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〇〇は『家族会議』をするそうです その6

 ____『家族会議』が終わった頃、少女は逃げていた。ボロボロの服とボサボサの黒髪ロングが特徴的な少女は茶色い紙袋に入ったリンゴを抱えながら、走っていた。

 少女はひたすら走ったが、ついに逃げ場がなくなった。(彼女は裸足はだしである)


「そろそろ鬼ごっこは終わりにしようか」


「へっへっへっへっへ。もう逃げられないぜ」


「覚悟はできているんだろうな? おじょうちゃん」


 少女は体をガタガタと震わせながらその場に座り込んだ。

 このまま何もしなければ私の人生は終わってしまう。

 でも、今の私には何の力もないし、私にできることなんて何もない。

 少女があきらめかけた、その時。


「神も天使も魔王も悪魔も俺たちを救おうとはしない。けど、そんな俺たちでもおのれの内に眠る力を解放し、人生という名の困難に立ち向かうことはできる」


「だ、誰だ!」


「姿を現せ!」


「出てこい!」


 三人がいくら探しても声の主は見つからなかった。しかし。


「お前らがさっきから探しているやつは天から力を授かっているから、攻撃しない方がいいぞ?」


 その時、少女の目の前に()()()はこの地に降臨した。


「いやー、この世界にいきなり飛ばされた時は夢かと思ったけど、空気も太陽の光も大地も俺がいた世界のものと同等……いや、それ以上にすばらしいな」


 彼は黒い短パンのポケットに両手を突っ込んだまま、そんなことを言った。

 白い半袖Tシャツと黒い短パンと黒いスニーカーを身にまとったそいつはなぜか目を閉じていた。ちょうどいい長さの白髪が特徴的なその男は、ゆっくりと目を開けながら、三人がいる方を向いた。


「今日はいい天気ですね。でも、そんな日にこんな幼い少女を相手に暴力を振るうやつらを見逃すわけにはいかないなー」


 三人はアイコンタクトをすると、一斉に襲いかかった。


「『悪魔の鉤爪(デビルクロー)』!!」


「『悪魔の邪拳(デビルパンチ)』!!」


「『悪魔の鋭刃(デビルエッジ)』!!」


 三人がほぼ同時に、彼に殺意を向けたのを目の当たりにした少女は彼にこう言った。


「お兄さん! 早く逃げて! あの三人の悪魔の力には勝てな……」


 彼は少女の顔を見ると、優しく頭を撫でながらこう言った。


本田ほんだ 直人なおとという最高の先導者リーダーと個性豊かな仲間たちと共に『獄立ごくりつ 地獄高校』という地獄を生き延びた俺たちはどんな世界のどんなやつにだって負ける気はしないし、負けるわけにはいかない。だから、少しの間、大人しくしててくれ」


「……うん、分かった。でも、無茶はしないでね?」


 彼にそう言った彼女はとても不安そうな顔で彼を見つめていた。

 その直後、彼はその子の目から涙があふれそうになっているのに気づいた。


「なあに。ちょっと軽い運動をするだけだから、死にゃしねえよ」


「うん、分かった。私、ここで待ってる」


 彼女は涙をいた後、満面の笑みを浮かべながら、そう言った。


「それじゃあ、行きますか!」


 彼は三歩前に出ると、拳を構えた。

 その後、紫色のオーラを両手にまとった三人が自分の方に走って来るのを見るなり、彼はニシッと笑った。


われは天に愛された存在なり。ゆえに悪を抹消まっしょうし、悪を殺す。こぶしに宿るは金光。それは全てを包み込むと同時に浄化し、そのかがやきで他者を圧倒する。さぁ、時は満ちた。今こそ、その輝きで目の前の悪を抹殺してみせよう!」


