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〇〇は寄り道をするそうです その14

 ____俺は夢を見ていた。それは、お袋の目がお袋の目ではなくなる以前のものだった。

 鉄が焼けるにおいと人の死体からただようなんとも言えない香りと滅びかけの町の匂い。

 俺のお袋と親父おやじ、そして先生アイは、かつて俺のいた世界で起こった残酷ざんこくな戦争に参加していた。

 ____『第三次世界大戦』。

 それは西暦せいれき二×××年八月十二日に起こった戦争である。

 それはタイムマシンを巡っての争いではなく、どの国が一番強いのか検証してみよう! というバカげた理由で始まったこの戦争は歴史史上最短で終結した。

 その時間は……三十分。歴史史上最短の戦争といえば、千八百九十六年(明治二十七年)八月二十七日にイギリスで起きた『ザンバジル戦争』の三十八分。

 それより八分も早く終結したこの戦争は、それの影響で……つまり、早く決着がついてしまったせいで誰の記憶にも残らないと思われたが、逆に全人類を恐怖のどん底に突き落とすことになった。

 この戦争は(のち)にこう呼ばれるようになる。


地獄へ誘う三十分戦争カタストロフィ・ウォー


 ちなみに、この戦争の(あと)に生き残ったものは書類上では三人しか存在しないし、戦争が起こった本当の理由はいまだに分かっていない。

 その三人というのが、お袋と親父おやじ先生アイだ。

 俺はその戦争が終わった直後に、その場所で生まれた。

 だから、俺がお袋の腹から出て初めて見たものは戦地というわけだ。(先生アイは戦争が終わるとすぐに帰ったため、この頃の俺を知らない)

 ちなみに親父おやじは俺が誕生してから数年後に遠くに行ってしまった。

 そして、お袋はその戦争で力を使った代償として、力の持ち主の目と自分の目を入れ替えられてしまった。

 見た(もの)を死に追いやるその目は、なぜか俺には効かなかったため、お袋は俺の前では目隠しをしていなかった。

 その目は目隠しをしていても狙撃手スナイパーを逆に撃ち殺せるぐらい見えていたため、生活に支障はなかった。

 だが、お袋の身長は小学四年生の春に測った【百三十センチ】のままだった。

 俺が小・中学校を卒業する時、保護者席に座っていたお袋は確実に俺の妹だと思われていただろう。(あの戦争で戦っている時、三人は【心技体】とすみで書かれた仮面を付けていたため、三人が戦争に参加していたことはバレていない)

 まあ『あの高校』に入学して、先生アイと出会うことになるとは思いもしなかったけどな。

 ……って、妙にリアルな夢だな……。

 誰かが俺にイタズラ……って、こんな面倒なことするやついるのかな?

 でも、自分が忘れかけていた記憶を呼び覚ましてくれたことには一応、感謝しておくよ。

 誰かは知らないけど、ありがとな。

 さて、そろそろ起きるか。

 こうして、俺は目覚めたのであった。(今まで昼寝をしていた)


 *


 ____お、重い。えーっと、とりあえずこの状況をなんとかしよう。

 俺は自分の体に身をゆだねている、チエミ(体長十五センチほどの妖精)とシズク(ドッペルゲンガー)とルル(白魔女)と『黒影を操る狼(ダークウルフ)』とミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)をどかすと、全員にデコピンをした。


「全員、起きろおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は全員の頭にひびくぐらいの声で叫んだ。


「血をくれー」


 その後、そんなことを言いながら、こちらにトコトコと歩いてきたルルは俺の足に抱きついた。


「おいおい、今起きたばっかりの俺に血を求めるのか? お前は」


 ルルはいつもと変わらない棒読みで、こう言った。


「お腹が空いて力が出ないー」


「おい、ア○パンマンのセリフを言うな」


「そんな細かいことを言うナオトは、闇の炎に抱かれて」


「元ネタはテ○ルズオブデスティニーⅡのジ○ーダスのセリフの一部だってことを知った上で言ってるか?」


「そんなの知らなーい」


「……そうか」


「……とにかく血をくれー」


「みんなを起こしたら考えてやらんこともないぞ」


 ルルはベシッと敬礼をした後。


「了解でありますー」


 少しだけやる気のある声を出した。

 その後、みんなを起こし始めた。

 やれやれ、ミノリ(吸血鬼)よりも吸血衝動がひどいな、ルルは。(ルルは吸血鬼と白魔女のハーフ)

