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〇〇は『家族会議』をするそうです その4

「アニキ。あのおっさん、夜逃げでもしたんじゃないんすかね」


「いいや、そんなことはないさ。店の外に営業中の看板が置いてあるということは、あの中にやつがいると見て間違いないだろう」


「なるほど! さすがです! アニキ!」


「ふん、それほどでもな……」


「誰か出てきましたぜ。アニキ」


「……ふん、女か。だが、なかなかの美人だな。よし、あいつを殺さない程度にいためつけろ」


「アニキは美人に弱いですねぇ」


「ごちゃごちゃ言ってないで、お前も早く行け」


「へい! アニキ!」


 あの女から妙な気配を感じるが、おそらく気のせいだろう。


「五十人程度ですか。こんな小さな店にこれだけの人数が集まるなんて……。借金でもあるんですかね?」


 ヒヨリが独り言を言うと、黒いローブを着たチンピラ集団の一人がやってきた。


「そこの女! 今すぐ、そこをどけ! さもないと、ここにいる全員でお前を……」


「じゃあ、血祭り(パーティー)を始めようか!!」


 ヒヨリがそう言った直後、ヒヨリの髪とひとみの色が真っ赤な血の色に染まった。

 彼女のその顔からは先ほどまでの大人おとなしそうな雰囲気は一切いっさい感じられなかった。

 その笑みから感じられたのは戦いを……いや、人を痛めつけるのを楽しんでいるというものだけだった。


「坂井式撲殺術(ぼくさつじゅつ)……いちの型一番『大地鳴動拳だいちめいどうけん』!!」


 彼女のこぶしが地面にドンッと打ち込まれると同時に地面がグラグラとれ始めた。


「おっとっと……どうした! どうした! こんなんじゃ、俺たちは倒せねえぞ!」


「お前たちは、もう大地のいかりからのがれることはできない……」


「はあ? お前はいったい何を言って……」


 その時、大地から無数のこぶしが出現し、チンピラたちをおそった。(まちの人たちは自分たちがいる場所がまったく揺れていなかったため物陰ものかげから、その様子を見ていた)


「うわあ!」


「どうわっ!」


「ぐあっ!」


「ひえー!」


 チンピラたちは、そんな声を出しながら、一人、また一人と倒されていく。


「アニキ! ここは、一旦いったん戻りましょう! あいつは戦闘狂せんとうきょうです!」


「ふん、なかなか面白いではないか……お前以外を撤退てったいさせろとみなに伝えろ。今すぐにだ」


「えっ? あっ、はい! お前ら! 撤退てったいだ! 戻れ! 戻れー!」


 その場に残ったのは彼女を含めて、たった三人だけだった。


「アニキ、大丈夫ですか? あいつ、無茶苦茶強いですよ?」


「いや、ここは一対一の方がやりやすい。お前は下がっていろ」


「へい、アニキのおおせのままに」


 かなりの大男が、ヒヨリの前に立ちはだかる。


「俺と勝負で勝ったら、この店には二度と来ないと約束しよう! その代わり、お前が負けたら、お前は俺の女になれ。それでいいな?」


 ヒヨリはニヤリと笑いながら、首を縦に振った。


「よし、それじゃあルールを説明するぞ。今からやるのは【なぐり合い】だ。これは普通、先攻と後攻を決めてから始めるが、今回は手短にすませるために俺が先攻、お前が後攻とする。ただし、自分のターンで相手を殴れるのは一発だけだ。それ以上やろうとしたら、その時点でそいつの負けになる。そして、先に倒れた方も負けになる……。以上だ! 何か質問はないか?」


