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〇〇は寄り道をするそうです その15

 さて、一列横隊で賽銭箱さいせんばこの前に並んだのはいいものの、肝心のお金がないな。

 ここは金属系魔法が使えるルルに頼むとしよう。

 あー、でも、「お金を出す代わりに血を吸わせてー」とか言われそうだな……。

 俺はルルに血を吸われることを覚悟した上でルルに頼むことにした。


「じゃあ、頼むぞ。ルル」


「うん、いいよ。それじゃあ、その代わりに……」


「ああ、分かってるよ。けど、せめて俺が死なない程度にしてくれよ?」


「うん、分かった。じゃあ、あとで、いっぱい吸わせてねー。それじゃあ、いくよー!」


 ルルはそう言うと、右手から一枚ずつ違う硬貨を出し始めた。


「あー、その……一人一枚でいいぞ。そんなにたくさん出さなくても……」


 ルルは、こちらに笑みを浮かべながら、こう言った。


「せっかくだから、この世界の硬貨の種類を教えようと思ったんだけど、ダメかなー?」


 そう言うと、ルルは首を傾げた。

 そういえばこの先、お金は自分たちでかせいでいこうって言ったのは俺だったな……。


「じゃあ、よろしく頼む」


「うん、分かった。それじゃあ、説明するよー」


 ルル(白魔女)の右手には硬貨が九枚あった。

 銅貨と銀貨と金貨はなんとなく予想していたが、一番小さな銀貨らしきものに違和感を覚えた。


「ルル、この一番小さい銀貨のような物はなんだ?」


「それを今から説明するから、ちゃーんといててねー」


「分かった。じゃあ、よろしく頼むぞ」


「任せてー」


 ルルはそう言うとせきばらいをした。


「それじゃあ、始めるよー。題して『ルルちゃんの硬貨説明会』だよー」


 その場にいる全員が賽銭箱さいせんばこの前で正座をすると、空気を読んで拍手をした。


「それじゃあ、始めるよー」


「おう」


「えーっと、まず一番小さい銀色の硬貨は【鑢貨りょか】。つまり、一円だよー。次に茶色の【小銅貨】は五円だよー。で、それより一回り大きいのは【銅貨】。つまり、十円だよー。それから……」


 説明を続けているルルには悪いが、ここから少しの間、俺が説明する。

 最初の【鑢貨りょか】(一円)以外は『小』が付くか付かないで金額が決まる。


【小銅貨】(五円)【銅貨】(十円)


【小銀貨】(五十円)【銀貨】(百円)


【小金貨】(五百円)【金貨】(千円)


 ここまではいいが、これでは最高金額が千円になってしまうな。

 では、ここからはルルに説明してもらおう。


「それで、もっと上の値を扱えないのか考えていた時に【白金貨はっきんか】……つまり、五千円と【王金貨おうきんか】……つまり、一万円が作られたから問題は解決したよー。はい、これでこの世界の硬貨の説明は終わりだよー。ご静聴せいちょうありがとうございましたー」


 ルルは一礼をした後、俺に「約束は守ってねー」という意味が含まれているウインクをした。

 俺は苦笑いをしながら、拍手をした。

 全員の拍手が自然に止むと、一列横隊になった。

 その後【王金貨】をそれぞれが持つとすべり込ませるように賽銭箱さいせんばこの中に入れた。

 その後、俺は鈴緒すずのおを揺らした。

 すると、ガランガランと鈴の音が鳴った。

 俺たちは頭を深く二度下げると、二回手を合わせた。

 このあと、叶えてほしいことを神さまに伝えるのだが、最後にもう一度深く頭を下げなければならない。この一連の動きを世間では『二礼二拍手一礼にれいにはくしゅいちれい』という。

食糧しょくりょうが手に入りますように』という願い事を神様に伝えたため、これでここでの目的は達成された。

 なんか忘れているような気がするけど、まあいいか。さっさとアパートに帰ろう。

 俺が左右にいる全員の顔を見た時、それぞれの願い事が聞こえてきた。


「ナオトさんとの旅が続きますように!」


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)。


「ナオトが私のものになりますように!」


 シズク(ドッペルゲンガー)。


「ご主人とずっと旅ができますように」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)。


「ナオトの血を今すぐ吸いたいなー」


 ルル(白魔女)。


「…………………………………………………………」


 俺は、みんなの願い事を聞かなかったことにすることにした。

 その直後、俺はアパートを出発する前に見た夢の中に出てきた『石』がこの神社にあるかもしれないと思ったため、『狐の巫女みこ』をウーちゃん(おおかみ)の背中に乗せると、その場から急いで離れた。

 その直後、ウーちゃんは静かに彼の後を追い始めた。


 *


 夢で見たその風景と、俺が今見ている風景は完全に一致した。

 伏見ふしみ……じゃなくて『不死身稲荷(いなり)大社』は俺がいた世界に今も存在している『伏見稲荷神社』によく似ていたからである。

 それに『千本鳥居』と『狐の像』もあったから、ほぼ間違いないだろう。

 それが正しければ、俺の目の前にある【封印石】はおそらく『おもかる石』をモチーフにしていると考えられる。

 夢の通りだと、この石には世界の『希望』にも『絶望』にもなり得る力が封印されているはずだ。

 この石が俺の夢を通してそれを伝えてきたということは、俺にその力を手に入れてほしいからだと思う。

 まあ、うまくいくかは分からないがやれるだけのことはやってみよう。

 俺は全員が到着する前に、その石の横にあった立て札を見た。

 やっぱり立て札に書かれている文字も夢の通りか。さて、誰かにうっかり取られそうなこの石に触れると、どうなるのかな?