「ごちゃごちゃうるせえよ!」


「お前は今日ここで!」


「俺たちに殺される運命なんだよ!」


「さぁて、それはどうかな?」


 彼のこぶしに少しずつ金色の光が集まっていたのを彼らは見落としていた。


布田式ぬのだしき抹殺術まっさつじゅつ……いちの型一番『瞬間天撃(しゅんかんてんげき)』!!」


 彼らに放たれた一撃は彼らの技を抹消すると、彼らをはる彼方かなたに吹き飛ばしてしまった。


「一丁上がり!」


 そいつは右拳を左手のてのひらにバシッと当てると、ニシッと笑った。


「お兄さんって、とっても強いんだね!」


 その一部始終を見ていた少女は笑顔でそう言った。彼は少女の方を向くと、こう言った。


「よかった。やっと笑ってくれた。うんうん、やっぱり女の子の笑顔はいつでも男の心をいやしてくれる最高のご褒美ほうびだな。でも、これからは強く生きていくんだぞ?」


 少女は袋からリンゴを一つ取り出して、彼に手渡した。


「あ、あの、これ、助けてくれたお礼です! 私は貧乏なので、こんな物しかあげられませんが」


 彼は少女の頭を撫でながら、こう言った。


「俺は君の笑顔で満腹だけど、ありがたく受け取っておくよ」


「はい! ありがとうございます!」


「それじゃ、俺はもう行くから」


「ま、待ってください! せめてお名前を!」


「俺の名前か? そういえば、言ってなかったな。俺は『布田ぬのだ 政宗まさむね』。最強を目指す男だ! で? 君は?」


「あっ、はい! えっと、リルです」


「えっと、苗字みょうじはないのか?」


「あー、その……私の苗字みょうじはちょっと変わっているので言いたくありません」


「まあまあ、そんなこと言わずに……な?」


「……えっと、じゃあ、言います」


 リルは咳払せきばらいをした。


「私はリル。リル・アルテミスです……って、やっぱりおかしいですよね……神様の名前が苗字みょうじだなんて」


 その時、マサムネは大声でこう言った。


「そんなことはない!」


 マサムネは少しビックリしてピョンと数センチ上に飛び上がってしまったリルの両肩に手を置いた。(リンゴを元の袋に入れた後にそれをやった)


「君は人でありながら神の名を授かったんだから、もっとほこりに思え!」


「でも、私には、そんなことできません……」


「いいか? 君はそのうち、すごい人物になる! これは俺のかんなんかじゃない! 天からのお告げだ! それに俺は君と出会った時から、君の中には何か俺に似たものがあると思っていたから間違いない!」