 十秒後、なぜかみんなは、一列横隊で俺の前に集まった。


「……よし、全員起きたな。じゃあ、今からお参りに行くぞ」


「いやあ、ナオトさんと一緒に行けるとは思っていませんでした」


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)。


「ナオトと一緒! ナオトと一緒!」


 シズク(ドッペルゲンガー)。


「血をくれー」


 ルル(白魔女)。


「僕とご主人の初デートだね」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)。


「では、我はそこの『きつねの像』に寄りかかった状態で眠っている『狐の巫女みこ』を監視するとしよう」


黒影を操る狼(ダークウルフ)』。


「そうか。じゃあ、そいつのこと頼んだぞ」


「……承知」


 さてと、これでやっとお参りができるな。

 戦闘せんとうと昼寝でだいぶ時間が経ったから、アパートで留守番をしているミノリ(吸血鬼)たちが心配してるかもしれないな。

 その時、アパートの二階の部屋のお茶の間でそわそわしていたミノリ(吸血鬼)は「ヘクチッ!」と可愛くクシャミをした。

 俺は荷物を背負ってから賽銭さいせん箱がある方を向くと、ウーちゃん(狼)がその場にちゃんと残っていることを確認してから歩き始めた。(ウーちゃんという名前はシズクがつけた)


 *


「……つまんない! つまんない! つまんない! つまんなああああああああい!!」


 床に横になった直後、ゴロゴロと転がり始めたミノリ(吸血鬼)に対して、コユリ(本物の天使)はこう言った。


「うるさいですよ、アホ吸血鬼。もう少し静かにしてください。それとも、あなたにはそんな知能もないのですか?」


 すると、ミノリ(吸血鬼)は床に座った状態で『罪と罰』を読んでいるコユリ(本物の天使)の近くで頬杖をつきながら、こう言った。


「だってー、ナオトたちがまだ帰ってこないんだもん! ひますぎて頭がどうにかなりそうよ!」


「元から頭がおかしいあなたには、関係ないと思いますが……」


「ちょっと、それどういう意味よ!」


「いえ、口が滑っただけですから忘れてください」


「そう、ならいいわ。今度からは気をつけるのよ?」


「はい、わかりました」


 チョロイな、この吸血鬼。


「でも、もうお昼よ? さすがに遅すぎない?」


「あなたは私たちの中で一番、マスターといる時間が長いですよね?」


「ま、まあ、それはそうだけど……」


「なら、もう少し待ってみてはどうですか? 今までマスターがここに帰ってこなかったことなど一度もないのですから……」


「うーん、でもまあ、たしかにあいつは無茶ばかりするけど必ず帰ってくるものね。たまにはいいこと言うじゃない、コユリ」


「……あまり呼ばないでください」


「……え?」


「あまり名前で呼ばないでくださいと言ったのです。銀髪天使の方がしっくりきますので」


「そ、そう。あんたがそれでいいのなら、そうするわ。じゃあ、私は少し寝るからナオトたちが帰ってきたら起こしてね? 銀髪天使」


「……私がそれを実行する保証はありませんが、マスターがあなたを必要としているのは確かなので、その時は叩き起こします」


「あっ、そう。じゃあ、おやすみ」


「はい、そして二度と起きないでください」


「あたしはちゃんと起きるわよ! おやすみ!」


 ミノリはそう言うと、すぐに寝息をたて始めた。

 コユリはミノリが寝たのを確認すると本を閉じた。

 その後、トタトタとどこかに走っていった。

 数秒後、彼女は毛布を持ってきた。

 そして、それをそっとミノリのおなかに置いた。

 その様子を自分の真後ろで、こっそり見ていたシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)に気づくと、ゆっくりと振り向いた。

 その後、シオリの頭を撫でると、自分のくちびるに人差し指を当てながら、こう言った。


「この事は、私たちだけの秘密ですよ?」


 真顔でそう言われたせいか、シオリはキョトンとした顔でこう言った。


「うん、わかった。コユリお姉ちゃんがそうしたいなら、私はそうするよ」


「そう、いい子ね」


「……でも、実はコユリお姉ちゃんもナオ兄たちのことが心配なんでしょう?」


「まあ、そうではないと言ったらうそになりますね」


「じゃあ、なんでミノリお姉ちゃんに本当のこと言わないの?」


「バカに私の気持ちは理解できませんから話しても無駄かと思いまして」


「ミノリお姉ちゃんはバカじゃないよ。いつもみんなのことを一番に考えてくれる頼りになるお姉ちゃんだよ」


「……でも、その甘さがいつか命取りになるかもしれません」


「だから、わざとミノリお姉ちゃんに厳しくするの?」


「……さて、それはどうでしょう」


 その時、シオリのお腹が鳴った。


「……おやつ食べる。コユリお姉ちゃんもどう?」


「私はいいです。ここでマスターを待ちますので」


「……分かった。それじゃあ、おやつ食べてくる」


「はい、いってらっしゃい」


 シオリは「今日は、ヤ○グドーナツにしよー」と言いながら、トタトタと台所に行ってしまった。

 コユリは先ほど座っていた場所に座ると『罪と罰』の続きを読み始めた。

 早く帰ってきてくださいね、マスター。

 それがコユリの小さな願いであった……。

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