〇〇は寄り道をするそうです その11
俺は【チロコ】をおんぶすると、シズク(ドッペルゲンガー)とチエミ(体長十五センチほどの妖精)がいる『狐の像』の方に向かった。
「おーい、だいじょ……って、なんで二人とも寝てるんだよ。というか、よくあんな状況下で寝られるな。まったく、幸せそうな顔しやがって」
俺はその場に屈むと、二人の頭を撫でてやった。
すると、二人ともさらに幸せそうな顔になった。
そんな無邪気な笑顔を見た俺も微笑んでいたかもしれないが、鏡がなかったため確かめようがなかった。
さてと、ルル(白魔女)と『黒影を操る狼』を待つとするか……。
俺は気持ち良さそうに眠っている【チロコ】を地面に置くと、一緒に横になろうとした。
「ナオトー、生きてるー?」
「大事ないか? 我が主よ」
しかし、俺の背後にルルと狼がいたため、それを断念せざるを得なかった。
俺は溜め息を吐きそうになったが、ぐっと堪えた。
その後【チロコ】を『狐の像』に、もたれかからせると、ルルと狼を見ながら、こう言った。
「よう、『狩人』たちは、どうにかなったのか?」
ルルは、Vサインをしながら、こう言った。
「楽勝だったよー」
オオカミは鼻息をムフーと出しながら、こう言った。
「ふん、あの程度では我らの相手にもならん」
「そうか、そうか。まあ、お前らが無事でよかったよ。ん? もしかして俺のリュック、ここまで運んできてくれたのか?」
「うん、そうだよー。はい、どうぞー」
「相変わらず棒読みだな、お前は」
「えー、そうかなー?」
「あはははは、ルルは面白いなー」
俺はクスクスと笑いながら、ルルが背中に背負っていた黒いリュックを受け取った。
うん、中身も無事のようだな。良かった良かった。さてと、そろそろ本来の目的を果たすとするか。
「それじゃあ、さっさとお参りして帰るか」
「そうだねー。んー? ナオトー、その子はー?」
「ん? あー、こいつか。こいつは新しい家族になる【チロコ】だ」
「へえー、ちなみに、その子の名前の由来はー?」
「えーっと、『チートでロリ巨乳だった狐の巫女』だ」
「へえー、そうなんだー。でも一応、その子にそれでいいのかどうかを訊いておいた方がいいよー」
「そうだな……。けど、今のはあくまでも候補だから、帰ったらちゃんと二人で考えるよ」
「うん、それでいいと思うよー」
「そうか……。じゃあ、行くか」
「そだねー」
「うむ、では行こう」
お参りが済んだら、あとはアパートに帰るだけ。サクッと済ませて、新しい家族と一緒に帰ろう……。
____だが、そう上手くはいかなかった……。
俺が賽銭箱の方に歩き出そうとした瞬間、心臓から全身にかけて針を刺されたかのような激痛が駆け巡ったからだ。
俺は右手で心臓を押さえながら、仰向けで倒れた。
ルルと狼と先程まで眠っていたシズクとチエミが異変に気付き、俺を円で囲むように移動した。
「くそ! いきなり何なんだよ! この痛みは! さっきまでなんともなかったのに!」
心臓を右手で押さえながら、片目を半開きにし、歯をくいしばる俺の姿を見たみんなは、それぞれが不安そうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。
「これは副作用かもしれないねー」
ルルがそんな事を言うと、シズクがルルに問うた。
「ルルお姉ちゃん。それって、どういうこと?」
「うーん、これはおそらく、さっきの紫色の水晶の鎧を纏ったせいだと思うよー」
「私はちょっと疲れて寝てたから見てないけど、ナオトはそれのせいで、こんなに苦しそうなの?」
「たぶんねー。それにしても痛そうだねー」
「ルルお姉ちゃん! のんきなこと言ってる場合じゃないよ! 早く助けなきゃ!」
「……じゃあ、キスでもしてみるかなー」
『……え?』
ルル以外の全員が、そう言った。
「ちょ、ちょっと待って! 今なんて言ったの?」
シズクが代表してルルに訊くと、ルルはこう言った。
「何って【キス】だよー。ほら、ヘビに噛まれたらするでしょー。あと、人工呼吸の時とかー」
「そ、それ以外の方法はないの?」
「じゃあ、白魔女と吸血鬼のハーフである私がナオトの余分な物を吸い出してあげようかなー」
気持ちの悪い手の動かし方をしながら、ナオトに触れようとするルルをシズクが止めた。
「それはダメー!」
ルルは残念そうな顔をしながら腕を組むと、首を傾げながら、他にいい方法がないか模索していた。