 ウーちゃん(狼)が見守る中、俺は【封印石】に触れた。

 すると、上半分が黒く下半分が白い謎の球体が出現した。

 それは、その境目で半分に割れるとパ〇クマンのように俺を食おうとした。

 俺は咄嗟とっさくさりを使おうとしたが、数時間前の戦闘で使ったせいか、まったく使えなくなっていた。

 次に逃走をこころみたが、その時にはもう俺はそれに食われていた。

 最後に見たのは『狐の巫女みこ』を置いて俺を助けようとこちらに走ってくるウーちゃん(オオカミ)の姿と涙目で俺がいる方に全力疾走している他のみんなの姿だった……。

 覚悟が足りなかったのかな? でもまあ、どっちにしろ、ここで俺は強制終了(ゲームオーバー)……だな。

 俺は目の前が真っ暗になるまで、その光景を見続けていた。


 *


 ……俺は今『シュレディンガーの猫』と同じような状態になっているかもしれない。

 なぜかって? それは謎の球体に食われてしまったせいで、生きているのか死んでいるのかすら分からない状態に置かれているからだ。

 だが、こうして何かを考えられているということは脳は正常に機能しているということになる。

 自分はまだ生きているのかもしれないと思った瞬間、俺は目を開いた。

 俺が目にしたのは、どこまでも続く『白い空間』がだった。

 その直後、俺は自分が横になっているのに気づいた。

 また、そんな俺の前に笑顔でおおかぶさっている存在がいることにも気づいた。


「こんにちは! 私は黄竜こうりゅう麒麟きりんいんようを取り込んで誕生したけど、ちょっと前に暴走しちゃったせいでばつとして、ここに封印された『イリュウ』だよ! よろしくね!」


「……は? 何それチートじゃん。勝てる気しないわー。というか、とりあえずどいてくれないか? この体勢は、さすがに……」


「ねえ、キスしていい?」


「ん? あ、ああ……はあ!?」


 俺は初対面の相手にそんなことを言われたため、思わず驚嘆きょうたんの声を上げてしまった。

 まあ、銀色のひとみと金髪ツインテールが特徴的で白い半袖Tシャツと黒いスカートをまとっている少女にそんなことを言われたら、誰でも似たような反応するよな。

 俺は自分で納得したあと、その子にこうたずねた。


「それは、どうしてだ? 俺と契約でもしたいのか?」


 その子はニコッと笑うと、こう言った。


「うん、そうだよ! これからは私があなたの一部になるんだから当然でしょ? それじゃあ、さっそく」


 俺はいきなり顔を近づけてきたその子の顔を両手で止めながら、こう言った。


「俺の『初めての接吻(ファースト・キス)』は好きな人に捧げるって決めてるから、俺にキスをするのはやめてくれ! そ、その代わり、お前の名前を考えてやるから!」


 その子はキョトンとした顔で、こう言った。


「私には『イリュウ』って名前があるから別にいいよ」


「それは黄竜こうりゅう麒麟きりんいんようを合わせた名前なんだろ? 俺がそれより可愛い名前をつけてやるよ」


『イリュウ』は目を閉じると、少し考えた。


「うーん、まあ、この名前は仮名だったから、その機会にもっと可愛い名前をつけてもらおうかな」


 俺は心の中でガッツポーズをとった。


「ふっふっふ……安心しろ! 実はもう考えてあるんだ!」


「へえー、そうなんだー。聞かせて、聞かせてー」


「おう!」


 なんかサナエ(『暗黒楽園(ダークネスパラダイス)』のぬし)の時と似てるな。

 まあ、それはいいとして……本当にこの名前でいいのだろうか? 名前を考えるのには慣れてきたが、正直、自信はない。

 たまに、もっといい名前があったのではないか? と少しやり切れなかった感が不意に生まれる時があるからだ。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。自分がいいと思った名前をこの子に伝えることが今の俺にできる唯一ゆいいつのことなのだから!


「……コホン、お前の名前は今から……」


「……今から?」


 俺は、それを言う前に深呼吸をした。


「……ゴッドの方の『神』と鈴のの『鈴』という字を合わせて【神鈴かりん】。それが今から、お前の名前だ。どうだ? 気に入ったか?」


 その子は、首を傾げた。


「名前の由来は?」


「まず『黄竜こうりゅう』と『麒麟きりん』と『いん』と『よう』の力を合わせた存在なんて聞いたことなかったから、その神々しさを表現してみた」


「うんうん! それでそれで!」


「次に、お前の目と髪と服の色を漢字にすると、銀、金、黒、白。これを見て俺は全て金属に表せられると思った。それぞれ銀、金、黒鉄くろがね白金はっきんにな」


「うんうん!」


「あとは、金偏かねへんが付いている漢字で、邪気じゃきはらうという意味があって、なおかつ可愛らしい名前がいいなって思ったから『すず』と書いてりんにした」


「うんうん! うんうん!」


「以上が『神鈴かりん』の名前の由来だ。何か質問はないか?」


「ありがとうー! とっても嬉しいよー!」


 彼女がいきなり抱きついてきたため、俺は少し驚いたが、俺が付けた名前を気に入ってくれたということは分かった。


「これからよろしくな。【カリン】」


「うん! これからよろしくね! ナオト!」


「ん? 俺の名前、教えたっけ?」


「あー、えっとねー、私は見ただけで今の私に必要な他者の情報を知ることができるんだよ! すごいでしょー。私の頭をナデナデしてもいいよー!」


「よしよし、カリンはすごいなー」


「えへへー、ほめられたー」


 こうして、俺はカリンと契約したのであった……。

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