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〇〇は『家族会議』をするそうです その2

 ____しばらくして、俺はコユリにこんな質問をした。(俺とコユリは、まだ抱きしめ合っている)


「なあ、コユリ。お前、俺と話している途中から、涙目になっていたのに気づいてなかったのか?」


「そんなの分かりませんよ。私は自分の顔を見るのが怖くて今まで一度しか自分の顔を見たことがありませんから……」


「どうしてだ? こんなに可愛い顔をしているのに」


「うまく表情を作れない顔なんて……私は……」


「別にうまく表情を作ろうとしなくていいんだよ。というか、俺は今のお前の顔も好きだぞ?」


「……そうですか。なら、私の初めてをもらってくれますか?」


「と、唐突とうとつだな。いったいどうしたんだ?」


「私たちモンスターチルドレンは一人のマスターと結婚して、性行為をして、複数の子どもを産むと、一年以内に死にます。ですが、マスターは複数のモンスターチルドレンと契約している唯一ゆいいつの存在です。ですから、その……」


「つまり、俺がお前たちの中の誰と結婚して、そういうことをするのかが気になるんだな」


「は、はい」


 結婚か……。俺もそろそろ……って、遅いくらいだよな。

 まあ、あれだな。ミノリ(吸血鬼)たちの中から誰か一人を選ばないといけないというわけではないんだよな。

 うーん、でもそうなると重婚することになるし、平等に愛するのは難しいよな……。

 俺は今の自分の考えをコユリに説明し始めた。


「俺は、今のところ誰とも結婚する気はないよ」


「そ、そうですか」


「今のところは……な」


「なら、私としてください。今すぐに!」


「それはできない」


「どうしてですか?」


 俺が即答したわけは、これだ。ワン! ツー! スリー!!


「それにはな、絶対にお袋の許可がいるんだよ」


「そ、そうなのですか?」


「ああ、そうだ。ムスコンのお袋は俺が高校に入学する前に、とある呪いをかけた」


「それは、どんな呪いですか?」


「俺に無理やり性行為をするやつがいたら、男女問わず、お袋がやってきて【邪眼じゃがん】の力でそいつを殺すという呪いだ」


「……どの程度のムスコンなのですか? マスターのお母様は」


「あまり話したくはないが……コユリには言っておくよ」


「なぜ、私だけなのですか?」


「お前が一番、俺をおそいそうだからだ」


「失礼ですね! と言いたいところですが、マスターをおそいたいという感情は少なからずあるので否定できません」


「まあ、自覚しているのなら、まだマシな方だ」


「……そうですか」


「えーっと、お袋がムスコンな件について……だったか?」


「はい、そうです」


「そう……あれは俺が高校に入学するまでの間にあった出来事だった」


 俺とコユリは抱きしめ合うのをやめると、コユリは正座で俺はあぐらをかいて座った。

 その後、俺はゆっくりとお袋のことについて語り始めた。


 *


 俺のお袋『本田 あゆみ』は『第三次世界大戦』またの名を『地獄へ誘う三十分戦争カタストロフィ・ウォー』の生き残りの一人だ。(三人いるうちの)

 どれだけ強かったのかは教えてくれなかったが戦争が終わった後、力を使った代償として、見ただけで俺以外の生命体を即死させる【邪眼じゃがん】に変えられてしまったらしい。

 まあ、そんなことはどうでもいい。問題はここからだ。うちのお袋がどれだけムスコンなのかを教えよう。

 俺の親父おやじも、その戦争に参加していた。けど、俺が誕生した(俺は戦争が終わった後、すぐに産まれた)数年後に遠くに行ってしまった。

 そのあと、お袋は俺を一人で育て始めた。(身長は『百三十センチ』。小学四年生から成長していないそうだ)

 最初の頃は親父おやじがいなくなったショックで育児に専念できなかったそうだ。

 けど、俺が「お母さん、僕はいなくならないから安心して」と言った日から急変したらしい。

 俺に害をなすものを徹底的に排除し始めたということを知った時は、さすがに驚いたよ。

 なにせ、動物、植物、虫、さらには人間まで排除しようとしたんだから……。

 当時は俺に危害を加えた瞬間、そいつの一生はお袋によって終わりを迎えることになるって恐れられていたそうだ。

 俺の住んでいたところは、かなり田舎いなかだったけど、俺が「お母さん、そんなに心配しなくてもいいよ」と言わなければ、そこに生息している生命体を全て殺していたかもしれないな。

 まあ、ここまではなんとかなった。けど、本当に恐ろしいのは、ここからだ。

 朝起きると抱き枕にされていたり、食事を全て口移しで食べさせようとしたり、一緒に学校に行こうとしたり、一緒にトイレに行こうとしたり、一緒に風呂に入ろうとしたり……おはよう、いってきます、ただいま、おやすみのキスをしようとしたり……。

