。
そのカオリに、いじわるをしていたのがチエミ(体長十五センチほどの妖精)。
そして、カオリに「黙ってろ!」と言われたのがルル(白魔女)。
仲良くとは言えないが、おとなしく『七並べ』をしているから良しとしよう。
さて、次は誰かな?
「ねえ、そこの刀使……いえ、剣術使いさん。ちょっといい?」
「なんだ? 俺に何か……用か?」
「コホン……あなたはナオトとどういう関係なの?」
「お前に言う必要は……ない」
「なんですって?」
先ほどから途切れ途切れに発言しているのが、俺の高校時代の同級生『名取 一樹』。(前髪で両目を隠しているのは、人見知りだから)
もう片方は『黄竜』と『麒麟』と『陰』と『陽』の力が合わさって誕生した『カリン』。(金髪ツインテールと銀色の瞳が特徴)
二人とも『不死身稲荷大社』で出会った。
うーん、いつケンカが始まるか分からないからな。よし、一応、見守るとしよう。
先ほどから二人とも、なぜか立ったまま睨み合っている。座ればいいのに……。
「じゃあ、私と勝負して私が勝ったら、あんたは私にナオトとの関係を教える。あんたが勝ったら、私はあんたにナオトとの関係を教えるっていうのはどう?」
「……分かった。で? 勝負の……内容は?」
「勝負内容は……『腕相撲』よ!」
「……そうか。なら……早くかかってこい。パツキン、ロリッ娘」
「ふん! あまり舐めてると痛い目に遭うわよ!」
「望む……ところだ」
その時、二人が同時に俺の方を向いたので俺は二人の審判をしなければならないことを悟った。
「フライングするなよ? 二人とも」
「りょう……かい」
「分かったわ」
二人は、ちゃぶ台の上に右肘を置くと、お互いの右手を握った。
その直後、俺は二人の右手を両手で覆った。
「……それじゃあ、いくぞー。レディー……」
「絶対に……勝つ」
「それは、こっちのセリフよ!」
俺は最高のタイミングを待った。数秒間、その時が来るのを待った。
緊迫した空気が漂う中、ついにその時がやってきた。
「……ゴー!」
俺が両手を離すと、二人の両腕がいつも倍くらい膨れ上がった。
____俺は三十秒ほど経ってもほとんど変動しない両者の勝負を見るのに飽きてしまったため、寝室へと向かった。
「さて、例の狐の巫女はどこかな……って、あれ? いないぞ」
俺が布団をめくると蛻の殻だった。
俺があたりを見渡そうとすると襖が閉まる音がした。
俺は急いでその場から離れようとしたが、もう遅かった。何者かに押し倒されていたからだ。
仰向けで横になった俺は馬乗りになっている『狐の巫女』の顔を見た。
「……えーっと、とりあえず、どいてくれないか? 何か不満があるなら聞くけど」
「なら、妾と……」
「妾と?」
「妾と一緒に寝てもらえないだろうか」
「……なあんだ、そんなことか。いいぞ、お前が寝るまで横にいてや……」
「……カプッ!」
「……えっ?」
そいつは俺の首筋に噛み付くと、自分の唾液を俺の体の中に入れ始めた。
「ちょ……ちょっと待ってくれ! まだ、心の準備ができてないんだ!」
あれ? 体に力が入らない。それどころか、どんどん力が抜けていく。
「ぷはっ! よし、これで完成じゃ!」
その子は自分の唾液を俺の体の中に入れるのをやめると女の子座りで座った。
その直後、彼女は自分の口元に付着している唾液を手で拭いた。
「何を……した!」
その子は、ニヤリと笑うと俺に顔を近づけた。
「お主の体は、もうすぐ妾の物じゃ。なぜなら、妾の唾液には相手を魅了する効果があるからじゃ。まあ、あと数分で妾の僕となるお主には、不要な情報だったやもしれんな」
「おい、冗談……だよな? だって、俺はまだお前の名前を……考えてないんだぞ! というか、俺を……どうする……つもりなんだ?」
「ふうむ、どうしてくれようかのう。お主と交わるのもいいが……キスというものをしてみようかのう」
「後悔……するぞ」
「ほう、そうか、そうか。それでは、早速いただきま」
その時、襖が勢いよく外から蹴り倒された。『狐の巫女』は何事かと、そちらを見ながら立ち上がった。
「誰じゃ! 妾の邪魔をするのは!」
そこに現れたのは先ほどまで遊んでいたはずのミノリ(吸血鬼)たちであった。
「ねえ、あんた……。そこでいったい何をしているの?」
「ひ……ひぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ミノリ(吸血鬼)が怒りに満ち溢れた顔でそう言うと、『狐の巫女』は尻もちをついた。
モンスターチルドレンは自分の周囲にいる人間の心の声が聞こえる。
ナオトは絶体絶命の状況の中、それを奇跡的に思い出した。