 ヒヨリは親指を立てて返事をした。


「よし、では行くぞ!」


 大男はこぶしかまえると、数秒間、静止した。そして。


「おらああああああああああああああああああ!!」


 ヒヨリのひたいを大きなこぶしで殴った。


「どうだ? 少しはいただろう? ん? でもどうして倒れないんだ?」


 大男が手をどけると、ニヤリと笑っているヒヨリの顔があった。


「そ、そんな! 岩をもくだく俺のこぶしをくらって、立っていられるわけがな……」


 ヒヨリは大男が最後まで言い終わる前にこぶしかまえた。


「坂井式撲殺術(ぼくさつじゅつ)……いちの型二番『大地の叫び』!!」


 大男に向けて放たれたその一撃いちげきは、大男の腹部に直撃。

 その後、彼はそのままはる彼方かなたへと飛ばされてしまった。


『アニキー! 待ってくださーい!』


 撤退てったい中だったチンピラたちは大男を追って、どこかに行ってしまった。

 まちの人たちは、歓喜かんきの声を上げながら、ヒヨリに感謝の言葉を告げようとした。しかし。


血祭り(パーティー)は……終わり」


 ヒヨリはそう言うと、すぐに少女とおじさんが待っている店の中に入ってしまった。

 まちの人たちは、とても残念そうだったがあきらめて自分たちの日常に戻った。

 この力こそが彼女の秘密。彼女は眼鏡を外すと、恐ろしく強くなってしまうのだ。


「ありがとう。眼鏡めがねを返してくれる?」


 少女はキョトンとした顔で、こう言った。


「どうして、お礼を言うの? 私はただ、眼鏡を預かってただけだよ?」


 ヒヨリは少女からそれを受け取り、ゆっくり装着すると、こう言った。(それと同時に髪と目の色が元に戻った)


「えっと、それはその……ちゃんと約束を守ってくれたから、そのお礼かな?」


「そっか。でも、お姉さんってすっごく強いんだね!」


 ウサギのようにピョンピョンねる少女は、とても愛らしかった。

 その直後、ヒヨリはおじさんの気配を察知した。


「それで? あの人たちは何なんですか? 借金取りですか?」


「違う。ここは、繁盛はんじょうしている方だ。金銭面では問題ない」


「では、何があったのですか?」


「……最近までウワサになっていた『あるもの』に手を出しそうになったからさ」


「『あるもの』……。それはいったい何ですか?」


「モンスターになれる薬だ」


「モンスターになれる?」


「ああ、そうさ。この世界にはモンスターチルドレンっていう見た目は子どもだが、戦闘力がモンスター並みの少女たちがたくさんいる。それの応用でな、普通の人間でもモンスターの力を手に入れられる薬があるかもしれないっていうウワサがあったのさ」


「あなたは、それを手に入れようとしたが、怖くなって、あの人たちの前から姿を消したということですか?」


「姉ちゃんは察しがいいね。まあ、そういうことだ。今回は危ないところを助けてもらったから、お代はなしだ。その代わり、また来いよ」


「はい、短い間でしたがお世話になりました。それでは失礼しま……」


「ちょっと待って! いいものあげるから!」


 少女は店の奥に急いで向かうと《何か》を持って、ヒヨリのところに戻ってきた。

 少女は彼女に【赤いスカーフ】を差し出した。


「えーっと、これは?」


「おまけよ! 強さと美しさをそなえた、お姉さんにぴったりだと思ったから!」


 ヒヨリは静かに笑みを浮かべながら、こう言った。


「……ありがとう」


 ヒヨリは【赤いスカーフ】を首に巻いた。


「どう……かな?」


 少女は親指を立てると同時に満面の笑みを浮かべながら、こう言った。


「バッチリよ! よく似合ってるわ! じゃあ、これから頑張ってね! あー、えーっと……」


「私の名前は坂井さかい 陽代里ひより。今度会った時はヒヨリって呼んでね?」


 少女は目を輝かせながら、自分の手を胸に当てた。


「私はマリア! マリア・ドルフィンよ!」


「かわいい名前だね」


「ありがとう! あっ、ちなみにお父さんは……」


 おじさんは両腕をむねの前で組みながら、こう言った。


「マーカス・ドルフィンだ。よろしくな」


「はい、よろしくお願いします」


「それで? これからどうするんだ?」


「えっ?」


「この世界では今のところ戦争は起きていないが何かと物騒ぶっそうだ。これから先、衣食住だけじゃなくて自分の身の安全を確保するのも難しい。だから」


「どこかに就職しゅうしょくした方がいいと?」


「まあ、そういうことだ。けど、まあ、このまちも一度、モンスターチルドレンに襲撃しゅうげきされたから安全とは言えないがな……」


「モンスターチルドレン……。ひょっとして、まどの外から、こっちを見ているアレですか?」


「ああ、そうそうあいつみたいな……って、待て待て待て! なんでこんなところにいるんだよ! 聞いてないぞ!」


「見たところ私に用があるようですが、どうしましょうか?」


 マーカスさんは慌てふためいていた。


「妖精さんだ! かわいい! ねえ、早く入れてあげてよ!」


 しかし、マリアは嬉しそうにヒヨリの方を見つめていた。

 ヒヨリは仕方なく彼女の望みを叶えることにした。


「分かった……。そこの妖精さん、こっちにおいで」


 ヒヨリが窓に向かって、そう言うと。


「それじゃあ、遠慮えんりょなく」


 その妖精はそう言うと、一瞬で入店した。

 体長は十五センチほどであおい髪はショートヘア。

 あおひとみは海を連想させる。

 服はあおい葉っぱでできていて、背中には天使のつばさが四枚生えている。

 その妖精はヒヨリの頭の上に女の子座りで座ると、一同が驚きのあまり静止している中、自己紹介を始めた。


「私は妖精型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 四の『よっちゃん』です! よろしくお願いします!」