しかし、その直後『主人を守る銀の甲羅』(今までナオトのズボンのポケットにあった)が白い光を放ちながら、クルクルと空中で回転し始めた。
数秒後、それにひびが入ると卵が孵化するかのように、パッカーンと割れた。
すると、何者かが出現した。
「まったく、やっぱりご主人に持たせておいて正解だったね。危うく、また深い眠りにつかないといけなくなるところだったよ」
直径五センチ程の銀の甲羅があった場所から出現したのは白いTシャツと水色のショートパンツを着た小柄な少女……ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)であった。
「ミ、ミサキお姉ちゃん! どうしてここに?」
シズクが目をパチクリさせながら訊くと、ミサキはポケットに手を突っ込んだまま、こう言った。
「まあ、いろいろ質問はあると思うけど、ザックリ言うと保険だね」
「と言いますと?」
チエミ(体長十五センチほどの妖精)が首を傾げながら、ミサキに訊ねた。
「ご主人に渡した甲羅は、ご主人の命に関わる何かが起こった時、強制的に僕を呼び出せる物なんだよ」
「それでー?」
ルル(白魔女)が知りたげな声で言ったので、ミサキは仕方なく伝えなくてもいいことを伝えることにした。
「そのもしもが起きてしまったから、僕はここにいるんだよ。さて、それじゃあ、早速、ご主人の体を調べようか」
ミサキはそう言うと、クルリと反転した。
その後、苦しそうに悶えているナオトの近くに、しゃがみ込んだ。
ミサキは目を閉じてから、両手をナオトの右手に置くと何かを言い始めた。
「ご主人の中にいる悪しき者よ、『四聖獣』の一体であるミサキの名において命じる! 今すぐ、ご主人の体から出て行け! それでもなお、居座るのなら、この者の体ごと喰らい尽くすぞ! さあ、出てこい! 諸悪の根源!!」
その時、心臓を苦しそうに押さえていたナオトの意識が何者かと入れ替わった。
「……はじめまして……だな……」
ミサキ以外の全員が、その声に敵意を向けた。
ミサキは静かに深呼吸すると、こう言った。
「はじめまして僕の名前はミサキっていうんだ。というか、早くご主人の体を返してくれないかな? じゃないと、いろいろ困るんだよ」
そいつは横になったまま、こう言った。
「それはできん。こやつはお前たちを助けるためなら目でも足でもくれてやると言った。だから、今回の覚醒を機に、こやつの心臓をいただくことにした」
その後、ミサキが左腕を真横に出して全員に「来るな!」と合図をしながら、こう言った。
「そう……それで、ご主人は今どこにいるんだい?」
「その前に自己紹介をしておこう。我が真名はアメシスト・ドレッドノート。二月の誕生石である。石言葉は誠実・心の平和・高貴・愛情、そして……」
「……覚醒……でしょ?」
「その通り。我ら誕生石は所有者に石言葉のどれかを与える代わりに、体の一部をいただくことになっている。これは、どうやっても避けようのない運命だ。だから、もう諦めろ」
「なら、君を破壊した場合、ご主人はどうなるんだい?」
「こやつは死ぬ。確実にな」
「……君は、その事をご主人に言ったのかい?」
「言っても結果は変わらんさ。こやつは他人のためなら、なんでもする筋金入りのお人好しだからな」
「……それは確かにそうだけど、それを利用した君を僕は絶対に許さない」
「ほう、何か手でもあるのか? 小娘」
「もちろんあるよ。それはね……」
ミサキはナオトの心臓に両手を置くと、何かを言い始めた。
「悪しき力よ、我が名において命じる。この者と平等の契約を結べ。もし、しないのなら我が力で永久に封印する。さあ、決断の時だ! 答えろ! アメシスト・ドレッドノート!!」
数秒後、そいつはゆっくりと口を開いた。
「……ふん、面白い。その勇気と行動に免じて、こやつの心臓は取らずにおいてやろう。あと、我が生きている限り、こやつの体の一部を奪わないという契約を結んでおいたぞ。しかし、我とこやつは、一心同体。どちらかが死ねば、もう片方も死ぬ。その事を忘れるな」
「もちろんだよ。さあ、早くご主人を返せ」
「よかろう。では、またな『四聖獣』の一体」
そいつがナオトから離れた後、ミサキはこう呟いた。
「できれば、もう二度と会いたくないよ」
ミサキはまだ意識が戻らないナオトの傍らで、チエミ(体長十五センチほどの妖精)とシズク(ドッペルゲンガー)とルル(白魔女)と『黒影を操る狼』と共に、彼が目覚めるのを待つことにした。