そのため、ミノリ(吸血鬼)たちに自分の危機を知らせることができたのである。(一個体に伝えることも可能)
ついでに名取もいた。
彼は名刀【銀狼】を引き抜こうとしていた。
しかし、今はその時ではないと察したのか、その刀を鞘から引き抜いていなかった。
「わ、妾は悪くない! 悪いのは、こやつじゃ! すでに複数のモンスターチルドレンと契約しているこやつは信用ならん! 妾と同じモンスターチルドレンであるお主らはおかしいと思わぬのか!」
「あのね、そんなことはどうでもいいのよ! 大事なのは自分が一番だって思うことでしょ!」
「ならば、独占すればいい話じゃ!」
「違う! そんなの全然違う!」
「いったい何が気に入らぬのじゃ!」
「そんなの言わなくても分かるでしょ!」
「な、なんじゃと!」
ミノリと『狐の巫女』の言い争いが続いている間、俺は『狐の巫女』の名前を何にするか考えていた。
ゴールデンサファイアのような目。
ハチミツをかけたかのような長い金髪。
ヒコヒコと動くかわいらしい『ケモ耳』。
ブンブンと上下に動く髪と同じ色の尻尾。
彼女の可愛さを赤と白で表現している巫女装束。
これらの情報から名前を考えるとなると正直、結構難しい。
うーん、いったいどんな名前なら……って、そういえば『キミコ』と『チロコ』っていう候補があったな。
よし、どっちがいいか本人に訊いてみよう。
「おい……二人とも……ケンカは……やめろ」
ミノリ(吸血鬼)はこちらに近づいてくると、俺の声を聞くために顔を近づけた。
「ナオト、大丈夫? もしかして、あのビッチに何かされたの?」
「聞こえておるぞ! アホ吸血鬼!」
ミノリは、一瞬だけ声の主の方を見た。
「うるさい! あんたはあっちに行きなさい!」
「……いや、むしろ、あいつを……呼んでくれないか?」
「どうして? あいつはあんたに酷いことをしたのよ? あんたはそれを見逃すの?」
「どうせ、こんなのはツキネの固有魔法で……すぐに治る。だから……頼む」
「……分かった。今、呼ぶから少し待ってて」
「もう来ておるぞ」
彼女は、いつのまにかミノリの隣にいた。
「なっ! あ、あんた! 何かいうことがあるんじゃないの!」
「今はそれよりも、お主の主の願いを叶えてやることが先決じゃろう? ほれ邪魔をするな。しっしっ」
「……またナオトに何かしたら、ただじゃ済まないからね!」
「妾は同じ失敗を繰り返すほど、愚かではないわ。ほれ、さっさと席を外せ」
「そ、そうね。えっと、じゃあ、何かあったらまた呼んでね?」
「……ああ、その時はよろしく頼む」
「ええ、分かったわ。さあ、みんな! 二人っきりで話があるらしいから、あたしたちは退散するわよ!」
その直後、ミノリ(吸血鬼)はツキネに固有魔法で襖を修理するよう指示した。
その後、彼女らは襖を元の位置に戻した。
「くれぐれも無茶だけはしないでよね」
ミノリはそれだけ言うと襖をトンと優しく閉めた。
まったく、あいつには助けられてばかりだな。さて。
「なあ、そろそろ……元に戻して……くれないか? 力が入らないと……会話にも……ならないから」
「妾の唾液に相手を魅了する効果があるというのは嘘じゃが、少しの間、体を自由に動かせなくなるのは事実じゃ。しかし、それも、もう終わるはずじゃ。もう少し辛抱せい」
すると、彼女の言うとおり、俺の体は徐々に動くようになってきた。
完全に体を自由に動かせるようになった俺はゆっくりと起き上がった。
「なあ、『キミコ』と『チロコ』。お前は、どっちがいい?」
「ん? 何の話じゃ?」
「お前の名前の候補だ。好きな方を選んでくれて構わない」
「ふむ。まあ、断然『キミコ』じゃな。して、【漢字】で書くと、どんな【感じ】なのじゃ?」
「……寒っ!」
「今のを即座に洒落だと見向くとは、なかなか見どころがあるやつじゃのう。お主は」
「そりゃどうも。えーっと『輝く』という字に果実の方の『実」。そして、子どもの『子』で『輝実子』だ」
「……うむ、妾から今もなお溢れ出ている神々しさを見事に表現した、すばらしい名じゃ!」
「それは良かった……えーっと、神社でも言ったと思うけど、俺は『本田 直人』だ。ナオトでも、ご主人でも、好きな呼び方で呼んでくれ」
「うむ! では、これからよろしく頼むぞ! 主!」
『キミコ』は満面の笑みを浮かべながら、俺に右手を差し出した。
「ああ、これからよろしくな。キミコ」
俺は微笑みを浮かべながら『キミコ』と握手をした。
その直後、キミコは嬉しそうに俺を押し倒すと、俺の胸に顔を埋めた。
俺はこのあと、キミコの気が済むまで頭を撫で続けた。