 よっちゃんは満面の笑みを浮かべながらベシッと敬礼をした。


「それでは目的地まで案内します。ですが、お二人ふたりとは、ここでお別れです。それでは行きましょう」


 その時、一同はやっと我に返った。


「えっ? マスターって、私のこと?」


「妖精型モンスターチルドレン? なんだそれは?」


「本物の妖精さんだ! 今日は、ついてるわね!」


 よっちゃんは店の外までヒヨリの手を引いた。


「ほら! 早く行きますよ! マスター!」


「ま、待って! どこに行くの?」


「行けば分かります!」


「えーっと、どれくらいかかるの?」


「かなり時間がかかると思います」


「なら、色々準備しないといけないよ?」


「大丈夫です! 全て私に任せて下さい! マスターはじっとしてるだけでいいんです!」


「今の発言は勘違いされるし答えになってないよ!」


「いいから、いいから。私についてきてください!」


「えっ、でも、お二人にお礼を……」


 その時、マリアとマーカスさんが店の外に出てきた。


「まあ、頑張れよ。姉ちゃん」


「いってらっしゃい! さびしくなったら、いつでも帰って来ていいわよ!」


「お二人共……ありがとうございます! このご恩は一生忘れません! では、いってきます!」


「出発進行!」


 よっちゃんはそう言うと、ヒヨリの手を引いたまま大空へと飛び立った。


「またいつか会いましょうねー! マリアー! マーカスさーん!」


 ヒヨリはマリアからもらった【赤いスカーフ】……いや【真赤まっかなスカーフ】を振りながら、二人に向かってそう言った。(ヒヨリは、触れた相手の重さの倍の体重にも、半分の体重にもなれる。今回は、よっちゃんの体重の半分の体重である)


「じゃあねー! ヒヨリお姉さーん! また遊びにきてねー!」


 マリアは手を振りながら満面の笑みを浮かべながら、ヒヨリを見送った。


「達者でなー! 風邪かぜひくなよー!」


 マーカスさんも手を振りながらヒヨリを見送った。


「はーい! お二人共ー! お元気でー!」


 ヒヨリがそう言い終わると同時に妖精は、一気に加速した。

 おそらく『はじまりのまち』を早く出ようと、考えたのであろう。


「あのがふっていた……真赤まっかなスカーフ……」


「お父さん、それって何の歌?」


「必ず帰るから待っててくれよっていう昔の歌さ」


「ふーん、そうなんだ。あー、また来ないかなー。今度はもっと可愛い服を着させたいなー」


「まあ、そのうちひょっこり帰って来るかもな」


「そうだね……。さあ、お仕事! お仕事!」


「あまり無茶をするなよ?」


「はーい!」


 トタトタと店の中に入っていったマリアの後ろ姿からは七割のやる気と三割のさびしさが感じられた。


 *


「ナオト、あたしたちの中で誰が一番好き?」


『家族会議』が再開されて早々、ミノリ(吸血鬼)がそんなことを言った。


「はぁ? いきなりどうしたんだ? 言っておくが、今週のしゃくは残り少ないぞ?」


「そんなことはどうにでもなるからいいの! で? あんたは誰が一番好きなの?」


「だから、俺はみんなのことが好きだって言ってるだろう? 何がいけないんだ?」


「……あのね、それじゃあ全員に魅力みりょくがないって言ってるものなのよ? 自覚ある?」


「……すみませんでした。真面目に考えます」


「じゃあ、次回までに考えておいてね? 絶対よ?」


「あ、ああ、分かった。約束する」


「よろしい! じゃあ、一旦いったん解散!」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、その場にいた全員が一斉に好きなことをやり始めた。

 なるほど、この会議の本当の目的は俺の本命が誰なのかを知るためなんだな。

 まあ、いつかは決めないといけないから、次回でスパッと決めるとしよう……。

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