 極め付けは高校入学を明日にひかえた俺の部屋に忍び込んで(もちろん夜に)俺の純潔じゅんけつうばおうとした。

 理由をたずねると「他の子に、あなたのエクスカリバーをにぎらせたくないからに決まってるじゃない!」と言った。

 これは全て事実だ。決して捏造ねつぞうなどではない。

 俺の記憶が正しければ、風邪かぜをひいた時には体をめられそうになったし、どこかをケガした時は、ケガの原因を破壊もしくはものにしようとしていた。

 親バカに近い? いや、お袋は俺を完全に恋愛対象だと思っているから、自分が認めた相手じゃないと殺すそうだ。

 現に、そういう呪いが今でも俺の体にかけられているのが何よりの証拠だ。


「……っていうのが、うちのお袋だ。まあ、要するに俺を愛しすぎているだけなんだけどな」


「…………」


「ん? どうした? コユリ。もしかして、俺のお袋のことが嫌いに……」


「マスターのお母様とは気が合いそうです」


「……えっ?」


「現にマスターを今すぐおそいたいと思っていますからね」


「……や、やめろ。俺は、お前を失いたくない」


「いいえ、やめません。誰かに奪われる前に私が先にあなたを奪います」


「お袋がお前を認めるとは限らないんだぞ?」


「絶対に認めさせます。ですから、私を受け入れてください」


「き、急には無理だ! 俺はまだ……!」


 コユリは俺におおかぶさると、こう言った。


「さあ、私とマスターの子どもを作りましょう」


「やめろ、俺はお前を殺したく……」


 その時、コユリは邪悪な存在の気配を察知した。


「私のナオちゃんに……いったい何をしているの?」


「そ、その声は! お袋!」


「今すぐ、ナオちゃんから離れないと……殺すわよ?」


 お袋はコユリの背後に堂々と立っていた。

 白いハチマキで両目をおおい隠し、腰まである黒髪ポニーテールは、ツヤツヤしている。

 コユリは彼女の体から放たれている、とてつもない威圧感いあつかんと殺意と憎悪ぞうおを感じ取った。

 彼女はところどころヒガンバナがえがかれている黒い着物の上に赤い帯をいており、白い足袋たびと茶色の草履ぞうりいている。

 お袋は体から邪悪な気を放ちながら、コユリに問うた。


「あなたは、ナオちゃんをどうしたいの?」


 コユリは、お袋の方を向くと、こう言った。


「私は、マスターの初めてをうばいたいです」


「お、おい! 何言ってるんだ! 殺されるぞ!」


「ナオちゃんは黙ってて」


「わ、分かった……」


「残念だけど、あなたにナオちゃんを渡すわけにはいかないわ」


「なぜですか! お母様! 私はこんなにもマスターのことを愛しているというのに!!」


「言いたいことはそれでおしまい? 会って間もないけれど、あなたからはナオちゃんとそういうことがしたいっていう気持ちしか伝わってこないわ。そんな人にナオちゃんを渡すわけにはいきません」


「ですが、お母様! 私にはマスターしかいません! マスターと一緒になれないというのなら、私はここで自害します!」


「コユリ! お前、何を言って……!」


「マスターは黙っていてください!」


「は、はい、分かりました」


「そう……どうしてもナオちゃんと結婚したいのね。だけど、ナオちゃんと結婚したいなら、私を殺せるくらいの実力がないとダメよ?」


「お母様、私はこれでも『大罪の力を持つ者』の一人です。きっとお母様とも互角に戦えると思います。なので、これから私とお母様のどちらがマスターをより愛しているかを決める戦いを始めたいと思います」


「小娘が……調子に乗るな!!」


 二人が、お互いの顔面めがけてこぶしをぶつけようとしたその時……俺は、二人の間に両手を広げて割って入った。


「もうやめろよ! 二人とも! どっちが俺をより愛しているかを決める戦いなんてするなよ! 俺は二人が傷つけ合うところを見たくないんだよ! だから、もうやめてくれ! じゃないと、俺は……!」


 俺は両手で顔を隠すと涙が出るのをこらえながら、その場に両膝をついた。

 その直後、そんな俺を二人はそっと抱きしめてくれた。


「ナオちゃん、ごめんね。久しぶりに会ったのに悲しい思いをさせてしまって。私は母親失格ね」


「マスター……私が間違っていました。反省します。だから、もう泣かないでください」


「もう、いいんだよ。そんなことは。俺は……二人が争うのを見たくないだけ……だから」


「もう、ナオちゃんは心配性ね」


「まったくです。できればもう少し、堂々としていてほしいです」


「……それじゃあ、まずは、お友達から始めましょうか。コユリちゃん」


「はい、お母様。これからよろしくお願いします」


「じゃあね、ナオちゃん。たまには田舎に帰ってきていいのよ? あなたは私のたった一人の大事な息子なんだから」


「うん……分かった。またね『お母さん』」


 俺は涙をくとニコリと笑いながら、そう言った。


「またね、私のいとしのナオちゃん……」


 お袋は優しい笑みを浮かべながら、いくつもの小さな白い光の粒となって消えた。

 俺はコユリの両手を優しくはらいながら立ち上がると、コユリの方に目をやった。


「コユリ、俺は少しねむくなった。だから、その」


 俺が最後まで言い終わる前にコユリは、こう言った。


「私が横で寝ててあげますから、おやすみになってください。あっ、膝枕ひざまくらの方が良かったですか?」


「いや、横で寝てくれ。今はそっちの方が、よくねむれそうだから」


「そうですか。では、そうします」


 俺たちは向かい合って横になった。

 その後、俺はコユリを抱きしめた。

 すると、俺はすぐにねむってしまった。


「ふふふ……可愛い寝顔ですね。今すぐ食べてしまいたいです」


「……お袋……また、会える……かな?」


「マスターがマザコンじゃなくて良かったです。おやすみなさい、マスター」


 コユリはナオトのひたいに優しく《キス》をすると、しばらく一緒にねむることにした。

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