「は、はあ、そうですか」


「よし! じゃあ、まずは!」


「まずは?」


「……ここがどこなのかということを調べなければならないな!」


「えっ?」


 リルは思った。この人は少し変わった人だなと。

 その直後、彼女はこの人が私を助けたのは、ただの気まぐれなのではないか? と思った。

 それと同時に、この人はきっと今までこんな感じで生きてきたんだろうな……と思った。


「えっと、ここは『はじまりのまち』です。主に冒険者さんたちが、このまちで装備をそろえたりします。お兄さんは最近このまちに来た人ですか?」


 マサムネはリルの両肩から手を離した。


「ああ、そうだ。でも、このまちは広いし、人も多いから出口がどこにあるのかも分からないんだよ」


「それなら、私が案内しましょうか?」


「え? いいのか?」


「はい、助けてもらったお礼です」


「うーん、けど、その格好かっこうだと目立つよな」


「……ですよね」


 その時、彼はパチンと指を鳴らした。


「よし! それならこうしよう!」


「どうするのですか?」


「それはな……」


 マサムネはリルの耳元でごにょごにょと自分の考えを伝えた。


「いいですね! それなら、お金をかせぐことができます!」


「だろだろ! しかも、俺の実力を世に知らしめることができるんだ! そう、これはまさに……!」


『一石二鳥!!』


 マサムネとリルは大声で笑いながらその場を離れると、作戦を実行することにした。


 *


 マサムネとリルが実行した作戦。それは、これだ。ワン、ツー、スリー。


「さあさあ! 寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 世にも不思議なショーが始まるよ!」


「みなさーん! 今から、このお兄さんがすごいことをやりますよー! 見ないと損ですよー!」


 人々は、それを聞くと興味本位で集まってきた。


「よしよし、計画通り!」


「ですね!」


「でも、ここからが本番だ。準備はいいな?」


「はい! いつでも大丈夫です!」


 小声で話し合った後、マサムネは五メートルほどの丸太を、リルはそのへんにあった木の枝を持ってきた。


「ここに丸太と木の枝があります! これから、この二つをぶつけたいと思いますが、みなさんはどちらがくだると思いますか?」


「私たち二人は丸太が砕け散る方にけますが、みなさんはどちらにけますか?」


 人々は口々に木の枝が砕け散ると言っている。

 まあ、明らかに太さも耐久度も違うのだから、どちらが砕け散るのかは、すぐに分かる。

 しかし、二人はそうは思わなかった。


「それでは試してみましょう! 確認ですが、みなさんは木の枝が砕け散る方にけるんですね?」


「当たり前だー!」


「バカにするなー!」


「では、俺たち二人とみなさんのどちらが勝つか試してみましょう!」


 その時、観客たちは気づいていなかった。

 彼が二つをぶつける前に丸太を軽くなぐっていたことに。


「みなさーん! 負けたら、一人につき金貨一枚支払ってもらいますから、覚悟してくださいねー! それでは十秒前!」


 ※つまり、千円。


 観客たちが十からカウントし始めると、マサムネは丸太を振り上げた。


『三・二・一!』


「おりゃー!」


 丸太が木の枝に触れた瞬間、木の枝が砕け散……らず丸太が砕け散った。


『……えええええええええええええええええ!!』


 人々は口々に驚嘆きょうたんの声をあげた。

 だって、自分たちが予想していたものと別の結果になったのだから……。

 人々はくやしがりながらも一人、金貨一枚を(リンゴが入っていた物とは別の)茶色い紙袋に入れていった。


「これにて不思議なショーは終了です! またのお越しをお待ちしております!」


「みなさん、また来てくださいねー!」


 ……ざっと数えても、五十枚はあった金貨を見た二人はハイタッチをした。


「やったな! リル!」


「やりましたね! お兄さん!」


「いやー、こうもうまくいくとは思わなかったよー」


「ホントですねー」


「布田式抹殺術……いちの型二番『天恵抹消てんけいまっしょう』が役に立ったな」


「でも、もし成功していなかったら私は今頃、丸太に押しつぶされていましたけどね」


「いや、その時は俺がなんとかするから、大丈夫だ!」


「あははは、なんとかするって、お兄さんは本当に面白い人ですね」


「……さてと、それじゃあ、さっそく!」


「服や道具をそろえて!」


『いざ! 冒険の旅へ!!』


 右拳を天に向かって振り上げた二人の顔からは喜びとこれからの未来に向かって歩き始めるものの風格が感じられた。

 マサムネとリル。『ハ○メイとミ○チ』以上の良き関係になれるかは分からないが、二人が行く先にあるのは、まだ見ぬものばかりであろう。

 しかし、きっと乗り越えていける。だって、二人は、とある理由で記憶を消され、離ればなれになっていた……。

 ん? お前は誰だ? ですって? えー、私はマサムネ様にお仕えする予定の妖精型モンスターチルドレンの製造番号(ナンバー) 十一……イレブンです!

 私がお二人と出会うのは、もう少し先ですがその時はこんな妖精がいたな……と思ってくださいね?


 *


 その頃、ナオトたちは『深緑に染まりし火山』に行くために進路を決めていた。しかし、それは一瞬で決まった。


「行くなら最短の真っ直ぐ!」


 ミノリ(吸血鬼)が自信満々にそう言ったからだ。その場にいたものたちは反論すればややこしいことになると分かっていたため、反論しなかった。

 こうして、ナオトたちは『深緑に染まりし火山』に向けて出発したのであった。

 注:ナオトたちの住んでいるアパートはミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の甲羅こうらの中心と合体しているため、目的地に着くまではひまである。

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